皆力持ち過ぎると思うの
「……焼き鳥の匂いがしますにゃー?」
「焼き鳥じゃないやい。まだ生きてるよ、生肉だよ」
「反省はそれだけかな?ルチェちゃん」
「反省してるよ。今度から川流れするときはちゃんとアラームをかけて滝に差し掛かる前に起きるよ」
「うん。全然反省してないね」
天界領から鳥さんに乗って魔界領に到着した私。鳥さんともふもふして別れたあと、フィルトさんの使い魔のワンちゃん(魔狼っていう種類の魔獣なんだってー)に捕まった。首根っこぱっくり咥えられ(大丈夫。驚くほどにソフトタッ…………。ローブの裾に穴空いた。後で可愛いアップリケ貼ろう。黒猫がいいけど、黒色のローブだから目立たないかな?)……そのまま彼の背中にポイっとされた。そこをフィルトさんがキャッチ。
一緒についてきたらしいちょっとおばかさんの冒頭の言葉に繋がる。
「一体どこに行ってたんだい?魔王様が心配しすぎて魔族領の端から端まで駆け回って魔族領中大騒ぎだよ?」
「え?何でそんな?」
「……ルチェちゃん、自分が何日姿を消してたか、分かってる?」
……何、日?おかしい。私は確か川流れしてたけど、それはほんの小1時間。その後天界領で過ごしたのも1時間ほど。でも、フィルトさん曰く、数日間私は魔族領から居なくなっていたことになってる。あれれー?
混乱した自分の頭もなんとか整理したいので、私的どうでもいい事を口にしつつ、考えることにします。
「……えっとー?一先ずフィルト、私人間なんだー。魔族じゃないの。今まで黙っててごめんねー?」
「へえ、そうなんだ。それはどうでもいいから質問に答えてね。
一体、今まで、どこに行ってたの?」
なんてこった。私が黙りに黙っていたほんの数時間前までの重大機密は、どうやらフィルトさんにとってかなりどうでもいいことだったらしい。
「……天界領に、ちょっと」
「天界領?何であんな所に……。というか、どうやったらあんな所まで飛べるの?」
「んーと、何というか」
私はフィルトさんに、果樹園の夫婦と別れてからのことを洗いざらい話した。いや、だってもう考えてもわからないですし?そもそも考える暇すら無かったし?
「ルゥちゃんがついつい長い睡眠をとってしまっていたか、
天界領での居心地が良すぎて、実は数時間どころではなく数日間睡眠を貪っていたか……」
「それか天界領の時間と魔界領の時間の経過が違うかだよね!何で全部私のうっかりで済ませようとするの⁉︎」
悪意を感じる‼︎
「……ルチェちゃん、みんな心配してたんだよ。少しでも馬鹿げたあり得そうな理由を添えないと、魔王様だってルチェちゃんが帰ってきても安心しないよ」
「し ん ぱ い ?」
何で?
正直、本当に訳がわからなくて首をかしげると、何故か心底憐れなものを見るような目で見られた上に溜息までつかれた。それも盛大に。
「さっき、確かにどうでもいい事だったからどうでもいいって言ったけど、ルチェちゃんの事がどうでもいいって言ったんじゃないからね。
ルチェちゃんが人間だって知っても、僕を含めて君を知っている皆は、それが何だって笑い飛ばすよ。事実として、魔族は弱肉強食……というか強い者が正しいっていう考え方だから、そこには種族は関係ない。
僕らにとっては、ルチェちゃんはルチェちゃんなんだよ。
君は物凄く気にしてた事が心配ないんだって気付いて、安心したと思う。僕らも、それが聞けて嬉しく思う。でも同時に懸念事項があった」
「……懸念事項?」
「ルチェちゃんが、魔族領に居辛くなって急に居なくなっちゃうかもとか。
人間領に居るであろう親を探しに出たら?とか」
「前者に関しては英雄が来た日にちょこっと考えた。後者はあり得ないから心配いらない」
何せ居場所を知って居るらしい龍神様に会って会いたいか聞かれて即座にお断りしたくらいですからね!
「…っていうのをね、出来る事なら魔王様に直接伝えておいて欲しかったよ。まあ、そっちの心配がいらなくなったとしても、お菓子につられて誘拐されたんじゃないかとか騒ぎ出すだろうけどね……」
お菓子につられて誘拐されるって、ちょろ過ぎるだろ。
「私はそんなに簡単に誘拐されたりしないもん」
「……ルチェちゃん、君はついさっきまでどういう経緯でどこに連れていかれていたか分かってるのかな?」
胸に手を当てて考えてごらん、とフィルトさんが生暖かい目でみてくる。アホの子を見る目だ。
「兎に角、魔王様とよくお話するんだよ?」
魔王城の門が見えた。あれ?閉まってる。いつもなら開け放っておくのに。……もしかして英雄がまだ帰っていない……?手の印はさっき確認して消えているから、その点に関してはもう安心といえば安心なんだけど。
フィルトの使い魔は、凡そ10メートルはある城門を悠々と跳躍で飛び越え、
「はい、いってらっしゃい」
見事に超えた瞬間、フィルトは私を掴むと、砲丸投げよろしく、城門の内側で3バカを含む肉体派達によって何とかギリギリ抑えられている様子の魔王様に、この私を投げ飛ばした。