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21. 悪寒



「シルビア以外の人間にはアリバイがあるのよね。かといって、シルビアの部屋も調べたけど研究ノートの下巻なんて出てきていない」


 マインは、そう言って僕が持っていた上巻のノートを読み始めた。

 僕が言った解読方法で読み直してるようだ。3つ程別の言語を使用した暗号だが、ちゃんと読めるらしい。


……というか。


「読んじゃダメなんじゃなかったの?」

「……事件に関係あるなら別よ。それに、あなたの解読方法で読めてしまったんだから仕方ないじゃない」


 マイン・フィールズはため息をついて、パタンとノートを閉じた。


「あなたの言った通り、ね。さすがに全部は読む時間はないけど、ここに書いてあるのは間違いなくネクロマンスのことだわ」

「信じてなかったの?」

「信じたくなかっただけ。ここで、あなたがすぐバレる嘘をつく意味もないでしょうし」


「で、今からどーすんだ? 第三者ってのは結局わかんねえの?」


 ノルドから、焦れたように問いかけられる。


「情報が少ないからね。この部屋に他に手がかりがあればいいけど、あまり期待は出来そうにないし」

「でも、やるべきことは分かった。要は、コペルバウス教授のもう一つの研究ノートを見つければいいんでしょう」


「……相当難しいのでは?」

「俺もそう思う。マイン一人だけじゃ大変だろ。ボネックさんとか軍事組合に連絡して一斉に教授達の部屋を探させた方がいいんじゃないか?」


 マイン・フィールズは簡単に言っているが、それが途方もないことだ。研究ノートは小さくはないが、隠そうと思えばどこにでも隠すことができる。

 まさか、簡単に分かる場所に置いてるはずもないだろう。


「それが出来たら手っ取り早いけど……。教授達は大体身分の高い人しかいない。軍事組合が見つかるか定かでないノートに積極的に捜索してくれるとは思えないわ。そもそも軍事組合はセントリス学院から多く出資されているから」


「ふーん。難儀なものだね」

「みんなで協力すればすぐ解決できそうなのに……」


「そういうものよ。軍事組合は何か起こってからしか動かないから」


 魔王に逆らえなかった僕のように、人間社会でも権力には敵わないらしい。


「でも、そもそも他の教授や優秀な生徒には一人一人話を聞いていた。怪しい人物の部屋に研究ノートがあれば……決定的な証拠になるわ」


「その言い方だと、怪しい人はいたんだ?」


「目星はつけたわ。一人、私の揺さぶりに何か隠した様子があったから」


「よく分かんないけど、君に揺さぶられたら誰でも動揺するもんじゃない?」

「口で説明しづらいけど、この魔道具で動揺の度合いが魔力の乱れ方で分かるの」


 そう言ってマインは小型の円形の水晶を取り出した。


「正確ではないけど、ある程度の指標にはなる」


 でも、大丈夫だろうか? この人……、なんか自信過剰なところあるからなあ。調子に乗って死んだカースを彷彿させる。……というか、カースの件も僕は調べないといけないんだった。こんな無駄に時間を過ごしてる暇なんてない。


 それにこれ以上、ルカを待たせるわけにもいかない。きっと、彼女は僕がどうにかしてくれるのを待っているはず。だが、あまりにも遅いと牢を突き破って殺戮を始める可能性もなくもない。そろそろ我慢の限界になっているかも。


「僕も行っていい? 一緒に話を聞けば早く解決できるかもしれない」


 そんな焦りから、そんな提案をするがマイン・フィールズに露骨に嫌な顔をされた。


「……嫌」


 たった一言で拒絶された。僕の立場からの拒絶というより、僕のことが嫌いな拒絶にも受け取れる。……ひどくない?


「どこに共犯者と疑われてる人間を連れ歩く馬鹿がいるのよ」


 そう言って、マインはノルドに視線を移して睨んだ。


「ご、ごめん」


「僕の立場とか好き嫌いは別にしても、話を聞く人数が多い方が気づきもあると思うけどなー」


 だが、ここで意見をそのまま呑んだりしない。ルカが暴走する前にさっさと解決しないといけないのだ。

 そんな僕に対してマインは、はっきりとわかるようにため息をついて、


「あなた、"一応"一般人でしょう。これ以上、この件に一般人を巻き込めない」

「……い、一応とはなんだ」


 そういや、僕は一般人と思われないといけなかった。なんやかんやしてるうちに、しゃしゃりでてしまったが僕の正体や立場は疑われないようにしないといけなかったのに……。状況的に仕方なかったとはいえ、僕は今後大丈夫だろうか。


 急に心配になった僕に対して、マインは手を出してきた。


「……これ、渡しておくわ」

「?」

「”通信魔具”よ。私の持ってる魔道具から音を拾って再生される対の魔道具。ただし、あなた達の声は私には届かないから。回収するときにあなたの意見も聞いてあげる。ま、その前に研究ノートを見つければ解決するけれど」


 へー、人間の魔道具にもそんなものあるのか。僕も前に似たようなの作ったけど、ルカくらいしか使う相手がいなかったので四次元鞄に眠ったままになっている。


 ……って、ん? そこでずっと疑問だったことに繋がった。マインが急にここに来たのが不思議に思っていたが……。


「……もしかしてさ、僕たちがここに忍びこんだのがわかったのって」

「ええ。この部屋に同じものを仕込んでただけ。私の通信魔具からあなた達の声が聞こえた時はびっくりしたわ」


 マインはポケットに通信具を入れ、ドアへと歩いていく。


「私は今すぐにでも探りにいく。あなた達は、いるべき場所に戻ってなさい」


 今にもでて行きそうだったので、僕は一つだけ聞いた。


「ちなみに誰が怪しかったの?」


 そう言うと、マインは振り返る。


「ピーリン助教。私が事件について話した時、平静を装ってはいたけど大きく魔力が乱れていた。何か隠しているのは間違いない」


 ふーんと思いながら見送ろうとしていたが、隣にいるノルドが声を大きく挙げた。


「待った! マイン、俺も行くよ!!」

「はあ?」


「ライズは駄目かもしんないけど、俺なら話を聞いてもいいんじゃないかと……」


「あなたがいても足手まといだから、来ないで。もしかしたら、戦闘になる可能性だってある。あなたは、ライズ・デンクルが変なところに行かないか見張ってなさい」


 しゅんとするノルドに慰めるように声をかけた。


「残念だけど、あとは任せようよ。話は聞けるわけだし、大丈夫でしょ」

「ええ、問題ないわ。それじゃ」


 パタンと扉を閉じ、マインは部屋を出て行った。

 でもなんだかんだ、解決しそうだ。少し、機嫌がよくなった僕だがノルドは元気がなさそうにしている。


「俺って必要だった?」


 ノルドはぽつりとこぼしたが、意味がよく分からず首を傾げてしまう。


「そりゃ必要だったよ。マイン・フィールズと調査したり、僕を案内したりしてたじゃないか」


「調査じゃなくて、マインの後ろにいただけだし、ライズだってただ案内しただけだ。俺自身は何もしてない」

「?」


「ライズは俺やシルビアのこと助けたり、難しい推理したり、すげえし。マインは自分で考えて動いて、事件解決に進んでる。それに比べると俺言われたままに動いてるだけで、なんか全然ダメだなって」


 どうやら自分が何も貢献できていないと感じて、へこんでいるらしい。解決できそうならそれでいいのでは?、と思うんだが。


「うーん、各々でできることをやって結果がついてくるなら、落ち込む必要ないと思うけど。今回のノルドは、それが案内だったってだけでさ」


「……やっぱ、ライズって大人だよな。同い年とは思えねえよ。……でも、元気出たわ」

「よくわかんないけどもっと気楽に生きた方がいいんじゃない。悩みすぎてもよくないからね」


 まあ僕も、気楽に生きているとは言えないかもしれないが。


「でも、上手くいけば明日には帰れそうでよかったよ。そろそろ解決しないとルカが不機嫌になるし」

「ルカってもう一人の?」

「そーそー。僕の仲間だよ。今から迎えに行ってもいいかもなあ」

「また、マインに怒られるぞ…」


 さて、大人しく元の軟禁場所に戻るか、ルカを回収するか。とりあえずコペルバウスさんの部屋の扉を開け、僕らは廊下へと出た。


「ま、どこにルカがいるか分かんないんだけどね」

「いやマジで行く気だったのか?」


「そりゃあー、時間もったいないし。コペルバウスさんの部屋ももう調べたわけで__」



 そこでただ、僕はなんの気無しにコペルバウスさんの扉に手を当てた。


 その行動に何か意図があって、触ったわけではない。ただ、会話の手持ちぶさたからか、手をかけただけ。


 茶色の無機質な扉、特に違和感はないはずだった。


 なのに。


「……温かい」


 扉のある箇所だけ、生ぬるい温度が残っている。

 ちょうど誰かが、さっきまでここにいたように。


 その意味を悟ると同時に、言いようのない悪寒が背中を伝った。 


「まさか聞かれていた……?」




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