最強の味方を手に入れた!
私の頭に落とされた手は、想像よりはるかに優しかった。
そっと瞼を開けば、ソファーに座った私の視線に合わせるように、魔王様がしゃがんで、私の頭を撫でてます。その表情は、普段と変わらない。いや、疑問の色が強い気がします。
……なぜ?
「……えっとー、あの、魔王様?」
「ん?何だ?」
「……私の話聞いてた?」
「……ああ、人間って話か。で、それが?」
はい?
「いや、人間だろうが魔族だろうが、ルゥはルゥだろ?
"俺の妹だ。今までもこれからも。"
……って、言ったよな?」
……さっき、言ってた……気が、する。
「俺に匹敵する魔力で、髪が黒。拾った時はどっちかわかんなかったけどな。でも正直な話、どっちでもよかった」
「……と、いいますと?」
「ルゥが善意でやってた事は、相手が魔族だからやってた訳じゃないだろ?」
いや、まあ、そうですけど、結局自分の為というか、なんというか。
口籠ってたらそんな気に病むような事じゃないだろって……いや、魔王様。割と大きい事を長い間黙ってた相手に対して、器が大きすぎません?
「俺も聞かなかったしな。ルゥが悩むようなら最初に聞いておくべきだったと今では反省してる。あいこって事で、良くないか?」
どうしよう。魔王様の許容力が凄すぎて、自分の小ささが浮き彫りに……。いや、知ってたよ。私は。知ってましたとも。そもそも川を流れて遊ぶという結構クレイジーな遊びをボッチでしている子供を拾って、その上衣食住保証してくれる人なんてなかなかいないよ?魔王様は昔から器の大きなビッグな男でしたよ。
「凹む……」
「なんでだ⁉︎ル、ルゥ?お、お兄ちゃんの事嫌いになったのか?もしかしてリーンフェルトを避けてると思ってたが、俺を避けたかったのか……?」
ちがーう!もーー!あー!みぎゃーー!
………………はあ。
「……落ち着いたか?」
「…………うん」
一頻り叫んで落ち着きました。変な声出したけど、仕方ない。許容範囲内だと思う。
魔王様が、そうか。よかった、と言って、再度頭を撫でてから、隣に座った。
「この際だから、他に何か言うことあるか?ルゥが人間っていうのが一番言いづらかった事なら、今なら言えるだろ?」
魔王様は良くても、問題は皆だよね。人間を嫌ってる魔族はいるにはいるから。
「……私が人間って、皆に言う?」
「お前は自分で言いたいだろうから、俺は言わない。他には?」
クリア。皆に平謝りする機会は作れそうです。次の問題、
「……渡航書とか、色々つくる?」
「5年前までに魔族領に居たんだろ?なら事情があった筈だ。それは後で聞くが、今のところやる必要はない」
よかった。私、人間領から追放された人間だから、魔王様の近くにそれがいると分かって、人間領側の王様あたりから不審がられたら、迷惑かけますから。かつて追放した魔導姫が、魔王を誑かして平和を掻き乱し、魔族を操って、人間領に復讐するつもりだ。……とか、騒がれたら、その時は下手したら魔族の皆から追放されるかもしれないし。
「他にはないか?」
「魔王様達が探してる皇子のパートナー的人間って、多分私だと思う」
「そうか……。……は?」
あー、流されなかった。
「皇子に付いてる印ってこれでしょ?」
手袋を外して、目隠し魔法を解く。手の甲にはくっきりと模様が付いてる。見せた方が話が早いと思って。再度目隠し魔法をかけて、手袋をしてから魔王さまを伺うと、まだ固まってた。
驚きすぎて言葉もない感じですか。
「……と言うわけで、見つからないようにしたかったの。昼間に作れば魔王様は魔方陣を夕方まで使わない。中央区全体に魔法を使ったのが確認できるまで、その外にいればいいなと思って」
だから皇子を避けていただけでーす。
「魔王様ー?」
「……………………!」
「あ、やっと気付いた。というわけで、魔王様。事情がバレた以上、お望みなら今すぐに魔方陣は完成させるから、逃して?」
お願い。と、サキュちゃん(淫魔に分類される魔族の友人。拷問担当。正統派合法ロリ)直伝のお願いポーズ……両手を前で組んで下から上目遣いを実行する。
サキュちゃんはいった。このポーズは回数を増やす毎にコツが必要になってくるから、多用は禁止。どうしても必要な時に、フリを疑われないようにアドリブ&アレンジを加えて実行しなさい……と。
「……まおーさま、おねがい……?」
「よっしゃ任せろ」
「ありがとぉ!」
魔王様の丸め込み完了。フッ……チョロかった。
つい先程まで抱いていた不安に対して、家族だと受け入れてくれた懐の深い魔王様を、あざとい演技で転がすことに多少の罪悪感がないでもないですが、致仕方あるまい。魔王様には魔王様なりに思う事があってのお願いの成立ではあったけど、そんな事を私はその時知らなかったので、素直に喜んだ。
さて、こうして私は魔王様という最強にして最高の兄を味方に付けた。向かうところ怖いものも苦手なものも皇子のみ!
よっしゃぁー!と、心の中でガッツポーズをして大喜びする私と、私を守ると言って抱きしめている魔王様をよそに、窓の外でマコックが鳴いた。




