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7.襲来①

視点変わります

 蒼碧の星群(ブルー・アステリズム)――――大国『クリア』の中で最も才能のある人間が集められ構成されたパーティー。彼らは、着実に実績を積み重ね、あっという間にSランクまでに上り詰めた。


 そのパーティの一人、マイン・フィールズはクリア軍事組合、本部を駆け抜ける。


「緊急事態発生!! 緊急事態発生!!」


 建物内ではけたたましく警報が鳴り響き続けていた。

 ここはクリア軍事総合組合の本部。国の安全を守るため騎士、魔術師、治癒術士のそれぞれの連合を統率する最高機関だ。

 極めて危険度の高い警報音からも異常事態が起きていることは明白だった。


 マインは、大きな建物を一気に駆け上がり本部長のいる最上階の部屋の扉を勢いよく開ける。


「遅くなりました、ドゥルクさん。マインです」


 息を切らしているマインを呼び出したのは、クリア軍事総合組合本部長のドゥルクだ。


「ああ、急な呼び出しで申し訳なかった」


 ドゥルクは、落ち着いた声でマインを出迎える。だが、老成し一見落ち着いたようにも見えるドゥルクの目には焦燥の色が浮かんでいた。

 たまらず、マインから現在の警報の原因を尋ねた。


「一体何が起こっているのですか?」


「……帝都の東門の森近くで、正体不明の魔物が出現したのだ」


 マインは、ドゥルクの発した言葉に眉を顰める。魔物というのは本来瘴気の濃い土地に生息している。瘴気が濃ければ濃いほど魔物も強くなるため、土地によって魔物の強さは異なってくる。しかし、この帝都は瘴気なんてあってないような場所だ。魔物が出現しないわけではないが、騒ぎになる程強力な魔物が出るなんてありえないことだった。

 そして、マインはもう一つドゥルクの言葉に引っかかりを覚える。


「正体不明……」


 マインの疑問を察してドゥルクは淡々と説明した。


「なんでも、一見巨大鬼(オーガ)のようだが体表は銀色に覆われ顔面が銀狼(シルバーウルフ)の姿をしているそうだ。ふざけているだろう?」


 マインは、息を呑み驚きに言葉を詰めた。


「ッ!! 魔物の合成が行われたとでも言うのですかッ!?」

「可能性は否定できない。新種の魔物という線もあるが……、それを考えるのは後だ。今は、奴を倒さねばなるまい」


 魔物の合成、この国では固く禁じられている。それも重罪だ。正確には、生命を使用した恣意的な実験を行うことが禁止されているのだが魔物の合成もそれに含まれる。人の命を救うために生体を扱う医学実験でさえ、国から許可を得なければ行うことはできない。


「現在、10の精鋭部隊で応戦しているが全く攻撃が通らないそうだ。高威力の魔術も、数十の剣戟も意味をなしておらず苦戦している」


 クリアの精鋭部隊は、その名の通り国でも上位のパーティーだ。精鋭部隊が手も足も出ないとなると非常に厳しい状況であり、とれる対抗策も限られてくる。


「魔物の動きは遅いが、確実に帝都へと向かってきている。防衛線が破られるのも時間の問題だ。このままでは――――」


「事態は大体把握しました。すぐに向かいます」


 事態は切迫している、ドゥルクが言い切る前にマインは部屋を出て行こうとした。

 マインが出て行こうと扉を開けた時にドゥルクは申し訳なさげにぽつりと呟いた。


蒼碧の星群(ブルー・アステリズム)、君以外のメンバーが任務で国を離れているなんてタイミングが悪い。私が言えたことではないが……無理はしないでくれ」

「……問題ありません」


 

 Sランクに認定されているマインだが、緊張から頬は強張ってしまう。

 勿論、彼女とて多くの危険な任務を依頼され幾度となく窮地に立たされてきた。

 しかし、帝都に迫る危機を一人で戦うのは彼女にとって初めてだ。

 今まで共に戦ってきた蒼碧の星群(ブルー・アステリズム)のメンバーはこの国にいない。


 まさに絶体絶命だ。


 自分の命だけではなく、国に住む多くの命を背負って戦うことになる。

 


 マインは不安をかき消すように、全力疾走で現場へと向かった。

 



 帝都の東の森。爆発する音と激しい衝撃で木々が揺れる。

 響く爆音を頼りにマインは森を抜けていく。駆ける途中で一つの小隊を視認し足を止めた。


蒼碧の星群(ブルー・アステリズム)のマインよ! 状況は?」


「マイン様!! 待っていました!! 戦況は……苦戦を強いられています。魔法も物理攻撃も全く通らないため魔物は無傷。対して、こちらは2.3隊で交代して敵に当たっていますが……消耗が激しいです」


「分かった、あなた達はもう下がってて。他の小隊にも伝達を」


 マインは戦の場へと走る。林を通り抜けると、戦場らしい少し大きな広場に出た。

 そこで見たものは――――。


「一体……何なの」


 マインの目に入ってきたのはあまりにもおぞましい生物だった。

 一見、巨大鬼(オーガ)のような姿をしているがその体は全身銀色の毛並みに覆われている。

 しかし、それを最も不気味にしているのは顔だ。巨大鬼(オーガ)のはずの魔物は、顔が銀狼(シルバーウルフ)だった。数メートル程の高さで筋骨隆々な体を持つ巨大鬼(オーガ)の首の上には銀狼(シルバーウルフ)の顔がアンバランスに取り付けられ、申し訳程度に二つの角が銀狼(シルバーウルフ)から飛び出している。


「無茶苦茶だわ……」


 巨大鬼(オーガ)銀狼(シルバーウルフ)、どちらの意識を持っているのかも分からない。ただ一つ言えることは、目の前の魔物は命を冒涜した怪物だということだ。


 気持ち悪さに放心しそうな意識を戻し、その怪物と戦っていた小隊にマインは叫ぶ。

 

「ここは私が引き受ける!! あなた達は退いて!!」 


 交戦中だったのは、2つのパーティーだった。幸い誰も深刻な怪我はしていなさそうだが、疲れからか動きにキレはない。

 マインがこの場に来たことに気づいた一人が、逆に言葉を返した。

 

「一人で戦う気ですか!?」


「あなた達の攻撃じゃ全く太刀打ちできなかったんでしょ? なら、私一人でやる」

「……しかし」


 小隊もマインの実力は知っている。しかし、実際に魔物の相手をしているからか不安に思ってしまうのだろう。


「あなた達、動きが鈍くなってるわ。このままアレと戦えば怪我だけじゃすまないかもしれない」


 押し黙る隊へマインは「それに」と付け加える。


「この魔物が人為的なものなら、意図して帝都を攻撃してる。他方から帝都が攻撃される可能性もあるから、こいつばかりに気を取られるのもよくないわ。あなた達は帝都周辺の守備を固めるべきよ」


 この国トップの実力者にそう言われてしまっては、反論できるものは誰もいない。


「分かりました。では、我々は帝都周辺に敵がいないか捜索します。気をつけてください、こいつ、動きは遅いですがかなり頑丈です」


「忠告ありがとう。あなた達は主敵を発見したらマニュアル通りに作戦を。迎え撃つというよりは、守備に徹して」


「はい!」


 小隊が場を離れ、マインと歪な魔物は一対一で対峙する。

 銀大鬼の視線は宙を彷徨い、帝都へと真っ直ぐ歩き続けていた。


「さあ行くわよ、化物」


 マインに背を向けて歩く魔物に、懐から取り出した杖を向けた。



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