得難いもの
かなり久しぶりの投稿です。ぼちぼちやっていきます。だいぶお待たせしました。ごめんなさい。
初めて彼女を見た時に違和感を覚えた。
観察しているうちに、人見知りだから避けているとかより、何故結界を纏って身内のことも避けているのかが気になった。数日間失踪した後は、特に結界を張っていなかった。
そこで漸く気付く。
隔てられるものが無くなったからかもしれない。
なんとなく、この子だと思った。
まあ、直感でしかない。けど自分はこれまで、その直感に救われたことは数多い。だから敢えて言おう。これは確信だ。
私が探していたのは、この子だ。
でも、彼女は魔族の特徴である黒い髪を持っているし、人間嫌いだという。しかも私には神からもたらされた術によって、見つけなければいけない対象がいる。見つからないし、なんならこの子に付いていればいいのにとも思ったけど、彼女が魔族な時点で、対象から外れている。物凄く残念。
まあ、その後色々手を尽くしてもらったけど、結局私に印さえ付かなくなった。……会う前に死んでしまったとか?……そう思っても正直な話、何も思わない。
それよりも目の前の小さな魔族が気になって仕方がない。
「……人間が嫌い?」
愚問だと思った。同時に私は疑問に思っているんだ。人は嫌いな相手には、どれだけ上手く隠そうが嫌悪が滲み出る。シュアードを見ている限りは、それは魔族も同じだと思う。
しかし、彼女は違う。
彼女から感じるのは常に警戒と、……恐怖。嫌悪を向けてくるのは、本当に稀な事だ。
「……きらい」
同僚から頼まれたという時計を器用に直しながら彼女は答える。
嫌いだ、嫌だ、どっか行けと言いながら、聞いた事にはきちんと答えてくれる。無視したりしない。律儀な子。とても……不思議な子。
「……君たち魔族と私たちは、物凄く似ているのに?」
「似てない」
「……じゃあ、どこが違うの?」
「人間は、……弱くて臆病で少し違うだけで、爪弾きにする」
「……そういう人も、中にはいるね。けど」
「みんな同じ」
とても小さいつぶやきで、けど、その言葉には有無を言わせない強い意志があった。
「……きっと、あなたも」
時計から離れた視線が私とぶつかった。
フードの下から見えた瞳は、あまりにも悲しかった。
多分私は今、人間はみんな酷いやつで、自分もその1人だと、暴言をくらったのだろうけど、そんな事はどうでもいいし、なんなら、酷いやつでもいいと思った。
そう思われても仕方がないと思った。
だって、私は私を嫌っているはずの彼女に手を伸ばした。多分避けないという確信を持って。
「はい失礼しますねー。
ルゥちゃん。ココア置いておくよ〜」
……将軍が私たちの間に割り込む様に腕を伸ばして彼女の為に作ってきた飲み物を置いたせいで、触れる事は、出来なかったけどね。
「ありがとフィルト」
その声は安心しているようで、先程までの拒絶感は全く無い。素直に将軍の事が羨ましい。
「ルゥちゃん、それを飲んだらお昼寝ね。時計小さいから目が疲れちゃうよ」
「フィルトと違って老眼じゃないよ?いたたたたっ」
「ルゥちゃん?僕も魔族ではまだまた若いからね?」
「……はぁい」
将軍が彼女の髪を乱すように荒く頭を撫でる。
そんな様子からですら、彼やシュアード達、それにこの城や魔族領の魔族達が彼女を大切にしているのがわかる。
同様に、彼女もこの場所を大切にしているのだろう。
もし私が彼女を連れて行こうとすれば、シュアードと数年前よりも激しい戦いを繰り広げる事態になるんだろうな。多分、負けない……というか、彼女が懸かっているのなら、私が負けるのは死んだ時だけだと思う。私を殺して戦いが終わるまで、決着は無いだろう。
……こんな事を思うくらいには既に彼女に執着しているらしい。
おかしいな。私はいつからこんなに、人間らしくなったのだろうか。
「…………殿」
というか、何故望んだところで得られなそうな彼女を手に入れるつもりになっているのだろうか。
「………フ……ト殿」
嗚呼、不思議だな。この訳の分からない気持ちや疑問すら、彼女に関しての事であれば幸せだとは。
「リーンフェルト殿!」
「なんでしょう」
「……ルゥちゃんは今から休むので、ご退室を。どこか行きたい場所があれば案内します」
彼女はココアを飲みながら、私の様子を伺っている。小動物のようでとても可愛らしい。
「ではまた明日、伺いますね」
いつものようにそう告げて部屋を出ます。
多少面倒そうにするが、魔族領へ二度と来るなとか、部屋へ帰れはともかく、人間領へ帰れとは言わないんですよね。
"また明日"彼女に会える。それがただ嬉しくて、私はあてがわれた客室へ、上機嫌で戻るのだった。
待っていてくれた方々に感謝です。
近々急展開を迎えます。




