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09.束の間の平和

 突然王宮に行っても会えるはずはないので、正当な手順を踏むことにする。

 まずはシャルロッテ・シェーンフェルダー王女宛に、手紙を王宮宛にしたためる。数日後、検閲されシャルロッテ王女に届くはずだ。こちらの宿名も記したので、当然衛兵による調査が入る。半月後、シャルロッテ王女からシルヴィオとライラに宛てたお茶会の招待状が届いた。指定の期日に準礼装で、招待に応じる。

 シャルロッテ王女はシルヴィオに一目惚れしたと見える。じゃなきゃ見ず知らずの人に高価なイアリングなんて渡さないもの。

 数年前、保護された時は痩せっぽっちの子供だったけれど、こうしてホウザン王国の準礼装をまとった現在のシルヴィオは、貴族然としていて上品で凛々しい。私がもうちょっと若かったら騒いでるところね。

 今回、私はおまけで招待してもらったようなものだけど、シルヴィオの姉としてキリッとしなければ!

 ライラは気を引き締めた。


 正門から、すぐに明るい中庭に通される。

 良い香りの紅茶と焼きたてのお菓子が用意されていた。侍女たちが数人控えていたが、他に招待客はいないみたいだった。

 ライラは柔らかく礼をした。シルヴィオもスッと礼をする。

「今回はお招き位預かり光栄です、シャルロッテ王女様」

「いらしてくださって、私も嬉しいわ。どうぞおかけになって」

 明るい橙色の髪の王女は、二人を椅子へ座るようにと誘った。

 シルヴィオが椅子に座る前に、王女にイアリングをお返しする。

「シルヴィオ、またお会いできて嬉しいです。お姉さまは『初めまして』ですね」

「お邪魔かと思いましたが、炎の末裔である王女様に是非お会いしたいと思い、不躾ながら同行してしまいました」

「そんな、お気になさらないで。楽になさってください」

 年の頃はシルヴィオと同じくらいだろうか、十三歳前後、クリクリとした明るい茶色の瞳が可愛らしい。

 こうしてみるとシルヴィオとお似合いだな〜。

 ライラはぼんやりそう思う。自分もシルヴィオと釣り合う年だったらよかったのにな。

 全体に明るい印象の王女だが、人間離れした雰囲気は感じない。

「各地を旅されてるとか。私、異国を旅したことがなくて。どんな場所があるのですか?」

 異国の話をせがむ王女に、シルヴィオが丁寧に答えている。

 その間に、ライラはお茶をいただく。口の中に香ばしい香りがふんわりと広がる。

 とても平和なひと時ね。久しぶりかも。

 ライラは平和をひしひしと感じた。


「これ、シャルロッテ。お客様にそんなに話をせがんではいけないよ」

 奥から四十代と思われる物腰の穏やかな男性が現れた。侍女たちが、最敬礼をするのを見て、ライラとシルヴィオを席を立って礼をした。

「お父様、大事なお話の邪魔をしないで」

「やれやれ、逆に怒られてしまった」

 ライラはまさか|ホウザン王国の王様にこんな早くお目にかかれるとは思っていなかったので、驚いていた。

「どうぞ、楽にしてくれたまえ。私も各国の情勢については気になるところでね」

「陛下のお役に立つ情報かわかりませぬが……」

 ライラが恐縮した。王が声を潜めてライラに問う。

不死鳥(フェニックス)様曰く、『最後の竜が現れた』と言うので上空を探してみたのだが──もしやこの少年か?」

 この王に隠し事はできそうにない。ライラは声を潜めて言う。

「……はい。まだ年若く、竜化には慣れていませんので、人間姿にて失礼いたします」

「リンショウ王国は知っているのか?」

「知らない……はずです。知られる前に私たちは国を出たので」

「かの国は竜を探しているはずだが?」

「捕まれば、あの子の自由はなくなってしまうと私どもは思った次第です」

「ふむ。君は獣医師だったか」

「……はい」


 水晶竜(クリスタルドラゴン)はリンショウ王国の象徴として大事にはされるだろうが、『自由』はないだろう。ホウザン王国の王もそれを危惧して押し黙った。

 オズボーン動物病院の院長はライラをつけてシルヴィオの『自由』のために逃した。ライラも、シルヴィオを国の犠牲になどさせたくはない。でもシルヴィオは何を思うのだろう。そういえば今までそれを聞いてこなかった。国の象徴として束縛された日々を選ぶだろうか。いや、ライラの知るシルヴィオの性格なら『自由』を選ぶだろう。そう思ったからこそ、こうして旅を続けている。

「ホウライ王国が不穏な動きをしているそうだ」

「?」

「そなたたちのリンショウ王国を併合しようとしているらしい。竜のいない国は敵ではないと考えているらしいが」

「私たちはまだ、ホウライ王国に行ってないのですが……」

「リンショウ王国を狙うホウライ王国と、竜を探すリンショウ王国の間者に気をつけよ」

「はい。ご忠告ありがとうございます」

 うひゃー、なんか普通に旅していたいだけなのに、国家の事情に巻き込まれそうだわ。でも竜の群れはやっぱりもうないのね。ホウザン王国の王様まで『最後の竜』って言ってた。シルヴィオの帰るところはもうない……。シルヴィオはこの先どうするんだろう。確認しなくちゃ。


 

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