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02.囚われの鳥

 黄金がメインカラーの、豪奢な宮殿の冷たい床に、紅い点が続いている。


「ダメじゃないか、そんな怪我で無理して飛んでは。びっくりしたよ? (ラン)を見たという市民が多数いたから。野鳥研究会にも記録が残っていたし。もしや君じゃないかと……」

 カツン、カツン、と落ち着いた足音を立てて、新国王が近づいてくる。

 彼女は身を強張らせた。数日前に射られた左腕の付け根がまだズキズキする。傷口が開いたのかもしれない。

「ジャングルで力尽きてたら、トラに食べられていたかもしれないんだよ?」

 彼女は心の中で毒づいた。

 トラに遭った方がマシだったかもしれない。

「青い美しい羽根は、今は羽衣なんだね。人間姿の君もエキゾチックで美しい。その怪我は医師に診せなきゃね。それとも獣医かな? いい加減、名を教えてくれないか?」




 シルヴィオは図書館で(ラン)について調べていた。

 準絶滅危惧種だとライラが言っていたその生き物を、シルヴィオはジャングルで見たことがなかった。調べてみると、元々はホウザン王国に生息している鳥で、渡り鳥ではない。ペットとして飼われているのか、それともそれが逃げてきたのかシルヴィオには判断がつけられなかった。

 でもってこの(ラン)には、精霊獣から生まれた鳥という伝承がある。根拠はないが、何か嫌な予感がした。

 見間違いであってほしいとシルヴィオは思った。


 野鳥研究会を出てから、シルヴィオのことが気になって図書館に来てみたライラは、ガラス越しにシルヴィオを観察した。

 なんか難しい顔してる。育ての親から『もう来てはいけない』なんて言われちゃ凹むよね。辛いこととかなんでも話してほしいな。

 などと思いながら、ライラは図書館の中に入らず外で待っていた。

 ここで長く滞在できるようなら、獣医師の国際ライセンス取得に挑戦してみようかな。堂々とどの国でも獣医さんですって名乗れるし……。


「ライラ、来てたの?」

 不意にシルヴィオに話しかけられて、ライラはびっくりした。

「あぁ、さっき来たばっかり」

「ふーん、図書館に入る?」

「ううん、今日はいい。なんか今日は冷たい麺類でも食べたい感じ。辛いのはダメだよ、シルヴィオの喉によくないんだから」

「だいぶ声、出るようになった」

「そぉ〜? まだかすれてるよ」

 ちょっと声低くなった気がする。宿も、ツインじゃなく別部屋とった方がいいのかな。着替えとかなんかやっぱ意識しちゃうし。

「そういえば、(ラン)って鳥、ホウザン王国の、定住鳥みたい。なんで、こんなところにいるんだろね」

「え? 渡り鳥じゃないんだ?」

「僕たちがみたの、違う鳥かな」

「でも野鳥研究会の記録には、ちょこっとだけどそれらしいって記してあったけど」

「野鳥研究会の人って、視力いいはずだよね」

「──のはず」


 夕食を済ませて宿に戻ると、宿屋の主人が猫を抱いて大騒ぎしていた。

 ライラがどうしたのか問うと、主人はオロオロしながら答えた。

「うちの猫が吐いちまって、どうすべ?」

 原因はいくつか考えられるので、ライラは宿屋の主人に問診しつつ、猫の状態を診た。当の猫はケロリとしている。

 どうやら毛玉を吐き出したようだが、もしもの場合もあるので、動物病院に行くようにアドバイスした。

「あんたも猫飼ってたのかい?」

「あの、いえ、国際ライセンスはないですけど、リンショウ王国の獣医なので」

「獣医さんか、ありがとよ」

 いよいよもって国際ライセンスを取ろうと、ライラは決意した。


 翌朝になって、宿の主人から一週間後に新国王が一般市民を招いての晩餐会を催すという話を聞いた。新国王御用達のシェフたちが腕をふるってちょっと小洒落た屋台を出すお祭り形式らしい。無料ではないらしいが、市民価格で皇室御用達の味が味わえると宿屋の主人が嬉しそうに教えてくれた。

「ライラ、そういえば、新国王に会ったって、言ってたよね?」

「あぁ、野鳥研究会にいたときね、ひょっこり現れたのよ。新国王ともあろう人が、あんな身軽でいいのかしら?」

「警備兵とかいなかったの?」

「馬車でちょちょ〜っと帰ってった。お忍びだったのかしら、何しに来たのかよくわかんないんだけど」

「晩餐会、行ってみよう?」

「そうね、王室御用達のお味気になるし〜あ、でもお肉とか多いと思いよ、大丈夫?」

「少しずつ、食べてみる」

「うんそれがいいよ。命に感謝して、バランスよく食べよう」




 新国王の元から逃げようとして失敗してから一週間、彼女はおとなしくしていた。縫合された傷は塞がりかけている。傷さえ治ればまた飛べる。今度はジャングルの中でもいい、森の中でもいい、とにかくここから逃げようと彼女は機会を伺っていた。

 カツン、カツンと足音が近づいてくる。この足音を聞くのも最後だと彼女は思った。

 足を掴まれる。蹴って両手で抵抗したが、それも虚しく片足を長い鎖に繋がれてしまった。ある程度の自由はあるが、宮殿の外に出ることも、この部屋を出ることも叶わない。

「君が逃げないように──私の美しい鳥」

 新国王は独占欲の強い視線で、彼女をねめつけた。

「傷はだいぶいいようだね。逃げないとわかったらこの鎖も解いてあげるよ。そんな日が来るといいのだけれど」


 

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