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  作者: 成瀬
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第四話 Better the devil you know than the devil you don't.

 翌日。

「どうしたの? 疲れてるみたいだけど?」

 待ち合わせの場所で、玲香が心配そうに尋ねてきた。

「まあね」

 結局、朝五時まで起きてしまった。ホラー映画見た後でも、こんなことない……情けない。

「昨日のことと関係があるの?」

 バスの中で欠伸をかみ殺していると、玲香がそんなことを言いだして、どきりとした。

「な、何よ昨日のことって」

「ラブレターよ。悪戯されたんでしょ? ……やっぱり喧嘩になった?」

 その台詞で目を輝かせる玲香は、本当に良い性格をしていると思う。あたしはほっとして、否定した。

「違う。あれはたんなる誤解。クラブの勧誘よ」

「クラブの勧誘にラブレターを使うの?」

 疑う玲香。まあ、そりゃそうか……でも、事実は事実なのだ。

「使ったの。つか、あんた、あたしがいなくなると困るって言ってたくせに、随分と楽しそうじゃない」

「それとこれとは別よ」

 などと話しながら、バスは精華女子前で停まった。停留所には、志乃花さんが立っていた。

「ごきげんよう、小日向さん」

 昨日と同じく、左目に眼帯をはめていて、今日はその黒髪を後ろに一つにまとめている。ポニーテールだ。

「……ごきげんよう」

 ぺこりと挨拶を返す。知らない仲じゃないし。でも、何だってこの人はここにいるんだろ? 誰かと待ち合わせ? と思ったら、そうだったみたい。

「歩美を待ってる――ああ、歩美というのは、文芸部の後輩でね」

「そうなのですか……それでは」

 きっちり優等生的なお辞儀をしてから、あたしと玲香は歩き出す。

「誰なの?」

 ちょっと離れた所で、玲香が尋ねてきた。

「三年の志乃花さん。昨日、呼び出された相手です」

「あの人が手紙を書いてきたの?」

「違う。だから、そういうんじゃないって。大体、このあたしを好きな人なんて現れるわけがないです」

 本当、いい迷惑だ。

 昨日であの人たちとは会うことはないと思っていたのだけど……その予想は、昼休みにまた外れることになる。 


 昼休みになると、玲香が教室に入ってきた。あたしの席まで、だれとも視線を交わせずに突き進んでいく。

「ここ、いい?」

 不愛想な口調であたしの前の席の子に承諾を取って、座る。こいつはいつもこんな感じで、あたしと昼ご飯を食べにやってくるのだ。いい加減、自分とこのクラスに友達を作れと言いたい。悪い子じゃないのよ、とその度にあたしはあんたのフォローをしているんだから。

 しかし、今日、あたしを訪ねてきたのは玲香だけじゃなかった。

「小日向陽菜さんは居る?」

 教室の扉の前で、近くの子に尋ねていた女生徒と、目が合った。

 おかっぱ頭の、眼鏡をかけた上級生。昨日、校舎裏で赤面していた、篠原麻理恵先輩だ。

「陽菜さん? 放課後、時間あるかしら?」

 あたしの所までやってきて、彼女はそんなことを告げてきた。

 昨日の今日で何だ。

「申し訳ございません。放課後は、用事があって」

 今日は火曜日。コイズの試合があるのだ。今日こそは勝つはず……絶対に見逃せない。六時までには、帰らないといけないのだ。

「いつなら予定が空いてるのかしら?」

「……そんな、急を要することなんですか?」

「ええ、そうね」

 ちらりと教室を麻理恵さんは伺う。

「クラブのことなら、お断りしたはずですけど……」

「そうじゃないの」

 じゃあ、何なんだ?

 そう言われてしまったら、さすがに断ることは出来なかった。

「それじゃ、放課後。文芸部の部室に来てね」

 そう告げて、麻理恵さんは教室を出て行った。一体、何の用なんだろう?

「誰なの?」

 頬っぺたにご飯粒を付けている(美人が台無しだ)玲香が尋ねてきた。

「二年の篠原先輩です。昨日、校舎裏で――」

「ラブレターの? あの人がそうなの?」

「だから違いますから――」

 ふと視線に気が付く。隣に座ってる子が、あたしたちを見てた。

「何?」

 玲香が、その子に尋ねる。

「あ、いえ。何でもありません」

 多分、あたしたちが煩くしたからだろう。

「すみません。うるさくしてしまって」

「え? いいえ。あの……こちらこそごめんなさい」

 何で謝ったのだろう? と思いつつも、微笑んでその場をやり過ごした。

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