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18.殺人の謎

「マイン・フィールズが貸してくれた服がこの学校の運動着でよかったよ。堂々と歩いても特に何も言われないし」

「こっちはずっとびくびくしながら歩いてたけどな……」


 ノルドに案内してもらいながら、事件現場であるコペルバウス教授の居室に向かう。

 その間、学院の生徒にすれ違うが特に怪しまれることもなかった。こそこそ隠れながら移動するより、普通に歩いてるほうが怪しまれないようだ。外が薄暗いということもあるだろうが。

 そもそも、僕の顔を知っている人なんて警備の人とマイン・フィールズくらいだ。そいつらに注意しておけば、バレないのも当然かもしれない。


 そうこうしてる内に、目的地にたどり着いた。


「へえ、ここが現場か」

「ああ……つか、勢いで来ちまったけど鍵がないと入れねえぞ。鍵はマインが持ってるし──」

「お、空いた空いた」

「なんで!?」

「やっぱり、この学院の錠前かなり古いし簡単に空いちゃうね。変えた方がいいんじゃない?」

「ライズは泥棒とかじゃねえよな……?」

「違うよ。この錠前がガバガバなだけだよ」


 この学院の錠前、脆すぎる。見たところ20年は使っていそうだ。セキュリティしっかりしてるのが学院の売りなんじゃなかったのか。

 

 部屋の中へ入ると、本棚と机だけの質素な空間が広がっていた。部屋の真ん中には赤い染みが残っている


「そこで、亡くなってたんだって」

「なるほど」


 シルビアに見せてもらった写真と何ら変わらない状態だ。黙って部屋を見渡していると、ノルドに声をかけられる。


「……怖くないのか」

「? この部屋に怖いものとかあるの?」


 もしかして、誰かこの時間に誰か調査員が来たりするんだろうか。ノルドからの話を聞く限り、鍵はマイン・フィールズが持っているらしいし人が来るとは考えにくいけど。


「いや、ここで人が殺されたわけだし」


 僕の予想とは真反対のことを言われ、少しホッとする。なんだ、そんなことか。


「生憎、僕は幽霊は信じない派なんだ」

「そういうことじゃねえよ……。やっぱ、お前ってずれてるよな」


 一通り部屋を眺めた僕は、ポンと手を打った。


「じゃあ、一旦事件を整理しようか」


 僕は考えるのは得意な方だ。ノルドに事実確認しながら、思考をまとめる。


「事件が起きたのは5日前の授業中だよね」

「そうだな。コペルバウス先生は二限目までは普通に授業していて発見されたのは四限目が始まる前。

 三限目は授業に来なかったらしくて他の先生達が呼びに行ったところで、発見された」


「で、シルビアは自室で寝ていてそれ以外の人間にはアリバイがあると」

「授業中のたった60分だったしな。その時間は授業や会議があったりで単独でいた人間はいなかったんだってよ」


「あとは、見ての通りというか。部屋の真ん中で仰向けになって右手がなくなった状態で亡くなってたらしい。そこの血の跡の場所だ」

「シルビアから、写真で見せてもらったしそれは分かるよ」


 顎に手を当てて考える。目をつぶり僕は死体の写真を思い出す。


「あの写真から見た死体の出血量は、やっぱり少なすぎるんだよね。死んだ後に右手を切られたとしても、……血はある程度回収されたのか」

「? 何を言ってんだ?」


 僕は、ぎっしりと本が詰められた本棚へと視線を向けた。


「この本棚は、調べたの?」

「この部屋の物は全部調べたとは聞いたけど……」

「本の内容も?」

「え? 内容までは流石に見てないんじゃないか。この量だし」


 ざっと、本棚を眺める。几帳面に、学問によって分類分けして並べているらしい。

 その中でも、無地の比較的薄い本が並んだ場所に目を向けた。


「この辺りかなあ」


 僕は何冊か手に取り、パラパラと本を開いた。

 

 その瞬間だった──。


バンッ


 玄関の扉が乱暴に大きな音を立てて開かれる。

 そこにいたのは。


「あなたたち、何してるの」


 僕とノルドを睨み付けるマイン・フィールズの姿があった。


「マ、マイン……これは」


 僕は読んでいる本に集中しているので、あまり意識が向かないがノルドが狼狽えているのは分かる。

 いつもの僕ならとても焦っているところだが、いかんせん僕は本を読むのに夢中になっているので特に驚きも焦りもない。これ、追い出されるかな。


「これが、どういうことか分かってる? どうやってここまて来たのかは分からないけど、犯罪よ」


 本を読みながら、僕は空返事に答える。


「事件のこと気になってたし、別にいいじゃん。君らはもうこの部屋は調べ尽くしたんだろ? ちょっと覗くくらいいいと思うんだけど」

「……あなた、自分の立場は分かってるの?」

「分かってるよ。だからさっさと解決したいわけ。家に残した荷物も心配だからさ」


 集中してる時に、話されると少し不快だ。そういうこともあって、きつく当たってしまう。

 ノルドは、僕とは対照的に謝罪モードだ。


「ま、マイン。ごめん、勝手に入って……。でも、何か悪いことをしようってわけじゃないんだ」

「ここにいる時点で悪い。……さっさと行くわよ、今なら目を瞑ってあげるから」


 そこで、僕は取り出した本を読み終え、パンッと読んでいた本を閉じた。



「なんとなく、分かったかな」


 言い切った僕に対して、謝罪のテンションのせいかノルドが気の抜けた声を出す。


「……何が?」


 本を棚に戻しながら、僕は答える。


「コペルバウスさんだっけ。その人が何で死んだのか」



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