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03.歪んだ愛

 ライラとシルヴィオが宮殿内の大きな庭に着くと、すでに街の人々の行列があちこちにでき、美味しい匂いが漂っていた。肉に魚に野菜に穀類に麺類とありとあらゆる食材が、王室御用達の料理人によって調理され、ご奉仕価格で一般の人々に振る舞われていた。

 宮殿のバルコニーから、新国王がお妃や親族たちとともに手を振る。

 新国王シャンタール三世が前に出て、集まった人々に挨拶をする。

「過日は即位を祝っていただき感謝します。ささやかですが、本日のこのイベントを楽しんでいただけたら幸いです。乾杯!」

 国民が一斉に乾杯に応じる。

 ライラはその様子を見て、鹿肉の蜂蜜焼きを食べながら素直な感想を言う。

「国民に慕われてる感じね、若いのに人徳者なのかしら? ん? シルヴィオ? どうしたの?」

「やっぱり聞こえる」

「何? 何か聞こえるの?」

「王宮の、裏からかな。なんかの鳴き声がする」

「そういえば、鳥を買い始めたとか言ってたよ。野鳥研究会で会った時」

「……鳥……か、そう言われてみれば、鳥の鳴き声のような気がしてきた」

 シルヴィオはそう言うと、囲いのテープを跨いで王宮内の奥へと入っってゆく。

「シルヴィオ、ここからは立ち入り禁止だよ〜」

「ライラは、ここにいて」

 ライラはシルヴィオを追いかけようとしかが、スカートに囲いのポールが引っかかって出遅れた。


 裏庭はひっそりとしている。そして悲しげに鳴く声に導かれるように、シルヴィオは宮殿裏の高い塔の下にきていた。この塔から聞こえるが、登るにも階段がない。登れそうな足掛けもない。

 その声は『助けて』と訴えているのが、シルヴィオにはわかったが、どうすることもできない。


 やっとスカートがポールから外れて、王宮内の奥へと入ったライラは、シルヴィオを探し始めた。ふと人の気配がしたので振り返ってみるとメイドらしき女性が居た。

「ここは王宮の裏庭です。表庭にお戻りください」

「はい、すみません。あの〜このくらいの少年を見ませんでしたか? 弟とはぐれてしまって」

「何歳くらいの、どんな服装の少年ですか?」

「12歳前後の、私より身長がちょっと高くて、白いシャツを着た銀髪の男の子です」

「いいえ。私は見ていませんが」

「そう、ですか。なんでも鳥が鳴いてるって言って飛び出してっちゃって」

「──鳥、ですか?」

 ここで引き下がるわけにはいかないと、ライラはなおもメイドに向かって一緒に探してもらえないか交渉していると、王宮の方から男性の声がした。

「どうしたんだね?」

 新国王シャンタール三世が2階の渡り廊下から、メイドに話しかける。

「陛下、申し訳ございません。王宮内に迷い込んだ少年がいるそうで」

「あ!」

「あぁ君は野鳥研究会で会った獣医さんだね?」

「すみません、弟とはぐれてしまって……」

 シャンタール三世は、ライラのことを覚えていた。そして『弟』の特徴を聞くと衛兵に探させようと言ってくれた。ライラはシャンタール三世の申し出に甘えることにして、王宮内で待たせてもらうことになった。


 広い王宮内の裏玄関──といってもオズボーン動物病院の正門くらいある──から、王宮内の一室に通されたライラは、シャンタール三世のペット相談を聞くことになる。

「飼い始めた鳥がなかなか懐いてくれなくてね、どうしたものか……」

「鳥の種類にもよりますが、信頼関係を築くにはやはり忍耐と時間が必要です」

「そうだろうね。でも逃げようとしてしまうのだよ」

「根気よく優しく接することだと思いますが?」

「優しくしているよ。怪我をしていてね。手当をしたんだが」

「どんな子ですか? 見せていただけますか?」

「もちろん」

 ライラはシャンタール三世の先導で螺旋階段を登り塔の最上階の質素だが清潔な部屋に案内される。そこには大きい青い鳥がいた。珍しい鳥だ。図鑑で見た(ラン)に似ている。その鳥はこちらを厳しい目でこちらを見つめていた。

(ラン)、ですか?」

「そうなんだ。美しいだろう? 怪我をしているのに逃げようとするのでね、ちょっと可哀想だがつないでるんだ」

 (ラン)は逃げようともがいたのだろう、鎖に繋がれた脚が血だらけだった。ライラはこの鳥に同情した。

「あの、何も鎖に繋がなくても、部屋の窓を閉めれば済むことでは?」

「それが、この子は器用なので、開けてしまうのだよ」

「鎖は外しましょう」

「でもそれでは逃げてしまう」

(ラン)は野鳥です。自由にしてあげるのが愛情ではありませんか?」

「この子は、不思議な子でね、信じてくれないかもしれないが、『人間に化ける』んだ」

「!?」

「こんな不思議な子を、私は手放したくないんだ!」

「……自由にさせるべきです!!」

 シャンタール三世は自分のエゴイズムをこの鳥に強要しているとライラは思った。愛があって飼っているのではないことがわかり、ライラはシャンタール三世に怒りを感じた。ライラは(ラン)の脚を縛っている鎖を解いた。

 (ラン)はすぐさま、ガラスを割って飛び立っていった。

 シャンタール三世はライラの胸ぐらを掴み狂気の目でライラを締め上げる。

「なんてことをするんだ! 飼い主は私だぞ!」

「歪んだ愛を押し付けるような者に、飼い主の資格はないわ!」

 そして高い塔の最上階からライラは落とされた。

「ライラ!」

 シルヴィオの声が聞こえる。幻聴かしら? 


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