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私は成人してます、人間だもの



コンコンっと私の部屋がノックされちゃったから、一回サボるのをやめて魔方陣をしげしげと見ていたフリをしつつ……。


「なーにー?」

「ルゥちゃん、入っていいかなー?」

「やだよー?」

「入るねー」


人の話聞いてー?と返すが、既にフィルトさんが扉をあけて、私の部屋に入って来ていた。


「ルゥちゃん、頑張ってる?」

「やってるよー?」

「さっきまでそこのソファーで寝ていたように見えましたが」

「……気のせい。なぜいる」


フィルトさんの影から聞こえた声に、私はとっさに自分の身体の表面に結界を張った。こうする事であの縁結び系印の魔法から逃げるの。透明なケースに入って外との接触を断つことと同じ。魔法は私のすぐ側の結界に阻まれて、私を感知しない。だからいくら王子が、同じ印を持つ相手に近づこうとも気付けないの。

じゃあそれをずっとしてれば、バレないんじゃ無いのって?それは無理なんだよねー。

魔方陣の人探しの目印は、私が今魔法と手袋で隠してるこれです。いくら私の周りに結界張っても、私の体の一部に直接付いちゃってるから、結界の中にそれがある事になる。なので呼び出されちゃうって事なの。痣が消えればいいなら削ぎ落とせば?って誰か言った?猟奇的すぎるよ。痛いの嫌だよ。


解析して消せば?それやったところでまた術かけられたらエンドレスだし、多分消したらその反応を辿って消えた場所を特定してそこに転移する作戦に出ると思うんですよねー。出来ますしね。流石に私みたいに頼まれてすぐは無理かもしれませんけど、年単位で必死に試行錯誤すればできると思います。その頃には王子もいい加減結婚しないとまずいですから、バレた際に私が処分されるのは間違いないでしょう。ぜぇーったい嫌だ。


「リーンフェルト様がルゥちゃんに直接お礼を言いたいんだって」

「……お礼?」

「私のパートナーを探す為に、あの魔方陣は必要不可欠なものなんです。ですから貴女が手を加えて良くしてくれているのに礼を言わないのはおかしいと思いまして」


成る程。気にしなくていい。魔王様が言った事は絶対。だからやってるだけ。と返しておきます。私、基本的に魔王様の元で働き、ぶつかり合い、信頼している人以外には短文で話すのが信条なの。悪いけど、今回手伝ってるのは、私が逃げる為だから仲良くなる予定は全くない。私がついうっかりで魔方陣の範囲内に捕まらない限り、貴方に春は来ない。見つかったとしても春は来ない。ドンマイ!人間領の諸君‼︎だが仕方ないだろう。印の相手が私だと知れば、きっと見つからなけりゃ良かったと思うはずさ‼︎


「ルゥちゃん、今から彼に鍛錬場を案内するんだ。一緒に行こうね」

「やだ。行かない。私は研究しないといけないの」

「大丈夫大丈夫〜。リーンフェルト様はどう思います?」

「私の為に部屋に篭って研究してくれるのは大変光栄なのですが、明日の昼まで時間もありますし、息抜きでもしませんか?」


それ、両手両脚をバタバタさせるくらいしか抵抗手段が無いように持ってからいうセリフじゃ無い。フィルトさん!はなして!と意思表示するけど、流石魔族の将軍と言うべきか、片腕で軽々と私を小脇に抱えて歩き出す。はーなーせぇー‼︎


「暴れると危ないよ、ルゥちゃん。メ!」

「子供扱いするなーー!」

「いや実際子供でしょ。15歳なんて」


人間領なら成人だよっ!と返すと、よく知ってるねー偉いねーと頭を撫でられる。いつもなら気持ちいいからもっとと催促するけど、今回は別ね!バカにされてる!絶対そうだ‼︎もう怒ったぞ。こうなれば単身転移魔法で……と思ってたけど、背後から呆然と15?と皇子が聞いてきたので、私もフィルトさんも巫山戯るのをやめて、いつのまにか足を止めていたらしい皇子を見た。


「どうなさいました?何か気になるものでも?」

「…あ、いえ。失礼しました。そちらの少女は15歳と聞いて驚きまして」

「ああ、魔族だとまたまだ赤子に等しいですけど、この子は別です。保護したのは魔王様ですし、有能ですし、本人も望んでいるので」

「……そうではなく、……失礼ながら10歳前後かと思いまして」


気を悪くさせたら申し訳ないです。そう言う皇子の顔色は暗い。ああ、発育が悪いって言いたいんですかそうですか。仕方ないじゃん。人間領に居た時に摂取していた栄養がどうにも足りなかったんだから。……とは言えないので、いえいえお気になさらずーと返しておきましょう。


「……ルゥはね、今から5年前に拾われた時は、もっと細くて小さかったですよ。これでも成長した方です。産まれてからずっと栄養が不十分なまま生きてきた証拠です」


フィルトさんが持ち方を変える。うわわ。急に抱っこに切り替えないで。こわい。


「魔族の親がこんなに小さな子供のそばを離れるなんて、普通ならありえません。親がいたならこの歳でこんなに魔法を使いこなして、独自研究する程の学力を持つことは無かったはずです」


フィルトさんは言外に言っているのだ。多分この子は、のっぴきならない事情で親を失い、独りで必死に生きてきたのだと。そして5年よりも前という事は、人間に殺された可能性が高い、と。


……成る程、牽制か。皇子はどうやら私と仲良くなりたいようだから。簡単に仲良くなれると思ったら大間違いだと言っているのだろう。……私が避けたがっていたのも関係してるかもね。フィルトさんは私の感情の機微に敏感だから。連れ出したのは権力者とそれなりに仲良くなれば色々便利だよなーっていう気持ちから。でも思ったより私が抵抗するから、本当に嫌なんだと分かって牽制をかけることにした、と。


小声でありがとう、とフィルトさんに言えば、優しく頭を撫でられた。……だからって部屋から強制的に出した事を許したわけじゃないからね。

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