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11.遅れてきた手紙

 シルヴィオが配属された、リンショウ王国海兵第一師団海兵隊第八部隊の練兵場は首都シウホより南東にある。第八部隊の隊長エイナル・ベックマンはシルヴィオの腕を買っていた。筋はいいが、経験不足なのは否めない。ここは戦場になっている南方諸島に近いので、予備軍とはいえ救援に出る可能性がある。訓練に手は抜けなかった。

「お前は短剣の扱いには慣れているようだが、長剣はあまり得意ではないな。だが両方使えるのに越したことはないぞ! そらもう一本だ、来い!!」

 木製の剣での稽古や筋トレ、海での泳ぎの練習などの後、炊事洗濯掃除も全て兵自身で行う厳しい生活は、すべて戦場で生き延びるための訓練だ。第八部隊では最年少のシルヴィオだが、特別扱いはされない。

 細身だが、必要な筋肉は鍛えられて体が締まってきていた。

 シャワーの後、ロッカーで着替えていると、隊長から数通の手紙を渡された。

 同期のハインツ ・イサクションがおどけて手紙を覗き込む。

「おやおや、ママからお手紙?」

「違うよ」

「じゃぁ女か〜!?」

「あの人は僕のこと、弟だと思ってる」

「姉ちゃんかよ」

「違う。大事な人」

「なんかよくワカンねぇけど、みせろ」

「嫌だ」

 ライラからの手紙が五通、まとめてきた。日付をみると三ヶ月くらい間が空いてそれぞれ送られてきていたようだ。最新の日付の手紙の文末は、返事くらいよこせ〜と結んであった。

 後ろからこっそり手紙を覗いていたハインツが、アドバイスする。

「女にはマメなくらい手紙書かないと、ほかの男になびいていっちまうぞ」

「ライラはそんな人じゃないよ」

「ずいぶん信用してんのな? 文面からすると年上の女?」

「八つくらい上」

「おま、結構な年上好きなのな」

「……好き」

「マジかよ」


 細いランプの光を頼りに、シルヴィオはライラに返事の手紙を書いていた。

 近況といっても訓練しかしてないので特に書くことはない。心配なのは、ライラに言いよってくる奴がいないかだ。ライラは美人だし優しいからそれだけが心配だった。彼女の中で自分は弟かペットかそれ以下の存在かもしれないので、それが気にかかる。書き綴っているうちに、内容がラブレターになっていったが、シルヴィオはそれに気づかず封をした。


 翌朝、手紙を事務係に預ける。

 練兵場の朝は早い。また昨日の繰り返しだと思っていた。しかし今日は違った。隊長エイナルからこの隊への出撃命令が言い渡された。地図と位置と作戦を頭に叩き込む。任務は南方諸島における捕虜の奪還だ。

 ジャングルは慣れてる。ただ違うのは、木の実を取るのが目的じゃなく敵を殺して味方を助けること。躊躇したらダメだ。ライラを抱きしめるまで僕は死ねない。


 偵察隊が帰ってくる。捕虜は滝の裏側に閉じ込められているという情報を持ってきた。先発隊が見張りの注意を引いている間に、捕虜を救出するという、いたってシンプルな作戦だ。問題は、駐留本隊を呼ばれるとマズイということだけ。

 想定外だったのは、見張りの兵が多く、警笛で本隊を呼ばれてしまった。

 僕は捕虜救出部隊の先導係だった。とにかく道を開けなければ。

 人を斬るのに不思議と躊躇(ちゅうちょ)はなかった。その先にライラがいるなら、僕は何人だって斬り捨てる。

 長剣を絡め取られてしまった。大丈夫。まだ短剣がある。

 海岸までついた。水しぶきで敵の目を狙う。そして懐に飛び込んでまた一人殺す。

 人間の肌は脆い。人間に近づけている僕の肌も脆い。肌が熱いのは、刃のせいなのか太陽熱のせいなのかわからなくなってきた。

 敵が前から、どんどん湧いてくる。キリがない。血糊で短剣も切れ味が悪くなってきた。

 こんなところで死ねない。ライラ、待ってて。

 シルヴィオの体が銀色の光に包まれる。

 体の質量が変化するのをシルヴィオは感じていた。脆かった肌は銀色水晶の鱗へ変化し、大きな一対の翼が背中から生え、首は長くしなやかに、磨り減った爪は鋭く長く伸びた。

 そして銀色の水晶竜(クリスタルドラゴン)は砂浜から羽ばたいた。前方の敵兵を吹っ飛ばす。そして上空から蒼い焔を吹き付けた。周辺の海水ごと、敵軍が蒸発する。士気を挫かれた敵軍はすでに烏合の衆だった。




 ライラは首都シウホにて、南方諸島奪還と水晶竜(クリスタルドラゴン)出現を知った。

 シルヴィオが生きてる……あぁでも、もう会えないの? シルヴィオに会いたいのに!

 その後の報がないのだ。首都は領土奪還と水晶竜(クリスタルドラゴン)の出現に湧いていた。そんな中、一通の手紙が届いた。シルヴィオからだった。日付は出撃前になっている。


 愛するライラへ

  獣医師の国際ライセンス取得したんだね、よかった。

  また一緒に旅に出ようね。

  今度は僕もお手伝いできるように、

  獣看護師と薬剤調合師の資格取るよ。

  自分で軍に志願しといてなんだけど、

  やっぱりライラがいないの、寂しい。

  すごく会いたい。抱きしめたいよ。

  ライラ、誰かに口説かれたりとかしてない?

  僕のこと、待ってて。必ずライラのもとに帰るから。

  だから、誰のものにもならないで。

  待ってて、ライラ。約束。

 シルヴィオより

 

 ライラはシルヴィオからの手紙を抱きしめた。涙が後から後から流れてくる。

 本当に困った子ね。うん、うん、待ってるから……待ってるからね──約束──。



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