もういいや
「姫さぁーん!」「妹様ぁー!」「合法ロムグッ…!」「「でてきてくださーーい!!」」
三バカが私の部屋の前でさっきからずっと叫んでいる。騒音被害で訴えていい?宰相に言えば一発で罰則"フィルトズ・ブードキャンプ"1週間休息なしバージョンが出るんだけど。それはそうと、今合法ロリって言おうとしたのは誰だ。
「ひっ……!なんでそんなにキレ気味なんですか⁉︎」
「殺気は勘弁してください……。俺らクソ弱いんすよ……?」
うん。皇子に瞬殺されてたからそれは知ってる。さっきのは三バカのうちのバカその3だな?2人の足元で敷物になってるやつがそうだな?
扉の覗き窓越しに三バカを睨みつける。扉は開けない。ぜったいに。
「魔王様がお呼びですよー!」
「やだー!」
「「えええー⁉︎」」
魔王様が呼んでるって絶対さっきの件だもん。言わないって選択肢をくれるなら別にいいんだけどね!
「ルゥ、今出てくれば明日丸一日リーンフェルトの護衛をさせる予定を変更してもいいぞ」
「なーにー?魔王様ーー」
「はい確保ー。三バカー、鍛錬場戻っていいぞ」
扉の外の見えない影に魔王様がスタンバイしてたわ。外出た瞬間捕まりましたよ。
まあこうなる気はしてたけどね!でも出て来ざるを得なかったんだよ。……仕方ないよね。だってそうしなきゃ確実にバレるよね。逃げられないよね。明日の予定を変更してもらわないと、困るよね。あ、実質今日なんだけどね。あと小1時間ほどでマコック(魔族領鳥科、魔族の一般的就寝時間あたりにめちゃくちゃ鳴く)が一鳴きする筈だから。(え?ニワトリ?なにそれ。知らない。私は人間領で飼育されてたニワトリの雛が偶然魔族領に迷い込んでたから暫く魔族領の食べ物食わせて、後々美味しく頂こうとしていつのまにか魔族領の皆の手により数が増えて非食糧カテゴリの時計代わりになっていたという事なんてなにも知らない)
……まあ、それはさて置き。
「まおーさまー。はーなーしーてー?」
「離したら逃げられそうだから却下」
えええ。私がいつ逃げたよ。寧ろ逃げるのはこれからだよ!さっきのアレは……散歩ダヨ!
「ルゥが本気で逃げた場合、俺も本気で探す。捕まえるまでな。やってもいいが、先に魔力的にも体力的にも力尽きるのはルゥが先だろうな」
ですよねー。蓄えている魔力量的には魔王様の方が上だし、いくら私が人間領では魔導姫なんて言われるくらいの人外さんだとしても、魔族の方が魔法の扱いには長けてるし……そもそも魔王様は現魔族の中で一番強いし、逃げるのは結構難しいんだよね。
魔王様の腕の中で大人しく反撃又は脱出の機会を伺っているうちに、魔王様の執務室に着いた。部屋の中、周囲や部屋の周りの気配が無いか、特に魔法を使って誰かが潜んでいたりしないか確認する。
うん。異常なし。魔王様から離れた瞬間に誰かに捕獲される心配もなし。
魔王様が私をソファーに下ろして、自分も対になる椅子に座る。
「何でリーンフェルトから逃げる?取りつく島もなかったって言ってたぞ」
「……人間が嫌いなの。魔王様も知ってるよね」
「でも、魔族に色んな奴がいるのと同じで、人間にも色んな奴がいる。俺が大丈夫って言うのが信じられないか?」
「ううん。魔王様が言うくらいだから、それは分かる。でもね、そうじゃ無いんだよ。問題はそこにはない。あるとしたら私の方なんだ」
嘘はつかない。拾われた日に私はそう決めた。その代わりに、隠す事を逃げ方にすることにした。
その方が色々都合がいいし、誰も傷つけないし、魔王様達もこまらない。
……そう思ったから、そうしてたのに。
「……お前が何を心配しているのかは分からないが、お前が誰をどう思うのかはお前の自由だし、俺はそれを否定はしない。あくまで個人の意見だからな。だが俺も個人の意見は言う。いつもの事だ。
だからといって、ルゥの事が妹として、本当に大切な事に変わりはない。ルゥはルゥだからな。
今までもそうだし、これからもそうだ」
「……それは、」
自分が作った逃げ道が、私の恩人を悩ませる結果になった。楽するために作った逃げ道の筈なのに、何でこんなに苦しいかな。
「でも、それは……」
こんなにも苦しいなら、いっそ、……いっそのこと、言って傷つく方が、よっぽど楽かもしれないな。
「……それは、私が魔族である事が前提の話だよね」
私の言葉に驚く魔王様に、私は隠し事が1つ減って少しだけ心が軽くなると同時に、何か大切な繋がりを失ったような、軽い喪失感を味わった。
「ごめんね、魔王様。私、人間なんだ」
私は今、上手く笑えているだろうか。
俯いた魔王様が近付いてくる。目の前に立たれると、逆光でどんな顔してるか見えないもんだなぁ。
私を見下ろした魔王さまは、徐に私に手を伸ばし、私は黙って、瞼を閉じた。




