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10.セントリス魔術学院



 シルバーオーガの件から数週間程が経った。あれから僕達は、主に情報収集や拠点の確保などに動き派手な行動はとっていない。

 拠点と言っても帝都の隅にある人通りの少ない地区で空き家を借りただけである。お金は大量にあったので特に困ったこともなく比較的大きめな一軒家を選ぶことにした。



「どうぞ」


 部屋の一室で帝国クリアの資料を読み流す僕にルカがお茶をそっと出してくれた。


「ありがとね、ルカ」


 ルカに注いでもらったお茶を飲みながら、資料をパラパラと捲る。ちなみにこの資料は以前調べたものよりさらに詳しくルカが調べてきてくれたものだ。

 資料によるとどうやら蒼碧の星群は現在この帝都には一人しかいないらしい。残りのメンバーは任務で他の国へ出かけているとのこと。シルバーオーガの討伐に単独でやってきたのもやむを得ないことだったのだろう。


 そして、シルバーオーガの討伐にやってきたのは、蒼碧の星群の一人『マイン・フィールズ』――――この国でSランク評価を受けている魔術師だ。様々な属性の魔法を自在に使いこなす万能タイプ。

 ここまではシルバーオーガとの戦闘からも分かっていたことだが、次が重要な項目だ。なんと彼女は『セントリス魔術学院』で講師を担当しているらしい。


 ここで、ようやく『ノルド・ウェグナー』との繋がりに合点がいった。


 ノルドもその学院の生徒であり彼女と知り合いでもおかしくはない。まあ生徒と教師の関係にしては、少し距離が近いような気もしたが……。


 ノルド・ウェグナー。魔族の魔力を使おうとした不思議な青年だ。ルカのくれた資料を見ても彼についての記載はほとんどない。


「蒼碧の星群の情報はある程度は分かったけど……、ノルドについては何か情報はない?」


「……すいません。できるだけ調べていますが、そもそも彼のことを知っている人がほとんどいないんです。最近、この帝都にやってきたということしか把握できていません」


「うーん……」


 てっきり、マインとやらと仲良さげだったから国の戦闘員の可能性も考えていたけど。そこまで情報がないとなると田舎からやってきたただの人間みたいだ。

 だが、そんなはずはない。シルバーオーガが攻撃をやめるほどの魔族の魔力。彼にはきっと何かあるはずなのだ。

 だから、ここで放置はできない。


「直接探るしかないかな……?」


 ポツリとこぼした僕の言葉にルカは苦い顔をする。


「それは難しいですね。というより、彼は今セントリス魔術学院にいるので監視することすらできていません」


「?」


「彼の所属しているセントリス魔術学院、あまりにも閉鎖的なのです。全寮制で生徒はほとんど学院から出てくることはない。なんでも外出には許可がいるとか」


 なんだそれ……。もはや牢獄なのでは?

 そんなことを思っている僕だがふと疑問が浮かんだ。


「え? じゃあなんでノルドは普通にシルバーオーガの放った森に出てこれたの?」


 もし全寮制で外出できないなら、あの場にノルドが現れたことがおかしいことになる。ルカはあくまで推測ですが、と前置きして言った。


「勝手に抜け出していたか、まだ入寮してなかったか、でしょう。あの時点では、セントリス魔術学院の入学式がまだ行われていなかったので」


「?? じゃあマインフィールズとは学院で知り合ったわけじゃない?」


「人が人と知り合う場面なんて数え切れないほどありますからね。元々知り合いだったのかもしれません」


「へえ?」


 国でSランク認定された人間と魔族の魔力持ちの人間が知り合い……。不思議な巡りあわせというやつなのだろうか。 


「しかし、困りましたね。セントリス魔術学院に侵入できないこともないですが、シルバーオーガの時以上にリスクがあります」


「うん、できればその手段は取りたくないな」


 さすがに、侵入して見つかってしまっては僕の平穏な生活は一気に遠のいてしまう。人間と魔族の両方から指名手配なんてシャレにならないぞ。

 

「セントリス魔術学院かあ……」


 ルカの調査によると、この魔術学院は名門中の名門。魔術を極めるために多くの才能を持った人間が集まっているらしい。その中には、平民だけでなく貴族や王族まで多くいるそうだ。厳しい環境ではあるが、ここを卒業すれば魔術師として一人前であることが保証されるため身分の高い人間でも進んでやってくるのだとか。また、セキュリティがしっかりしているから子供を預けても安心できるとも言われている。


 蒼碧の星群の残りのメンバーが帝都に戻って来るのを待って適当に魔物を差し向け改めて力量を確かめるのも良さそうだがいつになるかわからない。


「行ってみようか、セントリス魔術学院」


 潜入するかどうかは置いておくとして、実際に見て見なければ始まらない。





「あれがセントリス魔術学院……」


 まだ辿り着いたわけではないが、かなりの大きさのため数キロ離れた場所からでも確認できる。大きな建物が並んで建てられている。もはや一つの街といっても過言ではなさそうだ。


「学院の周囲には強力な結界が張られているらしく、警備員は全員Bランク以上の魔術師で24時間体制で監視しているそうですよ」


「ふーん……、その様子じゃ中の警備も厳重そうだ。帝都より警備がしっかりしてるんじゃない?」


「はい。中の警備システムについては秘匿されていてかなり厳重だと覗えます。誰にも見つからずノルド・ウェグナーの情報を得るのは難しいでしょうね」


 それだけ聞くとこっそり侵入は無理そうだ。僕が考えても、ルカ以上にいい案は出せそうもないので、他の案を聞いてみる。


「他に方法はない?」


「侵入以外で学院に入るとなると正式に手続きを踏むしかありませんが……身元不明な私たちでは無理です」


「正式にって?」


「ライズさんが学院のどなたかに面会の手続きをして正攻法で侵入することです。例えば、ノルド・ウェグナーには入学金を払ったという『貸し』がありますから、それを利用するとか」


「え、やだよ」


 魔族と何か関係があるような奴とこれ以上関わりたくない。というか貸しを理由に会いにいくって返済を催促してるみたいじゃないか。かっこ悪いぞ。


「ライズさんならそう言うと思ってました。どちらにしろ私達は身元不明なわけですから無理でしょうけど。家を借りたときはどうにかなりましたがセントリス魔術学院は国と密接に関わりあっています。なのでろくに身分を証明できない私達の申請はまず通らないでしょう」


「じゃあ結局セントリス魔術学院には入れないね」


 もはや乾いた笑いしかでない。

 わざわざセントリス魔術学院の近くまできたが、分かったのは学院の綺麗な外観と警備が厳重だということくらいになってしまった。

 とりあえず、一旦家に帰って考えるしかないか。あわよくば、学院の警備によってはなにか仕掛けようとも思っていたがそれも無理そうだし。


 今は、早朝で辺りには人はほとんどいない。ただ建物が道に沿って並んでいるだけだ。朝ご飯でもどこかで食べようかとも思ったが、どの店も空いてないだろう。



「お店は空いてなさそうだけど、せっかくだしこの辺りを散策でも――――」




 そう言いかけた瞬間だった。静かなはずの早朝に黄色い悲鳴が聞こえた。 


「やめて!! 私じゃない!!」


 突然の悲鳴のような絶叫。

 声の方向を見てみると、学生服を着た少女が数人の兵士に囲まれ地面に押さえつけられていた。


 兵士は、おそらくこの国の防衛を担っている者だろう。

 状況を概ね把握した僕は、完全に他人事のようにそれを見ていた。


「へえ。こんな朝から物騒なもんだね。あんな若い女の子が犯罪者とは世も末かな」


 それ以上の感想はなかった僕は踵を返し、その場を離れようとしたが隣のルカは足を止め、じっとその様子を睨み続けている。


「ライズさん。煙幕あります?」

「え? あるけど……」

「いくつかくれますか」


 ルカに言われるがまま反射的に煙幕をおなじみの鞄から取り出し渡す。


「申し訳ないですが先に家に帰って待っていてください。ライズさんが近くを離れてから動きますので早めにここから離れてくれると助かります」


「え? ああ、うん?」



 よく分からないが、僕はすぐに家に帰らなければいけないらしい。

 なので僕はルカと別れていそいそと家に帰る方へと歩きはじめる。

 すると、少し経ったところで、ルカのいた方向を振り返ると後ろで黒い煙幕が上がっていた。



 ええ……………。


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