表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

解決編



安達の家のチャイムが、ひび割れた音で来客を知らせる。

「はい…」

気だるさを纏いながらドアを開けた安達の目に映ったのは、またしてもあの刑事たちだった。

「どうかなさったんですか」

「ええ。安達さん、中原教授殺害の件で少しお話を伺いたいと思いまして。現場までご同行願えますか」

「え…?中原、教授は、事故なんじゃ…」

「我々もそう思っていました。あれを見るまでは」

「…」

「安達さん、とりあえず、教授の部屋まで行きませんか?」

あのことは悪い夢だったのだ、と思い始めていた安達にとって、それは思わぬ奇禍であった。部屋を出るように促す刑事たちに従い、安達は動揺を隠せぬまま、あの忌まわしき場所へと向かった。



「あの…こんなところで何のお話でしょうか。話なら家でもいいじゃないですか」

怯えた様子で部屋をぐるりと見渡すと、それでも安達は精一杯の虚勢を張った。

「あなたにお見せしたいものがありまして。これ、ご存知ですよね」

そう言ってCが指差したのは、教授の机の上にある薬だった。

「それは…」

安達は、言葉に詰まる。見覚えのある、青いカプセル。あれは僕の常備薬、それがなぜここに?

「あなたがなぜこれを置いていったかは分かりません。しかし、教授の周りでは、これを服用しているのはあなただけなんですよ」

「…あ」

思い出した。あのとき、机に薬を置いたあのとき。間違えて僕は教授の頭痛薬を飲んでしまったのだ。同じ形をしたカプセルというだけで、ああ、なぜ僕はもっとしっかり確認しなかったのだろう!

「確かに…それは僕のです。でも僕が置き忘れて行っただけ。それで僕が殺したということにはならないでしょう…」

「ええ。これだけでは、確かに。でもこれを見てもそう言えますか?」

そう言ってCは、薬包をゆっくりと取り上げた。


その裏には、べったりと血がついていた。

「この薬の裏と、机の表面。その二ヶ所に血がついていたんです。こんな場所に血がつくのは、血が飛び散ったあとに薬がここに置かれた、その証拠に他ならないでしょう」

「………」

「目撃証言については、時間を見間違えたのでしょうね。あなたはなんらかの理由で、教授を殺した。それは事実ですね」

「だって……だって先生が、僕の卒論を捨てようとするから、止めようとして、つい…」

「認めますね」

「…はい」

「では、詳しいお話は署でお聞きします。行きましょうか」


10


自らの袖をまくり、腕をちらりと見たBが、声を上げる。

「先輩、いま何時ですか?署長に連絡しなきゃいけないんですけど、自分の時計忘れちゃって」

「あぁ…そこに時計があるじゃないか。俺の腕時計も電波時計だから、ぴったりだ。

…ん?」

つられて袖を捲ったCは思わず、壁を振り仰いだ。そこに掛かっているデジタル時計と己の腕時計が示す時間とは、十三分もの違いがあったのだ。

「B、おまえ、なんで時計忘れたんだ?」

「自分すか。この前の地震のとき停電あったじゃないですか。ほら、空調も止まって寒くて…そのときに手袋つけたら時計が邪魔で。外しっぱなしでおいてきちゃったんすよ」

Bの言葉の後半は耳に入っていなかった。Cは溜息をつき、ひとりごちた。

「停電。…そうか。そうだったのか」

「なんか言いました?」

「…B。お前が連れてきたあの目撃者、見間違えたわけでもなんでもなかったんだな。安達が部屋を出たとき、この時計は四時五十分だった。大学中が停電していたから、時計も止まっていたんだ。ここら辺は窓がたくさんあるから明るい。それで、気づかなかったんだ。つまり、一回目の地震で時計がズレて、二回目の地震で動き出した、そういうことだ」



ふいに、安達の頭の中に響く声。「気象庁によりますと、本日午後四時五十分ごろ…」あのニュースキャスターの声が、蘇る。

ああ、それで、この部屋はあんなに寒かったのだ…安達はあのとき自分の吐いた、白い息、その透き通った色を思い返しながら、静かに部屋をあとにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ