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2.潜入

「んー、あれが一番大きい街?」

「そうですね。人間の最も大きな国『クリア』の大都市です」


 僕達は山の上から目視できる距離で広大な街を見渡していた。数キロ程離れているが街の端がどこか分からないくらい広い街だ。

 魔王城をこっそり抜け出して1ヶ月。自分でも驚くほどスムーズに魔王軍から逃げ出せた。魔族や人間達と交戦することもなくここまで移動できたのは僥倖なのだろう。

 そして、僕達がわざわざこの帝都まで来たのは人間側の情勢、カースの情報を調べておくためだった。人間の精鋭達が集まっているであろう帝国にリスクを冒してやって来たのは様々な情報が集まっているだろうと踏んでのことだ。まあ単純にどんな人間があの化け物のカースを倒したのか興味があるというのもある。


 その後は、田舎にでも行って余生をのんびり過ごす。魔王城での待遇は悪くはなかったが、僕を働かせすぎであった。城では奴隷のように毎日働かされていたので、正直魔王軍に僕はなんの思い入れもない。魔王や魔族に滅んでほしいわけではないが、こればかりは仕方ないだろう。

 それに僕にあの城で仲間と呼べていたのは今にもあとにも一人だけだ。

 そのたった一人の仲間は今僕の隣りにいる。彼女の名前はルカ―――僕の直属の部下だ。

 僕は一応魔王軍の幹部として働いていたのだが、悲しいことに僕の下につきたいという魔族はルカしかいなかった。他の幹部は直属の部下は数百人はいて当然なので、僕は他の魔族からは腫れ物のような扱いをされ軽いいじめも受けたことがある。まあ、種族が『人間』の僕が気に食わないなんて当たり前だが。むしろ、なんで人間が魔王軍の幹部なんてやってるんだと不思議に思われていただろう。僕も不思議です。


 唯一の部下であるルカは僕が魔王軍を抜けると言ったら、なんと自分もついて行くと言ってくれたのだ。僕の我儘に付き合わせたみたいでとても申し訳ない。


「何回も聞いてるけどさ、本当によかったの? ルカまで魔王を裏切っちゃって」


 魔王軍は負ける可能性が高いとはいえ、ルカには魔族として生まれ育った場所を捨てさせてしまうというわけで。僕としてはルカには死んでほしくないし来てくれてうれしいのだが、ルカは純正魔族だし魔族としての信念を捻じ曲げさせているような気がしてならない。 


「別に構わないと言ってるじゃないですか。というか、ライズさんの唯一の部下である私が残ったとして、どうなると思います? 逃げたライズさんの代わりに魔族達に串刺しにされますよ」


 ルカはため息をつきながら、僕を睨みつけた。


「あははー……、そうだよね」

「後悔はしてません。今の私の中にあるのは、魔族としての誇りではないですから――――」


 ルカはところでと、一つ咳払いする。


「今から潜入するわけですが、気をつけてくださいよ? 人間達に正体がバレたりすれば殺される可能性だってあるんですから」

「僕は大丈夫だよ。そもそも顔は知られていないし、種族は人間なんだからバレようがない」


「気をつけるのはルカの方だよ。僕と違って魔族なんだからさ」


 ちらりと隣のルカを眺めてみる。ロングの金髪に真っ白な肌に青い大きな瞳。容姿だけならどこかのお嬢様のようで、ぱっと見では魔族とは分からないだろう。しかし、魔族の象徴、尖った耳が確かな存在感を放っていた。


「ただ街を歩くだけなら髪で耳を隠せばいけるだろうけど……」

「そんなことする必要ありません。私は元々、容姿は人間に近いですから。尖った耳だけなら擬装の魔術をかけておけば……」


 そう言って、ルカは小さく呪文を唱えた。

 すると、シュッと尖っていた耳が確かに丸みを帯びて人間の耳に変化する。


「ほら、問題ないでしょう?」

「流石だね」


 僕がほめるとルカはしたり顔でふふっと笑った。


「ではさっそく、潜入しましょうか」


 こうして僕達は、帝都に足を踏み入れた――――。



 帝都の中に潜入し、まず目に入ったのは立ち並ぶ大きな建物だった。通りはいくつも分かれていて大きな通りには行き交う人で溢れていて見ているだけで酔いそうだ。僕達はなるべく人通りの少ない道を進み周囲を散策していた。


「ここに来る途中も思ったけど、警備がザルだよね。というか警備員いるの?」

「確かにそうですね……。私たちの素性は抜きにしてもよそ者がこうもあっさり入れるなんて」


 僕たちにとっては悪いことではなくラッキーなのだが、ちょっと不気味である。人間の本拠地なのにこんなに警備が薄いとは。


「うーん、うちと温度差凄いなあ。下っ端の魔族でさえピリピリしながら警備だの鍛錬だのやってたのに」


 見えないところでちゃんと警備のシステムとかあるのかもしれないがちょっと拍子抜けだ。僕が言うことじゃないが、もう少し警備員は配置した方がいいのではないだろうか。


「なにはともあれ潜入は成功したようですね。これからどうしましょうか?」

「まずは、人づてに情報を聞いていきたいところだけど……」


 僕達は人間達の勢力やカースの情報以前に、ここ『クリア』という地についての情報も知らない。どこになにがあるのかも分からないし情報収集をするのが定石だろう。


――――――が、一つ問題があった。


「僕の用意してた通貨がもう底をつきそうなんだよね……。ここに来る途中の村やら街でも結構使っちゃったし」


 ルカは納得したように頷いた。


「分かりました、まずは資金調達ですね。短時間で集めるとなると、カツアゲ、スリなどが手っ取り早いでしょうか」


 平然と物騒なことを言わないでください……。


「カツアゲとかスリなんて論外だよ、人間の本拠地なんだから行動は慎重にしないと」

「相手は選びますし、私なら相手に気づかれずに財布を奪えますが……、ライズさんが言うならやめておきましょう」


 正直、ルカなら上手くやれてしまうんだろうけどそういうことじゃないのだ。人間と手を取り合って生きていく以上ルールは守るべきである。何事も穏便が一番です。


「お金も情報も必要だけど、僕としてはできるだけ早くこの街から離れたいんだ。いつ素性がばれるかも分からないからね」


 現状を見ても僕らの正体がバレるとは考えにくいが危険予測はしておくべきだろう。もしバレれば、袋叩きだ。せっかく逃げてきたのに逃げた先ですぐ殺されるなんてゴメンである。


 僕はあとの人生は田舎に行ってのんびり暮らしたいのだ。


 今すぐにでも田舎に行きたいところだが、これは僕が気楽に過ごすためには必要なこと。

 適当に行うわけにはいかないが、できるだけ素早くこの帝都で必要な物を入手せねばならない。


 効率的に動くため、僕はルカに一つの提案を出した。


「だからさ、ここからは別行動しない? 僕はお金を稼ぎに行くから、ルカはできる範囲でいいから情報を集めてほしいんだ」


 しかし、ルカは僕の提案に明らかに不満そうな顔をする。


「……二手に分かれるほうが何かあった場合に危険では?」


 確かに、潜入したばかりの僕らにとってここは敵地みたいなものであるし単独行動をとるのは少し危険かもしれない。だが、その分時間はロスしてしまう。

 できれば今日中に、金と情報集めは終わらせたい。


 不安そうなルカを安心させるように僕は彼女の肩を叩いた。


「下手に動かなければ平気だって。今の僕らには時間の方が大事だ」


 僕の押しに負けたのか、ルカははあとため息をつく。


「分かりました。ただし、絶対に目立つ行動をしないでくたさいよ?」


「子供じゃないんだから大丈夫だよ……」


 こうして、僕らは二手に分かれて行動を始めた。


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