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  作者: 成瀬
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プロローグ

 野球ファンは、応援することだけしかできない。

 だから、あたしはこのスタンドから力の限り叫ぶんだ。


「BOOOOOOOOOOOOOOOOOー!」


 今日も超満員の熱田スタジアム。全方位真っ赤に染まっている。今、そのスタジアムではブーイングと怒号がひしめいていた。

 グラウンドでは、乱闘が開始されている。


 弘島西洋コイズの新外国人エルドラージが、新人投手の死球に怒ってしまったのだ。即座に投手は帽子を取るが、エルドラージは止まらない。ヘルメットを放り投げて、どすどす聞こえてきそうな足音で、マウンドに全力疾走する。


 両軍のベンチから選手が飛び出てきて、投手とエルドラージの間に割って入ろうとする。

 外野席まで聞こえてきそうな声で、エルドラージが吼えた。気持ちは分かる。だって、これで今日通算三回目の死球だ。


 硬球は、滅茶苦茶固い。石の塊みたいなものだ。それを百五十キロで当てられるのだから、怪我で済まない場合がある。選手生命にだって関わることだってあるんだ。


 結局、エルドラージは治療のためにベンチに下がり、代走が告げられる。

 次の打席に、ピンチヒッター上早がウグイス嬢からコールされる。


 七年前にドラフト一位で入団した期待の高卒ルーキー……だった男だ。その甘いルックスと、たぐいまれなリストでホームランを量産し、コイズの女性ファンが急増した実績がある。

ところが三年前に突如として打率を落とし、二軍と一軍を行ったり来たりする選手へと変貌してしまった。


 けど、それも昔の話だ。

 今年の上早は違う。

 キャンプから素振りを毎日何千回とやり、OBからも薫陶を受けているとローカルニュースで何度も流れていた。毎年、最下位が常連のコイズを変えてくれるのは、この上早だとあたしは睨んでいるのだ。


 試合は、八回裏。点差は三対一のワンナウト一塁。ここで一本出るか、塁に出れば全然わからない状況だ。

 ピッチャーが投げる――鈍い音。同時に、スタンドからため息がこぼれた。


 ぼてぼてのセカンドゴロ。そして、お手本のような四―六―三のダブルプレーを見せられる。

 あたしは思わず叫んだ。


「なにやってんだー! 上早ぁ! 今年息子が生まれるんでしょーが! しっかりしろ! ぼけ! どじ! まぬけ! そのまま荷物を纏めて、由比ヶ浜に行け!」


 由比ヶ浜はコイズの二軍施設があるところだ。

 試合を決定づけたのは、まさにそこだった。

 九回裏は三者凡退で終わり、今日もコイズは負け……開幕引き分けを挟んでの九連敗。六回まで一対〇で勝ってたのに、これだ。


 もう知らん! なんなんだこのチーム! わざわざスタジアムまで応援しに行ったっていうのに!

 もうコイズファンなんてやめてやる!

 そんなことを思いながらあたしは帰路についた。



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