17. いざ、外へ
「なるほど、それでマイン・フィールズは一定の実力を持った学院内の人間を洗っていくと」
「ああ、マインのことだから怪しい人間は見逃さないよ。結局俺は何もできてないけど……」
マインと現場を見た後、ノルドはそのままマインと分かれ軟禁されている僕のもとへやって来ていた。
「解決するといいね」
「なんで、他人事なんだよ」
正直、不安だったがなんとか良い方向に事態は動いていそうだ。僕も犯人がいるとしたら、他の教授あたりだろうと思っていたしマイン・フィールズも当然のその思考に行き着いたようだ。
そして、僕はずっと疑問だったことをノルドへと何の気なしに投げ掛ける。
「あと気になってたんだけどさ。随分、マイン・フィールズと仲がいいみたいだけどどんな関係なの?」
「え? 事件に関係ないだろ」
「個人的に気になるんだ。本当に退屈でさ、話とか聞きたいんだよ」
しかし、ノルドはあからさまに嫌そうな顔をしていた。どうやら触れてほしくない話題みたいだが……。
「簡単に言うと……村に住んでるときに助けられたんだよ」
「へえ」
「で、セントリス魔術学院について紹介された」
「随分、簡潔だね」
「元々、詳しく話す気ねえからな。それより! 事件については俺も雑用でも使いパシリでもなんでもして解決できるよう動くから。ライズは安心しとけ」
ノルドは、これ以上探られないよう無理やり話題を変えてきた。
何かあるんだろうけど今は聞き出せそうにない。
「じゃ、そういうことだから。また明日にでも報告に来るよ」
「あ、待って待って。できれば今日の深夜1時くらいに、ここに来てほしいんだ」
僕は出ていこうとするノルドを慌てて呼び止めた。ノルドは振り返り疑問そうな顔をする。
「え? そんな遅い時間になんで?」
「ちょっと頼みたいことがあってさ」
僕の言葉にノルドは逡巡している。彼は寮住みだろうし、深夜にこの時間にここまでやって来れるか難しい。
「ライズの頼みだし、聞いてやりたいとこだけど……その時間に面会は無理だと思う」
「うーん、それは残念だ。なるべくなら少しでも人がいない時がよかったんだけど」
「何言ってんだ? さっきから話が見えないんだけど……」
深夜の方がいいかと思ってたけど、まあいっか。せっかく作ったし……。
「今も充分外は暗いし人も少ないよね?」
そう言って、僕は手元の鍵を錠前に差し込んでガチャリと開けた。そのまま、扉を開きノルドの前に立つ。
「!?」
「暇すぎて鍵作っちゃった」
「はあああああああ!!?? どういっ──!」
僕は慌ててノルドの口を塞ぐ。ほんとこいつ、一々リアクションが大きいな。
「静かに!! バレたらまずいから」
そう注意すると、ノルドは落ち着いたようなので口から手を離した。
「っ。作ったってどういうことだよ。鍵って作れんの? え……ちょっとまじで分かんねえ」
「このタイプの錠前は、単純に脆いというか。多少形が違っても奥にひっかかりさえすれば空くのさ」
「なんでそんなこと知ってんだよ……」
きょろきょろと周りを見て、出ていけそうな場所を探す。
「そこの裏の窓から木に伝っていけば降りれるかな」
ここは確か二階だったはず。窓と木の距離も近く、僕の身体能力でも飛び移って下まで降りれるだろう。
ここの建物の警備員も、僕のことは基本放置しているし慎重に行動すればバレない(願望)。
しかし、踏み出そうとしたところ、いきなりノルドから肩を掴まれる。
「ちょっと待て! まさか逃げる気なのか!?」
「はあ? 逃げるわけないじゃん」
僕の返答に困惑しているようなので、はっきりと目的を告げる。
「本当に現場に何もないのか確かめたいんだよ」
「それは俺に任せてくれれば」
「いや君、何もしてないじゃん」
「うっ!!」
図星を突かれたのか、ノルドは痛い顔をしている。
「で、でもマインがまだ探ってくれてるし」
「まあ、そっちは任せるよ。でも、できることがあるならやっておくべきだからね。君もそう言ってだだろ?」
「……、それは」
きっと、ノルドは悪いことはしてほしくないんだろう。それは当たり前の感覚だし、気持ちは分からなくもない。でも、僕は僕のしたいようにするだけだ。
「僕は後悔したくないから、自分で動くよ」
そう言うと、ノルドは目を見開いて黙ってしまった。しばしの沈黙の後、口を開いて。
「…………分かった」
そう呟いた。
「俺も後悔したくないし、手伝う」