Ep.1 ロリ天使に殺される
「おめでとうございまぁぁぁーすっ!」
背の高い方の天使の声が響く。
「あなたは、ついに、死んでしまいましたぁー!」
続いて背の低い方の声が。
めでたくなぁぁぁいっ!!
人が死ぬってのは、悲しいことだよ!? 祝うな!!
喪中の人に、年賀はがきを送る輩と同レベルだよ、この天使達。
それに、「ついに」ってなんなんだよ!
俺、そんなに死地を潜り抜けて生きて来たっけ? ノーマル男子高校生だぞ!
そろそろ拍手やめて!
ってか、ここどこ?
辺り一面真っ白でよくわからない。椅子に座っているような感覚はあるけど。
「無反応! ねえ! この人、天使が目の前にいるのに無反応!」
俺がずっと黙ってたら、背の低い方が、背の高い方に向かってそんなことを言い出した。
「あ、キンチョー? 生まれて初めて天使を目にして、キンチョーしてるか!?」
緊張なんか、するはずがない。
その口調と、一歩間違えれば淫魔みたいな格好のせいで全く。
「ねえおかしくない? 私たち天使だよ?」
で? 天使だから何なんだ?
「もっとイヤらしい目つきで見てくれてもいいのよ。」
いや、どうしてそうなる。
背の高い方が、自分の胸を強調するポーズをとる。
イヤらしい目つきで見てたつもりは無いんだけど・・・。
背の低い方が、俺の顔をジッとのぞき込む。
あ・・・可愛い。
「うわ、この人ロリコンだ。」
何だと!?
「嘘、マジ!? キモ!」
いや、俺はロリコンじゃない。断じて!! 認めんぞ!
「そーゆー自称しない人に限って、ホントのロリコンなんだよねー。」
なにこいつら、俺の心でも読んでるの!?
「まぁ天使だし、そのくらいはね?」
なんだその理屈は。
「ねぇ、あってるでしょ?ロリコンでしょ?」
いや、俺はロリコンじゃない。
この前の小学生くらいの女の子にだって、親切心で・・・。
ん?
あああああああああああああああああああああああ! そうだ、思い出したぞ!
「俺を殺したのって、お前だよな!!」
俺は、背の低い方を指さしながら叫ぶ。
そーいやー俺、自分がどんな感じで死んだかは、よく覚えてなかったな。
「て、天使に対してお前!? ありえな!!」
もう同学年に話すような口調になってしまっている。
神聖さの欠片も無い、あんたらが悪い。
それ以前に、名前も知らないのだから仕方がない。
ってか、話題をそらすな。
「私はゲネーネ!」
別に聞いてない。
「ついでに私はステニア。」
どっかの国の名前みたいだな。
「なるほど、俺を殺したのはゲネーネか。」
「ななな、何のことかなー。知らないなー、あははは。」
誤魔化そうとしても、もう完全に思い出しているんだよ、こっちは。
そう、あれは日曜部活の帰り道。あ、ちなみに俺はバスケ部だ。
可愛い女の子・・・ゲネーネが俺の後ろをついて来て、俺の袖を引っ張ってこう言った。
「あの、お兄さん? こっち・・・来て。」
行くしかないなと思って。
まぁそうだよな、あんなかわいい子に、そんなこと言われたら、行くしかないよな、うん。
今考えたら、あれ演技だったんだな・・・可愛かったけど。
それで、俺が連れて行かれたところは・・・とある大きな橋。
自殺の名所だとか噂されている所だ。
ま、まさか!?
この子、自分でここから飛び降りるのが怖いから、押して欲しいなんてこと言い出さないよな!!
ん? 自殺したい時って、死ぬのが怖いとか思うのか?
とにかく、こんなに幼い命を失わせるわけにはいかない!
俺にそんなことはできない!
「あ、あの、手・・・。」
その子は俺に、その小さな手を差し出す。
死ぬ前に、生きてる人に触れておきたいとか、そんな感じ?
俺がその手を握ったその瞬間、俺は宙に浮いていた。
何が起きたか理解できないまま、俺は海に落ちていった。
それで、気づいたらここにいたわけだ。そして自分の死を告げられた。
それが意味する事は・・・。
「やっぱりお前だこの殺人天使が! 自分で殺しといて、何がおめでとうだ!?」
二人の天使は互いに顔を見合わせた後、俺から少し離れてコソコソ話し始めた。
「ちょ、ちょっと先輩!? なるべくバレない様に。って言われてたんじゃないんですか?」
あ、ステニアの方が後輩なのか。
「だってだって、あいつが全っ然死なないんだもん! これだから生への執着が強い人間は!」
それって悪口? 普通に聞こえてますけど?
「事故死させようと頑張ったんだよ? 理科の実験中とか、バスケの試合中とか、水泳の授業とか、私、いろいろ頑張ったんだよ?」
水泳の件に関しては、ホントに死ぬかと思ったんだが。
「最終的には、幼女のフリして橋から突き落としたけどね。」
「大変でしたね。」
うん、こっちがね!?
「俺はなぁ、頼まれたら、基本的に断らない主義なんだよ!」
自分で言うのもなんだが、結構いい奴だぞ、俺。
「こんな道徳心のある人を殺すとか、ありえねー。しかも天使が! 天使が!!」
「ホイホイついてきた、あなたも悪いと思うけど!?」
子供相手に、警戒心持つ奴なんているか? いや、いない。
「でもまさか、あんな手に引っ掛かるなんて。」
誰でも引っ掛かるでしょ。
天使たちは何が面白いのか、クスクス笑い始めた。
「根っからのロリコンですね、この人。」
「生まれ持った性なんじゃない?」
こ、こいつら!!
少し・・・け、結構可愛いからって調子に乗るなよな!
「あぁもう良い! そのことはもう良いとして、だ。なんで俺を・・・。」
「殺す必要があったのか、でしょ?」
何だ、その意味深長な笑い方は! ・・・可愛いけどさ。
「気になる?気になる?」
気になる気になる。
「そ、れ、は・・・。」
焦らすな焦らすな。
「我らが主、イーザヴから直接聞けちゃうよー!」
誰だよ。てか、妙に演技っぽいな、その言い方。