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14.記憶を辿る

この島で唯一の民宿を案内してもらい、滞在することにした。宿の運営をしている初老のご夫婦に、この島に変わった動物がいると聞いてやってきたことを告げるが、特に収穫はないように思えた。

「うちらは、何も変わった動物は知らんけど、あれ、下ん家の嫁さんが、ねぇあんた」

「毛の長い犬なら、ほれ、上ん家にでっかいのがいるじゃろ」

「その犬のこと『バロン』呼んじょるさー、それのことか?」

「その犬に会えますか?」

「外にいるけぇ、行ってみろ?」

 本当に犬なのか、犬と間違えられた森獅子(バロン)がつながれているのか……多分前者だと思うがライラとシルヴィオは『上ん家』に行ってみた。

 犬などどこにもいない。強いて言えば『上ん家』の入り口の両側に、大きな狛犬らしきの石像があるだけだった。

「いないね〜」

「これだよ」

「はい?」

「これ、森獅子(バロン)……」

「──ただの石像……よね? え、実は動くとかいう仕掛け?」

 シルヴィオはブンブンと首を横に振る。

「よく、ここに茶化しに、きた。森獅子(バロン)に似てるって」

 シルヴィオは記憶を辿るかのように、丈の高い草が生い茂るジャングルに入って行く。かすかにだが、獣道ができていた。その獣道をずんずんと進むシルヴィオを、ジャングル慣れしていないライラは追いかけるのに必死だった。

 どこまで進んできただろうか、すると奥で何かが動いた。その証拠に茂みの草が激しく揺れる。

 原始的な猿の一種が、上の枝から警戒の鳴き声を発するが、シルヴィオは臆することなく前進する。

 蛇とか火蟻とかを警戒して進んでいたライラは、とうとうシルヴィオを見失ってしまった。かすかに残る獣道の先にシルヴィオの姿はない。ライラは動けなくなってしまった。本能的な恐怖を覚えたのだ。猿の群れが樹上を騒がしく移動してゆく。

 どうしよう……。

 ライラは凍りついた。何がいるかわからないジャングルで、迷子になってしまった気分だ。いや本当に迷子になってしまったかもしれないのだ。鬱蒼(うっそう)とした薄暗いジャングルで、ライラはパニックになりそうだった。

 来た道を戻らなくては。でもシルヴィオをおいてゆけない。

 リスクはあるが、大声でシルヴィオの名を呼ぼうと思った矢先、脇の草が大きく揺れてシルヴィオが戻って来た。

「どこに行ってたの!」

「この先に洞窟がある。ライラ、行こう」

「も、もぅ今日は帰ろうよ……」

 ライラは泣声でシルヴィオに訴えた。初めて見せるライラの怯えた姿にシルヴィオは驚き、一旦位置を確認してからライラの肩を抱いてジャングルから出て民宿へと戻った。

 日が沈もうとしていた。


 宿に帰ると、シルヴィオが下を向いてポツリとライラに謝った。

「ごめん、不安に、させて」

「もう大丈夫。こっちこそごめんね。足手まといになるつもりはなかったんだけど。……ジャングルに慣れてないからかな、足がすくんじゃって……」

「これからは、一人にさせない」



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