なるほどこれが幸せか
「ルゥは絶対お兄ちゃんが守ってやるからな」
「魔王様ありがとー。だいすきー」
マコックが鳴いてからおよそ6時間。私が期限にしておいた昼がやってくるので、魔方陣を魔王様に渡して、魔族領の中央区から始まりどの順で魔法を使っていくか聞き出した。
「一通り終わったら、リーンフェルトも流石に印の効力を疑う筈だ。そこで俺が条件を変えてみようと提案して、リーンフェルトのパートナーを見つける魔法を付け直す。そうすればルゥも逃げる必要は無くなる。万事解決だ」
「条件の中に、私以外の人間って項目を付け加えればいいもんね。本当は今すぐやって欲しいけど、それはそれで不審がられちゃうもんね……」
なら安全圏で嵐が過ぎるのを待ちますとも。少し我慢すれば、魔王様がうまくやってくれるし。
「じゃあ、ルゥ。呉々も気をつけてな?少し遠出するのはいいが、お兄ちゃんがすぐに行ける場所にいてくれな?」
「うん。果樹園のあたりに行こうかなって思ってる。人間領にも近くて、しかも観光地から離れすぎてるから、調べる範囲から除外されてる。安全」
「流石ルゥ。ただ果実水の飲み過ぎには気をつけるんだぞ?」
「はーい!
じゃ、行ってきます‼︎」
お土産買ってくるね!と言い捨て、転移魔法で、お馴染みになっている魔族領の果樹園(私が一番最初にお世話になった魔族の夫婦の管理している果物畑)に行く事にした。
あの辺、果物がよく育つ豊かな土地なせいか、魔物もよく出るんだよね。お陰で魔族領に来る人間もあの辺りには近づかない。だから今回調べる事になっている魔族領には含まれてないんだ。
定期的に魔物狩りのため果樹園には通っており、あの魔族夫婦とはかなり良好な関係を保っている。今日も遊びに行くと告げてあるので、お裾分けの果物のお菓子や、ジャムを用意してくれていると思われます。いやあ、お世話になってます。
訪れたその夫婦の家の庭で、案の定2人は待っていてくれました。
「こんにちはー!」
「ルチェちゃん!いらっしゃい」
「よくいらっしゃいました。さ、こちらへ」
今度はハーブも育てる事にしたんです。と旦那さんが言いつつ、そのハーブを使ったブレンドティーを出してくれて……。相変わらずの優しさ……。その優しさに初めて会った頃の私は救われました……。ありがとうございます。
果物やハーブの出来から近況報告は始まり、相変わらず近くの森には魔物が多い事を聞き、狩に来る頻度を上げようと思いました。まあそこまで来ると、最新の話題ですよ。そう、今魔族領のホットニュース。
"英雄の嫁探し"である。
正確にはパートナー探しだよと奥さんにいったら、どっちでも同じ事だよと旦那さんに言われた。早いとこ終わってくれないかな。
「それにしても、英雄のお嫁さんはどんな人なのかしらね?」
「噂じゃ人間領では見つからなかったらしいね。どう思っているんですか?ルチェちゃん」
「ええ……。そこで私に話を振る?まあ、魔王様がつけた条件で、純潔な人間の女性ってことは分かってるよ」
「えええ?それだけなの⁉︎もっと、こう……性格とか、そういう条件は付いていないの?」
「うん。魔王様が言ってたから、間違い無いと思う。……今回見つからなければ、条件を変えて更に探すらしいし、その時にでも性格とかの条件をつけるんじゃないかな」
勿論皇子には告げずに、魔王様が私を除外という条件をつけるけど。
「でも、性格の条件なんて付けられるんですか?」
「不可能、ではないと思うけど、まあ難しいとは思う。どこを基準としてみればいいかわからないから」
旦那さんの質問に答える。何せ魔方陣を作るのが私である以上、失敗はないだろうけど、悩むくらいの事にはなりそう。だって人の良し悪しなんてどう決めろと?
優しい人の基準を魔王様や目の前の夫婦にしたら、私基準で人間領の80%は優しくない人になってしまうだろうし、と付け加えれば、ルチェちゃんたら、持ち上げすぎと言いつつも、追加でお菓子をくれました。ありがたや。
「……ルチェちゃん、魔物狩りとか、そういうのが無くても、いつでもここに遊びに来ていいんだからね?」
「けっこうここに来てるけど……?」
「5年前に会った時、ルチェちゃんは物凄くボロボロだったわ。何であんなに幼い子が、1人で着るものも食べるものも苦労している様子だったのか、ずっと気になってたの。その後魔王様に拾われたって報告しに来てくれた時は安心したんだけど……」
「……ここ最近、人間領からの旅行者が多いでしょう。魔王城のある中心部では人間の商人も店を構えるし、移住者も増えていく。……妻はそれが心配なんだよ」
どうやら思ったより、私の事を気にかけてくれていたらしい。……嬉しい、かもしれない。だからこそ、隠しておくのは違う気がする。……私は私だ。魔王様がそう言ってくれた。大丈夫。
「2人に、話したい事があるんだ」
私が人間である事を2人に話したけど、2人ともそれが何?と言った感じで、受け入れてくれた。そんな事より!と、魔族領に人間が増えることに関してもっと大丈夫なのかと身を乗り出して聞いて来るから、びっくりした。
「ありがとー!」
事情はともかく、魔族領に来れて、多分私は幸せだ。