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12.化ける生き物

 夕方前に、船が最初の小島の近くで停泊した。ここから浅瀬になるので大型船は入れない。小島に向けて物資を積んだ小舟が出される。エメラルドグリーンに輝く浜辺にライラは見とれた。

 するとシルヴィオが何か感じたらしく、小舟に乗り込んだ。ライラは驚く。

「え!? ここで降りたいの?」

「うん」

 ライラは急いで荷物をまとめた。船の運賃はジャクシン王国の手前の島まで払っていたが、シルヴィオがここで何か感じたなら仕方ない。ライラも、荷物を持って小舟に降りた。

 小島の砂浜で、乗って来た帆船の出航を見送る。

 こんな辺鄙で小さな島に精霊獣がいるの?

 ライラは疑わしい目でシルヴィオに視線を送った。

「探検」

「あ、うん、そうだね〜」

 まずはこの島の様子を見て回る必要があった。

「荷物、持つ」

「ありがとう」

 旅行鞄の中には着替えや携帯食料、もしもの時のための救急道具が入っている。

 砂浜をしばらく歩くと、近くに小さなコテージがいくつも建っていた。少なくとも無人ではない。熱帯地域独特の暑さも、夕方になるとだいぶ過ごしやすい。3時間くらいで島を一周できた。

 反対側は漁港になっていて、この島の人々はなんらかの形で観光業に携わっているようだ。

 ライラとシルヴィオは、観光客よろしくコテージの一つに宿泊することにした。

 コテージの窓からは夕日に染まる浜辺が見える。

 荷解きをしてから食堂へ出かけた。船内の食事とは異なり、南国の色あざやかな野菜やフルーツ満載のカラフルな夕食になった。

 バナナの煮込み料理なんて初めて!

 ライラは驚きつつ、舌鼓を打つ。美味しい。シルヴィオも楽しそうに食事をしていた。そしてコテージに帰ってシャワーを浴びる。

 夜になってシルヴィオが出かけると言い出した。

「ちょいちょい、夜遊びする年齢じゃないでしょ!」

「夜なら動物、出てくる」

「え? シルヴィオを育てた種類の?」

「ううん、そっちは昼間。でもここは夜の動物がいる」

「──私も行く」

「うん」


 夜の島はまるで別の顔を持っているようだった。時刻は0時頃……名前の知らない虫の声がする。漁港の方から畑に行ってしばらくじっとしていると、昼間見たのとは毛色の異なる猫が現れた。山猫の一種だ。一対の目が暗闇に青く光る。

 シルヴィオと山猫が見つめあっている。会話をしているようだった。

 すぐに山猫は茂みへと消えていった。

「なんていってたの?」

「ここ、精霊獣はいないみたい」

「え? シルヴィオの勘ではいると思ったから、船降りたんだよね」

「ううん、ここ、浜辺が綺麗だった、から、降りた」

 ライラはその場にしゃがみこんだ。

 てっきりシルヴィオの野生の勘が働いて……もしかしたら? と思ったのに〜。

「なんじゃそりゃ〜」

 まぁでも食べ物美味しいし、風景は綺麗だからよしとしよう。

「育ててくれた、親、多分、移動してる」

 つまり定住しているわけではないということなのかな?

 確かに野生動物は、いくつかの縄張りを転々とする種類はいる。シルヴィオを育てた精霊獣・森獅子(バロン)もおそらく縄張りを移動して生きるタイプなのだろう。


 こりゃ私たちもこの島から転々と旅をすることになりそうね。この先野宿もありえそぅ……。

 こんなことならサバイバル術を身につけておくんだった。

 野生で食べられるキノコや草の種類とか──図書館とかあれば、付け焼き刃になるけど勉強はできる。

 そう思った時、ハッとライラは気づいてシルヴィオを見た。

 生き字引がここにいるじゃないか!

 サバイバルになったら、頼らせてもらおう。

 などとライラは頭の中で考えを巡らせた。ともあれ、精霊獣に会える可能性は低い旅にはなりそうだと腹を据えた。


 明朝の夜明け、ライラが目覚めるとまたシルヴィオがいない。

 徘徊癖があるのかしら?

 ライラは着替えもせずに急いで外に出た。ここはリゾート地で怖い動物はいないみたいだけれど、実は一番怖い動物は『人間』だったりする。シルヴィオは美少年だから、人さらいに遭うかもしれない。

 ライラは、コテージを回って左右を見渡す。するとシルヴィオが浅瀬に浸かって立っていた。

 海水をくすって鼻を近づけている。

 何をしているんだろ?

「シルヴィオ?」

「ラ……ゴホゴホッ」

「海水飲んじゃったの?」

「違うよ」

 シルヴィオの声がかすれている。風邪でも引いたのだろうかとライラが近寄ると、シルヴィオは喉の調子が悪いように首をさすった。そして相変わらずかすれた声で言う。

「海水、の、匂い……多分この先、に、『彼ら』がいる」

「彼?」

「僕を、育ててくれた……」

「どんな動物なの? 『彼ら』は泳げるの?」

「白い、長いたてがみの、四つ脚の。ゴホ、大きな口。紅い顔の大きな動物。泳げる」

 以前にも同じ質問をしたっけ。

 ライラはシルヴィオの説明が、以前よりも少しだけ具体的になっていることに気づく。

 精霊獣・森獅子(バロン)──そんな動物がこの先の島にいるのだろうか。今泊まっている小島はリゾート地になっているがこの先の、ここから見える島影ではかなり大きめの島だが、人間に見つからずに生息しているというのか、ライラは疑問を持った。

「ゴボゴホッ、牙、鋭い。ココヤシの実食べる。でもココヤシの実、採る時、人間」

 なおも堰を切ったように掠れた声で、シルヴィオが言った言葉にライラはまたしても疑問が深くなった。

 『ココヤシの実を採るときは人間』とはどうゆうこと?

「その時は、ゴッホゴホ、人語、発音する。人間のふりする。木登り、うまい」

 この熱帯地域では浜辺だけではなく農業としてココヤシが栽培されているらしい。この島にもあるけど、多分シルヴィオが示すあの島ではおそらく栽培されているのかもしれない。そして……森獅子(バロン)は木登り名人……ライラはいよいよもって混乱した。

 森獅子(バロン)が人間に化ける?

 ライラは子供の頃、狐や狸が人間に化けると聞いたことはあるが、あれは迷信だった。獣医師になって狐や狸が人間に化けるなんてことはないと確信した。

 でも精霊獣なら……人語を解す不思議な生き物なら可能だというの? そんなバカな──。



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