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1.逃亡



 ――――魔族と人間。二つの種族は、お互い相容れない存在として、数百年、数千年と古い歴史からいがみ合ってきた。時には、歴史に刻まれるような大規模な戦争も数百年に一度は行われ、その度に憎しみを生み出し、二つの種族の間には絶対的な大きな隔たりができてしまっていた。

 最早、どちらか片方が滅亡するまでこの歪みは消えないだろうとさえ言われている。


「カース様が殺られただと!? ありえねえ!!」

「クソ、忌々しい人間共め!! どんな卑怯な手を使ったんだ!!」


――――そしてここ、魔王城ではつい先程届いた仲間の訃報に戸惑いと怒りで大騒ぎとなっている。


 カース・アルバーク――――魔王軍の幹部であり、その中でも序列“第一位“。その実力は魔王にも匹敵するとさえ言われていた。しかも、まだまだ若手で実力は発展途上であり次期魔王候補として有望視されていたのだが……。


 いくつもの大陸、海を飛び越え人間の領土へと偵察に向かったと聞いていたが、どうやら死んでしまったらしい。他の仲間も動揺し、大騒ぎとなっている。


(これじゃあ、仕事が手につかないぞ……)


 僕はいつも通り魔王城で仕事をしていたのだが、この騒然とした状態では仕事どころではなくなりとりあえず情報を待っている状況だ。

 カースとは面識もあるし思うところがないわけではないが……、そもそもあまり好きではなかったので悲しいという気持ちは薄い。


 仕事部屋でひたすらぼんやりしていると、僕の後ろから声がかかった。


「ライズさん、大変なことになってしまいましたね……」


 振り返ると部下であるルカが立っていた。いつもは凛としている瞳は揺れ、不安を隠しきれていない。まあその事実が本当ならば大変なことだろう、魔族側の戦力が大幅に削がれてしまったのだから。

 

 ……だが、俄に信じがたい。


「カースが殺されたって間違いないの? 死んでも死なないような奴なのに……」


 魔王と同レベルの強さって聞いてたし、僕も少し戦っているところを見たことがあったが凄まじかった。魔物の群れを一瞬で殲滅したり、森を全て燃やし尽くしその土地に新たに自分の家を建てようとするくらい頭がおかしいレベルの化物だ。あんなのどうやって殺すんだ。


「私も信じられないのですが……、魔王様との魂の契約が切れたそうなんです」

「あー、そっか。他の幹部はそういうのやってんだっけ」


 魂の契約、お互いの間で交わされる主従の関係だ。魔王は、魔力を貸し与えその代わり生命力を提供するというなんとも不公平な契約である。ただ魔族は力を追い求める本能があり寿命も人間と比べると長いためwin-winくらいに考えているらしい。まあ寿命が400年と考えて200年になると考えれば、本人達にしたらそんなに変わらないのかもしれないな……、僕には考えられないが。

 魂の間で直接行われた契約は死ぬまで継続され、一方的に取り消すことはできない。それが消えたということは、カースが死んだというのは間違いないようだ。

 病死や事故死という可能性も頭によぎるが、カースはあらゆる耐性持ちで病気にならないしカースが死ぬほどの事故なんて世界が滅亡したときくらいだろう。


 即ち、魔族のトップレベルの力を倒してしまうほどの脅威が現れたということで。


「というか何で魔王はカース一人に偵察に行かせたんだよ。あいつ隠密行動に全く向いてないじゃん」

「カース様が直訴したようですね」

「なるほど、つまり偵察というより人間を滅ぼしに行ったってことか。あいつらしいけどまさか殺されるとはねえ……」


 これはピンチだ。魔族のピンチというより、魔王軍に入っている僕の命がピンチだった。


「うーん…………」

「魔王様は全軍待機との命令を下しています。カース様から軍の情報が漏れている可能性も考慮にいれ、しばらくは城の守備を固めるようです」

「守備って……。袋の鼠になるんじゃないの」


 今、カースを倒せるほどの人間達が魔族の領地へと攻め込んできて果たして勝つことができるのか。いや、無理だろう。


 魔王に匹敵するカースがやられたんだから普通に無理だ、誰も勝てない。このまま魔族は滅亡させられるまであるのではなかろうか。

 唯一の希望があるとすれば、魔王が何か切り札とか勝機を見出していることだが……。


「あの気性の荒い魔王が部下を殺されたってのに報復しようともせず、ただ守りに入るなんて相当不利と見てるってことだよね」

「魔王様はカース様の実力は認めになられてましたから……」

「やっぱり、魔王でも勝てそうにないなあ」


 正直、魔王軍の居心地は悪くなかったがこんな状況になってしまえば話は別だ。死ぬのが分かっているのにこっち側につく理由はない。

 リスクは高いけど腹を括るべきだ。


 僕は部下のルカに向かって言った。


「僕、魔王軍抜けることにするよ」


 それに対して、ルカは豆鉄砲を食らったような顔をしてぽかんとしていた。


「……は?」


 こうして、僕の魔王城からの逃亡が始まった。



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