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16. 事件と指針

 マインとノルドは、廊下を歩き事件現場であるコペルバウス教授の部屋へとたどり着いた。

 すると、玄関の前に一つの人影がおり、二人に気づいたのか挨拶をした。


「マインさん! 待っていました!」

「ええ。ボネックさん、久しぶり」


 マインは知っていたようで女性へと気軽に返事を返した。

 ボネックと呼ばれた20代半ばくらいの女性がマインへと敬礼する。ノルドもそれに合わせて慌ててお辞儀する。ノルドは、この女性について知らずマインへとひっそりと耳打ちした。


「マイン、この人は?」

「ボネックさんは、事件発覚した時からずっと調査してくれてる国の軍事組合の研究員よ。でも、前はもっと調査員がいたはずなんだけど」

「……軍事組合の他の調査員は皆引いてしまいました。上からのお達しで」

「まあ、5日も経っているし普通そうよね。じゃあ、今いるのはあなただけ?」

「いえ、セントリス魔術学院のグリーム教授が中におられますよ」


 そう言ってボネックは扉を開き、中へと案内した。中には白髪の荘厳な雰囲気を纏った男性がおり、マインに気づき立ち上がる。 


「これはこれは、直々にマイン・フィールズさんが来られるとは」

「グリーム先生、お疲れ様です」

「こ、こんにちは!!」


 マインに続きノルドはすかさず、挨拶をする。


「君は確か……ノルド・ウェグナー君かい? なぜここに」

「まあその。色々あって事件について調査しようと」


 ノルドはしどろもどろになりながら、グリームに言う。が、勿論、グリームは困惑や疑惑の表情を浮かべていた。一生徒が、殺人事件の調査だなんて誰が見てもおかしいだろう。


「……本当かい? マインさん」

「ええ。でも、実質は私の付き添いのようなものです。危ないことはさせませんので」

「ふーむ。そういうのは大人に任せておけ……と言いたいところだが何も事態が進展していない僕からは言いづらいね」


 グリームは歯切れが悪く答える。隣にいるボネックもため息をついた。


「現状は、マインさんへ先日お渡した調査結果と変わっていません。疑問点が多い事件ですが、手がかりもなくて」

「……そう」


 暗い雰囲気になりかけるが、その流れを切るようにグリームが明るい声を上げた。


「しかし、マインさんなら何か分かるかもしれない。それに期待しよう。シルビア君の冤罪を晴らせるのはもはやS級である君だけだろう」

「買いかぶりですが、真実は突き止めるつもりです。……グリーム先生はやはりシルビアは無罪と思っているのですか?」

「当然だ。ずば抜けた才能があるのに勉強を怠らず、熱心に放課後も質問する子が人を殺して人生を棒に降るとは思えない。だからこそ、こうやって進んで調査を行っているんだよ」


 グリームは、真っ直ぐマインへとそう断言した。


「じゃあ、そろそろ私は明日の授業の準備に向かうとするよ。あとは頼んだよ。マインさん。何か分かったらすぐに連絡してほしい」

「私も軍事組合へ報告があるのでこれで。ここへの立ち入りの鍵についてはマインさんに渡しておきますね」


 そう言い残し、先に調査していた二人は現場を離れていった。それを横目で見送り、さらに奥の部屋へとマインとノルドは入っていく。

 現場を見て、ノルドは息を詰めた。


「ここが……事件現場」

「そ。でも教授の死体は安置所に移動しているし、事件が起きてから日も経ってるから新しい証拠なんてなさそうだけどね」


 辺りを見回しても、本がぎっしり詰まった本棚と机の上に乱雑に置かれた紙切れがあるだけの簡素な部屋だ。

 コペルバウス教授は、魔法の研究にしか興味がないと言う風に聞いていたが、まさにそのイメージ通りだという感想を持つ。


 しかし、部屋のちょうど中心に残った血の跡が、実際に凄惨な事件が起こったのだとはっきり示していた。


「ここで、コペルバウス先生はーー」

「ええ。そこの血の跡の残っている場所に仰向けで倒れていたそうよ」


「……本当にいなくなったんだ」


 ノルドにとっては、又聞きで殺されたと聞いていただけだったが、実際に現場を見て実感させられていた。

 マインは、ノルドをチラリと見て、


「気分が悪くなったなら帰っていいわ」

「帰らないよ。何か見つけるまで」


「……そう。でも、部屋のものに触らないでよ」


 マインは辺りを見回す。


「発見された時は窓は空いていなかった。やっぱり正面の扉から犯人は堂々と入ってきたんでしょうけど……戦った形跡が見られない」

「コペルバウス先生が寝ている間に、殺されたとかは考えられない?」

「襲われた段階で、そうだとしても手首を切断されて殺されているのよ? 即死じゃないし、無抵抗はあり得ない」

「薬を盛られたとか」

「軍事組合も、真っ先にそれを疑って、コペルバウス先生の体を隈無く調べたそうだけど何も見つからなかったらしいわ」


 ノルドは思い付いたことをポンポンと言っていくが即座にマインによってその可能性は否定される。

 自分に思いついたことくらいは、他の人も考えているのだと自覚させられ、ノルドはなんとも言えぬ気持ちにさせられていた。

 そんなやり取りもあって、投げやりに聞く。


「…………じゃあ、どうやったらいいんだ」

「どうにか証拠を探すのが私の役割よ。……でも、どうやらこの部屋には期待できるだけの証拠はないわね」


 ため息をつきながら、マインは答える。事件から5日も経ってしまえば、現場に新しい証拠が出るとは普通考えにくい。当然の結界だ。

 だが、マインは諦めてはいない。


「それでも何も手がないわけじゃない」

「え? あるのか!?」

「……真犯人がいると信じるならね。セントリス学院の性質上、外部からの犯行は考えられない。なら、犯人はこの学校の関係者だわ。それも、コペルバウス教授と渡り合えるくらいの実力のね」


 セントリス魔術学院は、24時間結界が張られ続け強力なセキュリティがある。外部からは侵入することは敵わないだろう。つまり、犯人は自ずと絞られてくるとマインは判断している。コペルバウス教授と同じ、あるいはそれ以上の実力を持った人物。


「そっか!! マインが怪しいやつに揺さぶりをかけるんだな!?」

「揺さぶりって……。でも、間違ってはないわ。軍事組合は、明確な証拠がない限り、他の教授を取り調べしたりもできないでしょうから。みんな、身分の高い人ばかりだしね。でも、国に認められたS級冒険者の私なら、それができる」


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