不良娘幼馴染み
井上さんと探険ごっこをしてから数日が経った
あの後、井上さんは二日間くらい元気が無かったが今では本調子に戻って一安心
しかし俺の不安はまだまだ拭い切れちゃいなかった
俺「ふぅ…一休みすっか」
俺は持っていたスコップを放り投げ穴の中から這い出る
汗を拭き、木を掘って作った水筒から水分補給
探険した次の日から俺は小屋の周りに堀を造っていた
今のところ野生の動物が小屋に近付いてきた事は無いが、今まで偶然来なかっただけかもしれない
だからもしこれから動物が小屋を狙って来ても簡単に浸入出来ないようにしたかった
でも如何せん一人だと全然作業が進まない…
毎日コツコツ穴を掘ってるが数日かけて出来たのは深さ3m、幅1m四方の誰もひっかからない剥き出しの落とし穴
こんなペースじゃまだまだ完成は先
せめて男手が増えれば話は別なんだけど…
ちなみに井上さんに重労働をさせるつもりは最初から毛頭無い。
あんなに綺麗な手がマメだらけになったら死んでも償い切れんわ(汗)
「すんませーん、誰かいませんかー?」
一息ついてまた穴に潜ろうとした時、玄関の方から井上さんじゃない女の声が聞こえた
しかもこの声は聞き覚えが有る
「っかしーな…誰も居ないのか?」
井上さんも今は井戸の方まで洗濯しに行ってるから小屋の中には誰も居ない
俺はバレない様にソイツの背後に回り込み…
俺「わっ!!」
「ひょわっ!!?」
急に大声を出し驚かすのには成功したが
その後が誤算だった
「誰だっ!?」
俺「オペシッ!!?」
俺は見事な回し蹴りを顔面に貰って膝から崩れ落ちる
「恭介!?何でお前がここに居んだよ!?つーか何驚かせてくれてんだコラッ!!!」
俺「すんばせん…(泣)」
この女の名前は瓜生 真希
クラスメイトで俺の幼馴染みだ
男勝りで勝ち気な性格
一年前までそこそこ大きいレディスの総長をしていた
真希「この訳わかんねー状況もお前の仕業か!?」
地面とキスする俺の胸倉を掴み無理矢理立ち上がらせたかと思えば真希に頭を激しく揺さぶられる
俺「そん…うぷ…な訳ねーだろ…おぷ」
三半規管が絶叫し始めたところ、吐く寸前に真希の手がようやく止まった
真希「まぁ普通に考えりゃお前じゃないことぐらい分かってんだけどさ…」
俺「今説明してやっから…とりあえず手ぇ放そうか」
《中略》
俺「とまぁ、こんな感じだ」
真希「………」
真希は最後まで話は聞いたものの納得していない顔だった
真希「つーことはあれか?お前はもう二週間くらい無人島でサバイバル生活してたって言いたいのか?」
まったくもってその通り
何も間違っちゃいないので俺は「おう!」と一言気持ちよく返した
真希「そんな訳ねーだろ、だって昨日も会ったじゃねーか」
俺「おう?」
どうも話が噛み合わない
俺がこの島に来る前の日は2月6日で、たしかにその日も真希を含む友達と普通に遊んでいた
それから約二週間が経ち、2月の20日前後になってなきゃおかしいんだが…俺は一応真希に確認する
俺「昨日って…何日だった?」
真希「たしか2月6日だな」
俺「………?」
日にちが変わってない…
つまりあれか?
この島じゃ時間の流れが違う、つーかそもそも時間が経たないってことか?
単純だがそれしか思いつかない
これもあの自称宇宙人の技術だとしたら俺が想像してる以上に危険な奴なのかもしれない…
美咲「ただいま戻りましたー、あ!真希ちゃんじゃないですか!」
俺が地球の存亡を危惧していたら洗濯しに行っていた井上さんが帰ってきた
それにしても真希が「ちゃん」付けで呼ばれてるのを久々に聞いた気がする
真希「おう美咲、話は聞いた。つーか「ちゃん」は止めてくれねーか?…慣れてなくてなんかむず痒い」
やっぱり本人も気にしていた
美咲「え、でも真希ちゃんは真希ちゃんですよ?」
真希「お、おう…もういいや何でも」
全く意図を把握してくれない井上さんに流石の真希も苦笑い
『不良』対『天然』、ここは快勝で『天然』に軍配が上がった
真希『天然って怖ぇな…』(小声)
俺『それは俺もたまに思う』
小声で敗北宣言する真希にとりあえず俺も同意しておいた
美咲「?」
子犬の様に小首を傾げる井上さんはさておき、何故か真希のテンションがおかしくなってきた
真希「それにしても無人島ってのは何かワクワクすんな!」
俺「何勝手にワクワクしてんだよ…?」
少年の様に瞳をキラキラ輝かせやがって…少し眩しいわ
真希「だってこんなに広いのにこの3人しか居ないんだろ?それだけでもう冒険の匂いがプンプンすんよ!」
どこぞの少年漫画の様な台詞を吐いてる真希は俺達の知らないどこか遠くへぶっ飛んでいた
完全に馬鹿の子じゃねーか…
つーか井上さんの前で冒険の話はしないでほしい
俺「あのなぁ…無人島はそんな楽しそうなところじゃねーんだよ、本当は危険が一杯なんだぞ?」
美咲「そうです…危ないんですよ…?」
心配していた通り井上さんの頭でトラウマがフラッシュバックしてしまったらしく、既に泣きそうになっている
真希「わ、わかった…(汗)わかったから泣くな、な?」
俺「あー…そんじゃ俺は魚でも獲りに行くかなー…」
気まずさに耐えかね、適当な言い訳をして逃げる準備をする
真希『何逃げようとしてんだ!?どうにかしろよ!』
俺『お前のせいなんだからお前が何とかしろ!』
美咲「…?」
困った顔で黙る真希を横目に網を取りに行く俺
一応打開策も考えてたが何も思いつかなかった
真希「そうだ!恭介の面白い話してやるから、な、聞くだろ?」
何だそのしょうもない解決法は…?
あと、ちょっと俺を犠牲にすんなよ…
そもそも井上さんがそんな話に食い付く訳が…
美咲「本当ですか!?是非聞かせてください!」
なんで!?
その話そんなに興味ある!?
と言うか恥ずかしいから止めてほしいんですけど…!!
真希「よし!じゃあとっておきの鉄板ネタを話してやる!」
美咲「楽しみです!」
俺「………」
本人が目の前に居るのに盛り上がる二人を尻目に俺はどうにも納得出来ない気持ちを携えて魚獲りに赴いた
…………
約二時間ほど海に居た俺はちょうど人数分の魚を手に帰路につこうとしていた
何とか三匹獲ったものの今日は全然集中出来ない
当たり前だ
なんせ今頃あの二人は俺の恥ずかしい話題で女子トークに花を咲かせてるんだから…
こんなもん見えない羞恥プレイだ…
そして真希が井上さんに何の話をしてるかも気になる
気になって気になってしょうがない
スキーに行った時にジャンプに挑戦して頭から雪に突っ込んだ話か…?
それとも海に行った時に海パン流された話か…?
はたまた迷子を助けようとして警察に通報された時の話かもしれない…
あー嫌だ…どれも井上さんに知られたくない
一刻も早く真希のお口をチャックしたい俺の足取りは自然と早くなっていた
そしていつもの三倍早く小屋に戻ると、やはり楽しそうな笑い声が中から聞こえてくる
だが俺はすぐには中に入らない
扉の前で取手に手をかけながら静止して、自分を繕う言葉を考える
真希「んでこの前ファミレス行った時の話なんだけどよー、あいつタコライスのことタコ飯かなんかと勘違いしてて、タコライス食いながら「タコライス遅いな」とか言ってんの!最終的に店員呼んで催促しやがったんだけど店員が「何言ってんだコイツ?」みたいな顔してて超笑った!!(笑)」
最新情報じゃないすかっ!?
もう止めてくれ…(泣)
つーかそんなもん一人でも俺に教えてくれたら店員まで巻き込む大ケガしなくて済んだだろうが…!鬼か!?
美咲「それは…プフッ、面白いですね!(笑)」
これはアレだ…今扉を開けたら井上さんにウジ虫を見る様な目で見られる…間違いない(汗)
考えろ、俺
何かリカバリー出来るとっておきの策を…!
美咲「じゃあ今度は佐藤くんの良い話を聞かせてください!」
ここにきて予想外の助け船
そうだ、ここは一つ俺の格好いいエピソードでも聞かせて今までの分を帳消しにしてくれ、真希!
真希「良い話か…うーん……………………………んー……」
そんなに考え込むほど無いか!?
とは思ったものの、自分でも思い付かない事に俺は軽くショックを受けた
美咲「無いんですか…?」
明らかに井上さんの中で俺の評価が下がっていく
俺は今日から外で寝ることを決意した
真希「とりあえず、今パッと最初に出てきた話でもいいか?」
美咲「構いませんよー」
よかった…
やっぱ一つくらいはあるよな
勿体ぶらないでくれよ
…泣きそうになったじゃねーか
真希「あれはちょうど一年前くらい、あたしが前に入ってたチームから抜ける時の話だ…」
俺「………」
真希は一つ深呼吸をして
ゆっくりと話始めた
《次回に続く》