無料開放講座
マーチェンドの中心街から少し離れた外界へ出る為に通る関所で、その場に不釣り合いなメイドの衣装を身に纏ったモナカがいた。自分の持つ職業『魔法剣士』の識別標識を見せて、関所を潜った。一歩足を踏み出すと、若々しい青葉が茂る草原が目に飛び込んできた。風に遊ばれた髪を耳に掛け直し、目的の人物を探す。
「遅かったなぁ。待ちくたびれたぞ」
関所の壁にもたれ掛かっている腕を組んだ冒険の男が一人。モナカに声を掛ける。浅黒い肌に金の髪。耳はやや鋭いがエルフとはまた違った種族なのだろう。魔力の質が違うと、モナカは知っていた。
「イディオもさっき来たばかりじゃない」
「バレた?」
舌をチラッと出して剽軽な態度を取る。イディオとはシエルの父・ルフトの屋敷で雇われた執事である。
二人はあの一件以来、時たまパーティ(この場合はバディというべきだろうか)を組み、ギルドからのクエストを受けている。今回は地域の異常調査だ。
「何か詳しい事は聞いているの?」
「なんだかその部分だけ草の一本も生えなくなって、砂漠化してるらしい」
「砂漠…?」
ここら一帯は魔王の影響力が弱い場所で、そこまで土地が後退する等という事はないはず。もし、それが本当だとしたら、魔王軍の幹部が近くにまで来ているのだろうか。だとしたら、自分たちに課された調査依頼の意味も分からなくもない。本来なら初心冒険者の仕事の筈だからである。二人のレベルは中級者かそれ以上とギルドからもお墨付きが出ているというのだから。
「少し慎重にならなきゃダメね」
「『サーチ』の魔法は掛けてある」
この元・執事。イディオは戦闘能力はモナカに比べたら非力なものなのだが、弓の扱いや索敵、補助魔法に秀でている。攻撃魔法は初歩の物しか扱えないのだが、魔法剣士であるモナカの剣と魔法の腕があれば、その方が動きやすかったりするのだ。下手に前衛職がいると、モナカの強力な攻撃魔法が当たる可能性もある。あえて致命的な部分を上げるならば、この二人は回復の魔法が使えない。故に、イディオの攻撃、防御、素早さのステータス強化魔法をかけてもらい、モナカが最小限の怪我で仕事を終えなければならない。モナカが倒れた時、イディオもまた、命の保証がないのだ。
「そういや…坊ちゃんはどうしてんだ?ギルドに通ってる?」
「ちゃんと行ってるわよ。今日は魔法使いの受講ですって」
「『今日は』って事は、前に何かやったのか?」
「剣士のを受けたみたいだけど、武器が持てなくてダメだったみたいよ」
「二回目からは料金取られるもんなぁ…。剣士の職業取れなかったんじゃあ、これからが大変だぞ」
「……待って。二回目からは有料って言った?」
「当たり前だろ?不正な受講が無いように、初回だけ無料だって説明…。おい。まさか」
「……しくじったわ…初心者講習で教えてなかった」
前衛職である剣士に落ちるというのは想定外で、体の部位に何かしら問題がない限りほぼ全ての冒険者が得られる基本職だ。自分が今まで育ててきたシエルも、当然受かるだろうと高を括っていた為に起こった悲劇である。
「あの坊ちゃんは一体、手持ちをいくら持っているんだ」
「危ないから持たせてないのよ…」
「まぁ…何とかなるんじゃねぇの?」
「だといいんだけど…」
二人は目的の場所に向けて進む足を止めることもなく、先を急いだ。
※
ギルドの受付で、シエルは呆然としていた。受付のエルフも、どうしたものかと困り顔を隠せないでいた。
「二回目から…有料?」
「はい。初心者説明会の時にお話したはずですが…」
「い…いくら?」
「そうですね…。どの項目を受けるかに寄るんですけど、今回の魔術師コースですと…ざっと銀貨一枚…」
「銀貨一枚!?」
剣士の一回の報酬が世間一般の銅貨約十枚として、十回はクエストを受ける必要がある。しかし、今のシエルは一般市民の為、クエストを受けることも出来ない。ほぼ詰みだ。
「どうしよう…」
「一応…魔術の無料開放講座もありますけど…」
「あるんですか!?」
「冒険者でも、入門編として稀に受講されている方いらっしゃいますし…でも、大丈夫ですか?」
「それをお願いします!」
「では、手続きを行いますね。こちらの書類に名前と現在の職業を…」
入門編と言えど、冒険者も受けるものであるなら、きっと役に立つものに違いない。
簡単な書類を書いて提出し、シエルは案内された部屋へ入った。まず飛び込んできたのは、植物の柄をあしらった壁紙に、部屋の一角に備え付けられた子供の遊戯場。積み木や絵本などのオモチャが置かれていて、子供たちが思い思いに遊んでいる。傍には、その子供たちの親なのか、女性たちが団欒をしていた。設えられている椅子も柔らかく、乳飲み子を抱えた女性が腰を掛けてあやしている。まるで、育児部屋のようだった。大人の女性だけでも十五~六人はいるだろう。
「俺…部屋を間違えたかな…」
居心地が悪く、そわそわと落ち着きのない動作に、一人のふくよかで体格のいい、気の強そうなツリ目の女性が歩み寄って来た。
「あんた、見ない顔だね。どこの寄合の娘だい?」
「え…寄合?」
「じゃあ、外の者かい。寄合ってのは、区画で割られている主婦の集まりさ。その区画内で醤油がなくなりゃ貸してやる。米がなけりゃ分けてやる。誰かが死んだら葬式の手伝い。火事になったら消火活動。赤子産むときゃ手伝って、子育てにも参加。いわゆる助け合いさ」
「あ…俺は…そういうのには…そもそも、男だし」
「がっはっはっはっはっ!男だってぇ!?こんな軟弱なくせに!」
バシバシと背中を叩かれてシエルは咽てしまうが、その女性はお構いなしに叩き続ける。その様子を遠巻きに眺めて笑っている女性たち。その女性の様子を伺いながら、シエルを値踏みしているのは見て取れた。
「もしかして…俺、とんでもない所に来ちゃったんじゃ…」
「今日はあたしらの寄合の番だったんだが…まぁいいよ。歓迎してやるさ」
「魔術の無料開放って何だか知ってるんですか?」
「あたしは前に受けたことあるからね。知ってるさ。今日は手伝いだよ」
近くにある椅子に座れと指され、大人しく席についた。その女性もドカリと重そうな体を椅子に腰かけた。
「あたしら主婦は忙しくてね。炊事洗濯子供の世話と…そりゃ大変なもんさ。しかもここは商業の街。店の仕事だってしなきゃならない。寝る時間すらも危ういのさ。それを手助けしてくれるのが、この無料開放さね」
「はぁ…」
「ちと値が張るが魔石を使う事で、あたしらみたいな女たちが魔法を使って、家事で楽をすることが出来る。炊事の火おこしだって、薪に火を移すのは一苦労さ。水を汲むのだって重労働。洗濯物を洗うのだって、人の手だからね」
モナカと同居してからそれは痛いほどに分かる。薪に火を付けるのだって、専用の道具を使って火をおこし、着火させる。洗濯物も、これから冬を迎える秋にあたり、水が冷たくてかじかんでしまう。飲み水を得るために、地下水をくみ上げてきて大甕に移す。気づけばそれで一日が終わる事もあった。この話を聞くに、モナカも魔法を使う事で家事を楽に進めていたのではないだろうか。シエルは心の中で「ずるい!」と舌打ちをした。
「でだ。あたしら寄合の中にも、適性の有り無しがあるからね。上手く使える娘がいるなら、お互いの得意分野で助け合うのさ。水を動かすことが得意な娘は井戸の水汲みや洗濯専門で。火を使うのが得意なら竈の火をお願いしたり、出来ない奴は出来ないなりに、子育てや薪割りをやったり、店や畑に出て作業をする。そうやって助け合うのさ」
今まで屋敷の中にいたシエルにとっては驚きだった。各家々で専門職を設けて日々の生活を楽なものに変えていく。屋敷内でそれぞれが得意な事に従事して日々を過ごすことと同じことをやってのけているのだ。沢山の家々が集まるその中で。それぞれの生活があるだろうに、それを上手く回している。
「凄い…。尊敬します」
「あたしらからしたら、街を守る冒険者も凄いと思うよ。クズな奴もいるが、真面目な奴は命を懸けて守ってくれてんだ」
「あれ?俺、冒険者って言いましたっけ?」
「寄合の人間じゃなきゃそう思うだろ。貧乏人も大変だねぇ。金がなくてここに来たんだろ?」
「おっしゃる通りです…」
盛大に笑い、その女性が様子を伺っていた女性たちに声を掛けると、警戒を解いたのかシエルの周りにやって来た。
「ねぇ…貴方、本当に男の子なの?」
「綺麗な緑の髪…肌も綺麗…」
「どんなお手入れしてたらこうなるの?」
関を切ったように四方八方から話しかけられ、どれから対応すればいいのか分からず、また右往左往していると、ふくよかな女性は笑っていた。揉みくちゃにされているうちに、担当講師がやってきて、全員に座るよう促した。しかも、その担当講師はギルド長のリルルである。
「皆様~。こんにちわ~。本日の講座の担当、ギルド長のリルルです~。ママはこれからお勉強なので、いい子のお兄ちゃんお姉ちゃんはちっちゃい子の面倒を見てくれますか~?」
その言葉に子供たちは「は~い」と言葉を揃え、傍にいる幼い子の手を繋ぎ、遊戯場で遊び始めた。乳飲み子は流石に任せられないので、抱いたままで行われるようである。
「さて~。主婦の皆様に快適な生活を提供できるように~、私達ギルドがお手伝いをさせていただきます~。まずは~、こちらの魔石をお配りしますね~」
前列に袋を渡し、その中から石を取らせ、後ろに回していく。全員に行き渡った所で、リルルは説明を始めた。
「こちらの魔石は~試供品なので今日のみの使用に耐えられるものです~。使ってみて、良かった!って思った方は、ギルドの方に申請して頂けますと~特別価格にしてご提供させていただけるものになります~。分割も承っております~」
市場の魔法屋で魔石を買うのもありなのだが、魔法屋自体が魔術師を引退した者たちが行っている商売で、店によっては安いのだが悪質なものを取り扱っていることもある。あまりにも酷い場合は申告することで、ギルドが摘発に出ることもあるのだが、如何せん数が多すぎて捌ききれないのが実情。そんな魔法屋でも安心確実と太鼓判を押された者がギルドに商品を卸し、ギルドが販売することでマージンを得て、店の宣伝をしてもらう。少し割高でも質が良ければ長く使える保証があるのが、ギルド仲介の良い所だ。殆どの魔法やは一括払いでしか売買を行わないので、分割払いが出来るのもギルドの価値を高めていたりする。主婦にとって高価なものは結構勇気がいるものだからだ。
「では~、まずこの透明な魔石。こちらに力を注ぐイメージで集中してみてください~」
その場にいる全員が渡された透明な石を睨みつけたり、両手の包んで祈りを捧げるようにしたり、思い思いの方法で力を込めていく。その中の何人かの石に変化が訪れた。水色になる者。赤になる者。緑になる物。参加者のうち四人という少ない者達に変化が起こった所で、リルルは説明を続ける。
「では、石の色を見て下さい~。赤の方は火の適性~。水色の方は水の適性~。緑は風の適性になります~。他に色の出た方いますか~?」
シエルもそっと手を開いてみると、その石は乳白色。すかさず、手を上げてギルド長に申し出た。
ーなんなんだ。この色はー
「ギルド長!白になりました!」
「あらあら~。シエルさんいたんですねぇ~。白ですか~。………白!?」
ぎょっと目を見開き、カツカツと歩み寄ってきて、手のひらにある石を見た。確かに白である。
「白はあたしも見たことないねぇ。何かあんのかい?」
「白は光の適性です~。夜に松明を燃さず、明かりを灯すことなど出来ますよ~」
「やったじゃないか!あんた、貴重なやつじゃないか!」
「光の適性…」
どうせなら、火や水、風と言ったようなものの方が需要がある気がする。しかし、出てしまったものは仕方がない。
「魔石を購入する際は~、適性の色を購入してくださいね~。では、使い方の説明をします~」
使用方法は至って簡単で、その魔石に意識を集中し、それぞれのイメージをするだけだという。赤い石を持った者は石の先から小さな炎を出し、水の石を持った者は水を召喚したり操ったり。風の石を持つ者はそよ風を起こしていた。手軽に魔法が使え、適性をもつ女性たちは喜んでいた。
「風は洗濯物が乾かなかった時に便利だねぇ。これでうちの寄合も、また少し楽になれるよ」
「俺は…どうしたら…」
シエルも発動をイメージするが、小さな光がチカチカと点滅するだけである。
「これ、なんの役に立つのかなぁ…」
シエルが頭を抱えて悩んでいるその隣で、この水は飲めるのか。この火は水で消せるのか。風の強弱はどうしたらいいのか。どんな風に使えば、家事に上手く使う事が出来るのか…。質問の嵐の中、リルルは丁寧に一つ一つを説明していく。そして、適性の無かった女性たちのフォローを、ふくよかな女性が行っていた。手伝いとは適性がなかったことで落ち込む女性たちの補助に回る事だったのか…。
「ギルド長さん…もしかして、これで終わりだったりします?」
「あぁ~…シエルさん。ごめんなさいね~。そのとおりです~」
さすが無料開放講座。ただで教えられる範囲内の設定はしっかりしているようだ。とてもじゃないが、戦闘の際の実践には使えない。
「今回~適性の無かった方も~高額になってしまうのですが~、『適性が無くても一通りの魔法が使える魔石』も販売しております~。こちらは、冒険者の方も使っている一品なので~価値は確かです~」
確かに野営となれば火が必要になるし、飲み水が無くなった時に生成出来るのはとても大きい。魔法から作られた物質を利用する事も出来るが、あくまで戦闘を目的としたもので火を起こしたり、飲み水を確保しようとしたら備品やその場の物が消失するかもしれない。そもそも、魔法を使える仲間が加入するかどうかも分からないし、途中で喧嘩別れしたりするとなると…
「やっぱりお金だよな~」
このまま、ここにいても何も得るものは無いと確信したシエルは静かに席を立ち、女性たちの邪魔をしない様にそっと部屋を抜け出した。それに気付いたのは、あのふくよかの女性のみ。その女性はシエルの後を追って肩を叩いて呼び止めた。
「あんた、行っちゃうのかい?」
「俺の欲しい技術と違ったんで…」
「せっかくの光の適性だろ?勿体ないじゃないか」
「ただ、光を点滅させるだけですよ?なんの役に立つっていうんですか」
不機嫌さを隠すこともなく、女性に当たるような口調になってしまい、シエルは慌てて謝った。
「すいません。こんなのクズのする八つ当たりですよね…。今まで何もしてこなかった自分が悪いのに…」
「あんた、仕事は受けてんのかい?」
「受けられるクエストは条件を満たした職業がなくて…知り合いが帰ってくるまでは大人しくしてようかと…」
「その知り合いが金の工面してくれんのかい?」
「いや…たぶん自分で何とかしろとは言われると思うんですけど…俺が出来る事って、短剣での基本技能しか無くて…パーティの募集クエストでも使ってもらえるかって感じですよね…やるとしたら、荷物持ちとか…それぐらいですけど」
女性は腕を組んで少し考え、シエルを見た。そして、率直な感想を言う。
「あんたの細腕じゃ、運び屋も無理だろ」
「うっ…」
「でだ。あんた、金を貰えるなら、なんでもする覚悟はあるかい?」
シエルは床に落としていた視線を上げ、女性を凝視した。
「うちはねぇ、ここいらじゃ有名な宿屋兼飯屋なんだよ。結構遅くまでやるから、明かりが必要だ。魔石もあるんだが、使える人間がいなくてね…いつも松明を使ってるんだが、宿泊人が油を溢して火事にならないか、いつもヒヤヒヤしてるんだ。あと、飯屋だから従業員も欲しくてね」
「それって…依頼…?」
「ギルドから出される公式依頼じゃないし、クエスト報酬に比べたら微々たるもんだがね。その気になったら、いつでもおいで」
少しきつめのその瞳が細められたが睨んでいるのとは違う、相手を憂う優しい微笑みで女性は名乗った。
「あたしは『箒星亭』のボニータ。箒星亭の女将さ」
箒星亭…。確か、今住んでいる場所から一区画行った先にあった宿屋の名前。ギルドからも近く、手頃な値段で泊めてもらえ、しかも食事が美味い、と近所でも評判の店だとモナカが言っていたのを思い出した。
「クエストとしての受注じゃないから、功績として換算されないだろうが…それでも良ければ日雇いでも構わないよ」
「ありがとうございます。…でも、どうして俺?さっき会ったばっかりなのに」
「何年女将やってると思ってんだい!人の良し悪しくらい見極められるさ。それに、金もないのにウロウロして、うっかり盗みでも働いてギルドの地下牢に放り込まれるよりかはマシだろ?」
確かに女将のボニータの言う通りである。いくらモナカに食事を作り置きしてもらっているからと言っても、手持ち銭が無ければ職業の講座を受けることも出来ないし、今のままではクエストの受注も出来ない。仮に、モナカがクエストに手間取っていたら、数日は放置されることになる。クリミネルを見つけて泣きつく、というのも考えてみたが、接触できる確率も全く分からない。今はもう、コメルシアンテ商会の息子ではないから後ろ盾もない。そう考えたら、この女将の宿で金銭を得て、生活していくための基盤を作るのも、必要な手段なのではないだろうか。
「俺…ボニータさんを利用しようとしてるかもしれないですよ?」
「あたしだってあんたを従業員として利用しようとしてるんだ。気にするこたぁないよ」
この女将さんは、根っからの善人だとシエルでも分かった。最初怖かったのも、大事な仲間を守るための牽制で誰よりも先に自分が動く。そして、敵意がないと分かれば守る為に仲間に引き入れられる心の強さもある。そして、これからモナカの帰宅まで路頭に迷うであろうシエルを心配して、依頼を申し出た。そして、シエルはこの女将について行こうと決める。
「お願いします」
「じゃあ、明日にでもうちに来てくれ。業務内容と報酬はその時に」
そう言って別れたのだがシエルは傍と立ち止まり、しばし考えた。
「あの女将さん…なんでもする覚悟って言ってたけど…どういうことだろ?」
一般市民から出される『クエスト』とは、魔物討伐などの戦闘の際に用いられ、『依頼』とは非戦闘行為全般のクエストの事を指す。なんでもする覚悟と言っていたことから考えて、もしかしたら…と思案してしまうが、すでに約束してしまったことだ。実際に行って、話を聞いて、無理な事なら断ればいい。
「でも、光を灯すだけって…地味だなぁ…俺の適性…」
帰宅して食事を終えた後、無料講座で貰った乳白色の石をその日の夜に試してみた。真っ暗な部屋に四方隅々まで光が昼間のように部屋を照らしたのだ。確かにこれは、下手な蝋燭や松明の火より便利である。
「これ、もっと明るくなるのかな?」
試しに力を込めてイメージしてみるが、石から光が消えて部屋が真っ暗になった。動揺したシエルは力の加減を間違え、激しい光が目を眩ませた。闇からのいきなりの光。あまりの眩しさにのたうち回ったシエルは冷静な部分で「もしかしたら、戦闘に使えるかも?」等と考えながら、壁を伝ってどうにか床に就いた。