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3.換金

「うんざりする人の多さだなあ」


 町中の大通りを独りごちながら歩いていく。相変わらず人波は途切れることもなく騒がしい。

 ルカとは一旦二手に分かれ、別行動を取っているため今は一人だ。

 ルカには情報収集を頼み、僕は資金調達に出ている。ルカは言われたことはきっちりこなす優等生だが資金調達をさせるのは不安だったため情報収集を頼んだ。カツアゲやらスリやらはしないでいいからねと言っておいたから変なことにはならないだろう。たぶん。

 

 きょろきょろしながら、さっきルカと歩いた場所を確認していく。僕の目当ての店――見間違いでなければこの近くにあったはずだが……。


(あった!)


 木造の少し古ぼけた建物だ。周りの騒がしさと対照的に閑散としている。だが、僕が目をひかれたのは建物ではなくその看板だ。看板には『鑑定屋』と書かれている。


 手っ取り早く資金を確保する方法――――それは物を売ることだ。合法的で常識的、何も問題はない。


 『鑑定屋』の重い扉を開け中に入っていく。

中には、所狭しとポーションや武器、鎧が置かれていて建物の大きさのわりには少々手狭だ。最早、倉庫と言っても相違ないかもしれない。置かれている品はどれもよく手入れされているようで埃一つない。


 建物の奥を見てみると、物に紛れて分かりづらいがポツンとカウンターがあり年配の白髪の男が煙草を咥え、座っていた。

 この店の経営者だろうその男に近づく。

 

「こんにちは。ここって商品の売却とかってやってる?」

「なんじゃ? ここは餓鬼が来るような場所じゃないぞ」


 しっしっ、と追い払う動作をしこのじじいは僕の話を聞いてくれない。しかし、素直に引き下がるわけにもいかないので先に売るものを前に出すことにした。


「これ換金したいんだけどどうかな?」


 僕はおもむろにカバンから一つの小瓶を取り出し、机の上に置く。

 真っ赤な液体だが、透き通っていて覗き込むとガラスの向こう側が見える神秘的な液体だ。


 じじいは僕の出した小瓶を訝しがりながら手にとり、上にかざしながら眺め始める。その間、慌てて吃驚した声を上げるのに時間はかからなかった。


「なっ!! これはまさか竜の血かっ!?」

「うん、そうだよ」


 竜の血、珍しいとは思っていたけどやっぱり珍しいらしい。これは金額に期待できそうだ。

 じじいは念入りに鑑定するためであろう道具を両手に小瓶を眺めながらぶつぶつと呟いている。


「特徴も完璧に一致しておる……。鑑定石の反応からも偽物ではない……。本当に竜の血が……ここに……」


 じじいは涙ぐみながら竜の血を眺めている。そんなに珍しかったのか……。だが、僕にもこのあと予定があるので早く金を出してくれ。


「で? 値段はおいくらになりそう?」


 僕の冷めた声に我に返ったようで今度は問い詰めるように僕に迫って来た。


「お前、こんな代物一体どこで、どうやって手に入れたんじゃっ!?」


 僕の質問を完全に無視し逆に質問を返される。先に値段を教えてほしい。少しいらつくが、これ以上時間をロスするのも面倒だ。適当に答えよう。


「これは代々先代から受け継がれてきた家宝でね。どこでどうやって手に入れたかは分からないんだ」

「なに……? 一体いつの時代から……この純度で……」

 

 感動したり困惑したり忙しいじじいだなあ。魔王城にはいくらでも、ありふれたものから珍しいものまで大量の魔物の素材があった。竜の血なんて僕は見慣れていたものだったので不思議な気分になる。ちなみに、竜の血は城から出るときにトンズラさせてもらった。回復薬にも武器の素材にも使えるしとっても便利なのだ。


「しかし、『竜の血』をウチで取引するわけにはいかん。これは国の上層で取り扱うべきものじゃ。すぐにでも報告するべきじゃろう」


 ジジイは勝手にヒートアップして、いつの間にか事が大きくなりつつある。


(これ、ひょっとしてまずい?)


 僕はただ金が欲しいだけなのに、このままじゃ色々取り調べられて僕の正体もばれてしまう。 

 勢いでなんとか押し通そうと早口気味にしゃべる。


「ま、まあ、竜の血の扱いはそっちで国に献上するなりなんなり適当にやっといてよ。とりあえず相応の額は頂きたいかな。ちょっとお金に困っててさ、今すぐ必要なんだ。いいよね?」

「……そうは言ってものう」


 歯切れの悪いままジジイは頑なに竜の血を買ってくれない。煮え切らない態度に、我慢できなくなった僕は口をついつい滑らしてしまった。


「頼むよ。もう一本おまけするから」


「ッ!?」


 こうして僕は竜の血二本と引き換えに大量のお金を手に入れた。


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