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都市の北側

 研究棟群は「学院」敷地内においては北の方角にあるとのことだった。

 ただしエレミアは大陸の地図とは無関係な存在なので、方角は便宜上、都市内で生活を送るために定められたもの。


 ダリウスの寝泊まりする「土」の研究棟を出て、中央の総合研究棟群に向かう道すがら、まったく道に覚えのないサレムに、イズミールが丁寧に説明をしてくれた。


「『学院』は都市の中心にあり、五芒星を描くように五つの門が存在している。北、東、西、南東、南西。このうち、北側の門は常に閉ざされている。東の門の先には学生寮を含む街、南東は『土』『風』『水』『炎』各国に通じる門、南西には少し高級な住宅街で学院関係者や、各国からの要人を迎える迎賓館などの設備がある。西側には『鉄と鋼』に通じる門。これは魔法都市エレミアができてから、しばらくして作られたものだ。……どう? 何か思い出した?」


 優しげな口ぶりで尋ねられたものの、サレムは唇を噛み締めて首を振る。

 イズミールは穏やかな笑みを浮かべて「長期戦かな」と言った。


「総合研究棟には食堂や図書館もあって、初等科や中等科の学生はだいたい一日そこで過ごしている。サレムの知り合いも見つかると思うよ。きっと、向こうから声をかけてくると思う」


 容姿が人目を引く、というのはダリウスからも忠告の意味で指摘されていた。サレムがちらりと視線を向けると、ダリウスが「ん?」とばかりに目で応える。

 その黒い瞳を見つめて、サレムはふと疑問に思ったことを尋ねた。


「都市の北側には何があるんです? 牧場や畑ですか?」


 星を脳裏に描き、ぐるりと街を思い浮かべたところで、星の頂点部分である北側が埋まらずにもやっとしていたのだ。門があるとして、なぜ閉ざされているのか?

 ダリウスの答えは、ひどくそっけないものだった。


「スラム街だよ。魔法都市エレミアの吹き溜まり。俺の出身地」


 サレムは首を傾げて、問いを重ねる。


「なぜ、作られた都市にスラムがあるのですか? 四大の属性に上下関係や優劣はないのであれば、下層に落とされるひとはどこから来たんですか?」


 ダリウスが足を止め、イズミールも同じく立ち止まった。

 研究棟から中央へ向かう道に、このとき他に人影はいなかった。周囲は木立に囲まれていて、風が吹いて木の葉がさらさらと鳴った。


 ……そこから……記憶喪失というのは……


 声ではない思念のようなものが、サレムの中に流れ込んでくる。イズミールだ、と判別がつく。

 一方で、目の前のダリウスの心は、何も掴めない。聞こえない。

 ダリウスはサレムをまっすぐに見つめ、一息に言った。


「五番目の国からだ。二百五十年前に滅びた、第五の魔法体系を扱う民の生き残り。大陸で鼻つまみ者だったそいつらは、エレミアの情けによって、魔法都市へ住むことを許された。ただし、魔導士として表に出ることは一切許されぬ存在として。当然だ。そいつらをかくまったことが知られたら、エレミアは大陸すべての国を相手取って、戦争をしなければならなくなる。それを避けるために、隠したんだ」


「門を閉ざして……」


 確認のためにサレムが聞き返すと、ダリウスは「そうだ」と肯定した。


「『学院』は魔法都市エレミアの中枢組織。各国との外交も担っている。北側の民が出入りをすれば、すぐにその存在が知られる。だからエレミアは、彼らの存在を抹消するために、長いこと門を閉ざし続けた。都市の叡智、文化と切り離されて見捨てられたそこは、やがて無法地帯と化した」




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