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14.聴取


 あの後、結局僕らはマイン達に捕縛されセントリス魔術学院へと連行された。しかし、交渉の甲斐あってか、いきなり処刑なんてことにはならずあくまで参考人として扱われている。


 まあ参考人という名の容疑者みたいなものなんだろうけど……。


 ついでに事件が解決するまでは僕もルカもセントリス魔術学院に保留されることになってしまった。

 ……隠密に行動していたはずだったのに、なぜこんなことになってしまったんだろうか? しかも、僕らの目的と行動と無関係のところで捕まえられている。


 確かに僕はセントリス魔術学院に潜入したいなあ、とは言った。言ったよ? でもそういうことじゃない。

 誰が悲しくて調査対象本人に捕縛されて潜入したいと思うのか。というかこれ潜入とは言わないわ。


「ルカさん、ライズくん……本当にごめん……。まさか二人を巻き込むことになるだなんて……」


 憂鬱な気分でいると隣にいるシルビアが目を伏せながら、頭を下げてきた。

 今は学院内のどこかの一室にいる。ただ扉は一つしかなく窓もない、かなり閉塞的な空間だ。マインはまず取り調べをすると言っていたが、なぜか僕とルカ、シルビアの三人一緒にここに集められていた。


(はあ……)


 下手すれば僕とルカもろとも犯罪者の仲間入りするかもしれない現状に吐きそうになる。

 ため息をつきたくなるがぐっと我慢して、シルビアを安心させるために僕は微笑んで答えた。


「ああ、大丈夫だよ。いい迷惑だけど、気にしないでいいさ。いい迷惑だけど」


「本音ダダ漏れだけど!?」


 励ましたつもりが、抑えきれない心の声が口から出てしまったらしい。


「ははは、ごめんごめん。冗談だ。僕とルカなら大丈夫だから。ね、ルカ?」


「ライズさんはともかく、私は気にしていませんよ。シルビアを助けたことを後悔したりはしていません」

「ルカさん……!!」


 その言い方だと僕だけ気にしているみたいじゃないか。……気にしてるけど。そこでふと、シルビアの腕にはめられた腕輪に視線が行く。マインに見つかった元凶の腕輪だ。


「にしても、その腕輪。共鳴石が中に埋め込まれてたなんて驚いたな。なんで逃げてるときに外さなかったのさ」

「罪人を捕縛するための腕輪だとしか知らなかったの。まさか追跡されてるなんて思いもしなかったから。本当に、私って馬鹿よね―――」


「ほんとだよ。学年で一位なんじゃなかったの? なんで知らないの?」


「せ、責めないでよ! 知らないものは知らないんだから仕方ないじゃない! さっきの『大丈夫だよ』って何だったの! やっぱり、気にしてるわよね!?」


 だめだ、油断するとシルビアを罵倒してしまう。適当に笑いながらごまかしているとルカが話題を変えてきた。


「ところでライズさん、策はあるんですよね?」


 表情はいつも通りだがその瞳は鋭い。ルカは僕がなにか考えがあると思ってマイン達に大人しく捕まってくれたわけだけど……。

 正直、あるわけなかった。だが、あの場で逃げたりマインらを倒したりすれば僕らの状況は悪くなるなんてルカも分かってたはずだ。

 ……もうなるようにしかならないんじゃないの。とは言えないので当たり障りなく答えることにする。


「ああー、そうだなあ。あると言えばあるのかな? ノルド次第だよ。唯一の協力者だからね」


 なるようにならなければ逃げよう。ルカは僕の言葉に驚いたのか小さく目を開く。


「あの場をやり過ごすためだけにノルドという名前を使ったとばかり思っていました。一度しか会っていないのに、私達のために動いてくれるでしょうか」


 …………。はい、あの場をやり過ごすためだけにノルドって言いました。


「……それも含めてノルド次第だ」


 そこに割って入るようにシルビアがおずおずと尋ねてきた。


「あのさ、ノルドって……高等科から入学したノルド・ウェグナーよね?」


「ああ、そうそう。最近入学したって言ってたね。知り合い?」

「知り合いもなにも同じ学年で、同じクラスだわ」


 シルビアとノルド、思ったより近い存在だったようだ。ノルドの協力を仰ぐことに対して話が早そうでよかった。


「そうなんだ。勝手にノルドと協力するって言っちゃたから少し心配してたけど問題なさそうだね」


 ほっとしながらそう言ったのだが、シルビアは微妙な顔をして黙っていた。


「…………」


「何で無言?」


「ええっと、その……本当に頼れるのかしらと思って。…………言いづらいんだけど、学年最下位だって聞いたことがあるわ。魔法も上手く使えないみたい」


 僕に少し遠慮しているのか言葉を選んで喋っているのが伝わった。シルビアが何を言いたいのかと言うとノルドは頼りにはならなさそうだと言いたいらしい。


 え……そうなの? あれ無能なの?


 少し絶句してしまうが、ノルドはあのシルバーオーガを牽制したのだ。シルビアの言葉より僕は自分の見たものを信じるぞ。


「…………大丈夫だよ、彼なら」



 そんなとき部屋の一つしかないドアが開いた。


「話は終わった?」


 入ってきたのは僕より少し年上くらいの女、マイン・フィールズだった。整った顔立ちをしているが、ひどく不機嫌な表情だ。


「じゃ、今から取り調べさせてもらうわ」


 そう言いながらマインは僕たちの前に座った。

 というかマイン・フィールズは国のトップのはずだが、取り調べとかするのか。


「君が取り調べするの?」

「異例のことだけど、私が担当することになったわ。学院内での事というのもあるし、一度、逃げ出されてるわけだから上から私が取り調べしろだとお達しが来てね」


 というか取り調べって言われても何も喋れないんだが……。


「ええっと、僕らは何を喋れば……?」

「別に必要ないわ。もう事のいきさつは聞いてるから。形式上、そうしているだけ」


 必要ない……? マインの言葉の意味が分からず僕は首を傾げる。


「??」


「シルビアはともかく……。ライズ・デンクルとルカ・ヒュース、と言ったわね。私個人としてはあなた達が事件に関係してるとは思ってないから」


「じゃあなんで僕達まで取り調べされてるの?」


「あなた達が一緒にいれば、シルビアは逃げ出そうとは考えないでしょ。勿論、逃げ出そうとしても今度は確実に逃がさないけど」


「も、もう逃げだしたりなんかしません……」


 シルビアが弱弱しくマインに反論する。今はいくらか時間が経ち、シルビアも冷静になれているのだろう。まあ、いきなり殺人罪で捕まるなんて動揺するのは当然だ。逃げ出したくもなる。


 ルカが少し頷き納得したような声を上げた。


「人質ということですか」

「そんな物騒なものじゃないわ。あなた達と一緒にいるときのシルビアは逃げ出したときより随分落ち着いているらしかったから」


 逃げ出したときのシルビア……ちょっと想像できないが。絶叫しながら暴れ回ったりしていたのだろうか。

 しかし、ふと疑問が浮かんだ。


「シルビアってどうやってセントリス魔術学院から逃げ出してきたの?」

「え?」


 シルビアがいまいち僕の質問に理解していないように首を傾げた。


「だって、ここの学院って警備が厳重なんだろう? いくらシルビアが優秀な生徒だからって抜け出せるものなのかと思って」


 シルビアは、腕を組んでしばらく考え込んでいたが、諦めたように顔を上げた。


「なぜかあまり思い出せないんだけど……。とにかく必死だったんだと思う。あの時は私、すごく動揺してたし」


「ふーん?」


 シルビアの言葉に引っかかりは覚えるが、今どうこうできるものでもない……か。

 今は、とにかく僕のできることをするべきだ。そう思い、マインに話しかけた。


「ところで、ノルドは? 早く話したいんだけど」


 マインは不機嫌に僕の顔を見て答えた。


「今は授業中よ、終わったらあなたの所に行くように言っておいたわ。あと、面会を許すのはライズ・デンクル、あなただけ。本当は許可なんてできないけど、あなたの事件への関わりが薄いこと、ノルドの主張も尊重して特例で認めたわ」


 ノルドの授業が終わるまで僕は何もできないのか……。僕自身が動けないというのはマインに散々言われたのだが、諦めきれずもう一度マインへと確認する。


「んー。やっぱり僕は事件について調査しちゃいけない?」


「当たり前よ。そこまで許可した覚えはない。でも、コペルバウス教授の件はまた改めて私たちで捜査しなおすわ」


 続けてマインが言葉を続けて、


「私としてもおかしな点を無視してこの事件を終わらせることはできないしね。……あなたとノルドが動くまでもない。じゃ、もう今日は終わりだから」


「え? 早くない? 何も取り調べられてないけど」


「だから、形式上の取り調べだって言ったじゃない。私の今後の方針も伝えたしもう時間の無駄だから。どの道、シルビアもあなた達も事件について話せることなんてもうないでしょ?」


 そう言ってマインが先に部屋を出て行った。


(一時間も経ってないし形式上にすらなってないんじゃ……。)


 いくらマインが忙しいと言っても適当すぎやしないだろうか。僕らが集められた意味がなさすぎるぞ。


 その後、遅れて学院の警備らしき人が数人入って来た。これから、独房に連れていかれるようだ。

 ちなみに当然だが僕はルカ、シルビアの部屋とは離れた部屋に閉じ込められている。


 独房だと一人で暇なのが辛いところだ。四次元鞄も家に置いたままだし、することがないな。


 あ。そういえば、四次元鞄は大丈夫だろうか。マイン達は僕の家を捜索したらしいけど没収とかしてないだろうな。僕しか四次元空間を開けないし悪用される心配はないだろうが……。手元にないのは不安だな。


 僕らは部屋を出て学院の警備の人に連れられていく。僕の向かう方向はルカとシルビアは違うようで早々に別れることになった。

 別方向にいくルカに向かって、僕は呼び止めた。


「ああ、そうだ。ルカ」


 振り向いたルカに一言だけ声をかける。


「シルビアのこと、頼んだよ」


 ルカは少し目を見開いたが、すぐいつも通りの落ち着いた声音で「分かりました」と、返事をした。


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