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13.憂慮



 マイン・フィールズは、ここ最近の慌ただしい出来事に頭を抱えていた。


 クリアの最上位パーティーである蒼碧の星群(ブルー・アステリズム)の一員であり幾度となく苦難を乗り越えてきた彼女だが、一人で解決できるキャパを明らかに超えているように思えた。


 まず、数週間前に起きた『謎の魔物』の襲撃事件だ。

 突如帝都の近辺に見たこともない魔物が現れたのだ。歪な形で形成された醜悪な姿の魔物は、非常に強力な力を持っていてマインは手も足もでなかった。彼女は帝都を守るため全力で立ち向かった果てに、戦闘不能な状態に陥ってしまった。


 そんな折、ノルドが助けに来たが彼にどうにかできる相手であるはずはなく――あのままではマイン達はあの魔物の一撃で屠られるはずだっただろう。


 しかし、結果を見れば消えたのは魔物の方だ。突如、飛来してきた白光が魔物を跡形もなく消し去った。

 理由は分からないがマイン達は助かった、いや助けられたというべきか。あの白い光は明らかに凄まじい魔力が込められていた。一瞬であの防御力の高い魔物を葬れるほどの魔法。

 マイン以上の魔法の使い手であるのは明白だ。クリアでトップの実力を誇るマインをも大きく凌ぐ人間など全く心当たりがないため、他の国の魔術師かもしれない。

 なぜ姿も見せずマイン達を助けたのかは疑問だが、なにか事情があるのだろうか。


 いや、正体不明の魔術師のことはいい。それよりも、問題はあの魔物だろう。あの魔物がどこからやって生まれたのか、生み出されたのかも分からないが再び帝都を襲ってくればマイン達には太刀打ちすることは不可能だ。前回助かったのは偶々で次も助けてくれるなどという保証はない。

 魔物はなぜかマインが討伐したことになってしまい、帝都の危機感は薄い。


 また不測の事態が起きれば今度こそ自分たちの力でなんとかしなければならず、マインは帝都の防衛を固めようと動いていた。


 そんな矢先のことだ。

 セントリス魔術学院の教授であるコテルバウス・ニトルが殺害されたとの知らせがきたのは。


 マインのパーティ『蒼碧の星群』は帝都の防衛の特殊部隊であると同時にセントリス魔術学院での講師も務めている。

 勿論、国防の任務が優先事項でありセントリス魔術学院では臨時講師のような扱いで他の仕事がなく時間に余裕がある時にだけ行っている。


 だが、学院で教授が殺害されたとなれば、マインにとっても他人事ではない。

 セントリス魔術学院は名門中の名門学校だ。在学している生徒の中には貴族も多くいる。その家族への今回の事件の説明や、生徒の安全の保証などやるべきことは山のようにありセントリス魔術学院のイメージを下落は免れないだろう。


 犯人に検討はついているらしく現在取り調べ中らしいが、その犯人が学院の生徒でしかも貴族との報告を受けている。

 もはや頭の痛い出来事だ。


「全く……。どうなってるのよ……」


 頭を抱えていたマインの元へ慌てた様子の魔術学院の事務員がやってきた。その様子を見てマインの顔はさらに曇る。


「大変です、マイン様!! 取り調べ中のシルビア・ランヴェルが学院から逃走しました!!」


 追い打ちをかけるような悪い知らせに、マインは頭を殴られたような感覚に陥った。


「次から次に……」


 マインは隠すことなく大きなため息をついた。

 

 『学院での不祥事は学院で解決する』


 学長からは常々言われていることだ。今現在の学院トップの実力者であるマイン自身が動かなければならないのは自明だった。

 

 不機嫌にならざるをえないがこのまま放置するわけにもいかない。マインは急いで戦闘用に服を装備し言われるがままシルビア・ランヴェルの捕獲へと向かった。




 そして。


 ――――マインは、不思議な青年に出会ったのだった。






 マインの学院の中を歩く足取りは重い。犯人を捕まえるはずが、よく分からない事態になっていた。


(シルビアが犯人なのは明白なはず……)


 確かに、現場にはおかしな点は多くあった。マインも話を聞いて首を傾げるようなものだった……が、シルビア以外にコペルバウス教授を殺害できる人物などいない。全員アリバイがある。

 だから、マインはシルビア・ランヴェルが犯人だと疑っていたのだ。


(だけど……)


 ――――シルビアを捕まえた現場にいた男のせいで迷いが生じている。


 何がマインを一番迷わせていたかと言えば、()と友達だと言ったことだ。学院内を歩き、マインはとある男子寮へと入った。そして、目的の人物の部屋のドアをノックする。


「はい! えっ、マイン!?」


 ドアを開け中にいたのは、金色の髪の男だ。


「ノルド……。ちょっといいかしら?」


 ノルド・ウェグナー、今年から学院に入学した男。そして、マインにとってもノルドはただの他人ではなかった。

 だから、ライズがノルドと友達だと言ったせいで彼女は迷ってしまったのだ。この事件には何か裏があるのではないか? マインは冤罪の可能性も考え始めていた。


 急に訪れたマインに対して、ノルドは動揺せざるをえない。


「と、突然、どうしたんだよ? ……できるだけ俺に話しかけないんじゃなかったのか?」

「はあ……。そうだけど事情があるのよ」

「事情って何だ? あの魔物の件か?」

「…………」


「なんで黙るんだよ?」


(本当はノルドを巻き込みたくないけど……)


 マインはノルドへ事のあらましを簡潔に説明することにした。コペルバウス教授の殺害事件として、シルビア・ランヴェルが捕まったが逃走したこと。とある男がシルビアを匿っていたこと。


 そして――――。



「はあっ!? ライズってあのライズか!?」


「どのライズか知らないけど、あなたと友達だって言ってるわ」


「じゃあ、ライズは無罪だ!!」


 ノルドの勢いにマインは圧倒される。友達だったということは嘘ではなかったようだが、1ミリもライズを疑っていない。そこまで、仲が良かった人間がいたことにマインは疑問が浮かぶがひとまずノルドの主張へ耳を傾けることにした。 


「………その心は?」


「えっと!! あいつすっごいお人好しなんだよ! 顔も知らなかったはずの俺を無償で助けてくれて……。だから、きっとシルビアのことも俺の時と同じように助けようとしたんだと思う」


「私はあの男のことをよく知らないし疑わしいと思ってるけど、……本当に信用できるの?」


「ああ!! 絶対いい奴だから!!」


「……そう」


 マインはノルドの言葉を聞いてもライズのことは信用できないと考えていた。ただの直感にすぎないが……、あの男にはどこか胡散臭い言動があると。身元も調べたがよく分からなかったというのもマインの疑念に拍車がかかる。帝都は広く、貧富の差もあるため身分が分からない民も多くいる。しかし、ライズのいた家を見る限り、貧しくはなかった。むしろ、お金はある部類だろう。そんな稼ぎがあるなら、どこかに名前の一つが残っていてもおかしくないはずなのだが……。


 そこまで考えて、マインは首を振った。

 

(あの男自体は疑わしいけど……あの男の家を捜索しても怪しいものは何一つででこなかった。少なくともこの事件への関連は低い)


 今は、事件解決に向けて動くべきだろうと自分に言い聞かせる。


「ノルド、私がここに来たのはあの男、ライズからあなたへの伝言を伝えるためなの」


「伝言?」


 首をかしげるノルドを意に介さず、マインは懐から手紙を取り出した。 


「読み上げるわよ。『やあノルド、元気? いきなりで悪いんだけど困ったことになってね、君に協力してほしいんだ――」


 我慢できなかったのか、ノルドはマインの言葉を遮るようにして同意の声を上げた。


「当たり前だ!! ライズには借りがあるし!!」


「まだ続いてるわ。『僕らは何もしてないのに犯罪者として疑われている。自分たちで無罪だって証明したいところなんだけど立場上動けそうにない。だから、君が事件を解決してくれ!! よろしく頼んだ!!』」



「おう!! …………へ?」


 ノルドは勢いで拳を振り上げてしまった拳を下すことができないまま、固まっていた。


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