プロローグ
話を進める前に自己紹介だけ済ませておく。
俺は佐藤 恭介、どこにでも居る普通の高校二年生だ
曲がった事が嫌いなお年頃で周りには少々不良扱いされてるけどそれはどうでもいいしあまり気にしてない
とりあえず基本はこんな感じで俺目線で俺が語る
これはそんなストーリーだ
さっそく本題に入らせてもらうけど…
実際何をどこから説明していいかも解らない
いや、状況で言えば一行有れば足りるんだけど……
「寝て起きたら砂浜に居た」なんて投げやりに言われても誰も解らないと思う
乗ってた船が難破した、とかそういう事でもない
そもそも船に乗っちゃいない
俺は普通に家で寝て起きただけ
それだけで目の前に細波の音が心地好いオーシャンビュー
俺「なんだこりゃ…?」
もちろん頬はすぐつねった
だけど淡く腫れた頬の痛みからどうやら夢でもないらしい
俺はしばらく波を見ながら難儀して近くに落ちてた自分のカチューシャをつけ直す
俺「とりあえず動くか」
俺の背後にはヤシの木みたいな樹木が生い茂っていてどこまでも続いてるように見える
俺は何の危機感も無くその密林に足を踏み入れた
………
俺「ん?」
15分くらい(時計が無いから曖昧)歩いたところでボロボロの掘っ建て小屋が見えた
見た目からして誰も住んでなさそうなその小屋の扉に俺は何の警戒も無く手をかける
俺「ボロいなー…」
小屋は見た目通り年季が入ってるみたいで引いただけで扉は鈍い音をたてながら根本から取れた
「やあ」
俺「うおっ!?」
誰も住んでないと勝手に決め付けてたが中に人が居た
しかもやたら気さくな挨拶をかましてきやがった
俺は不意をつかれて声が裏返るという醜態を晒す
普通に恥ずかしい
恥ずかしさと動揺で俺は自然と相手を睨み付ける
「そう睨まないでよ、怪しい者じゃないよ?」
いや、明らかに怪しい
まず格好が白いスーツに首から上を包帯でグルグ巻き、とウルトラC級の怪しさ
これを怪しくないと言い張るコイツの神経にドン引きだ
そして声は少し高いけどどうやら男
俺「どう見ても怪し過ぎんだろっ!この紳士ミイラ!」
「君は面白い事を言うね、だけど僕にはポルンという名前があるから出来れば次からそう呼んでほしい」
正直コイツの名前に興味なんかこれっぽっちも無い
俺が知りたいのは此処が何処で何で俺が此処に居るのかだけだ
俺「知るかボケどうでもいいわ」
ポ「そ…そんな風に言わなくても……」
ミイラ紳士はやたらとメンタルが弱いらしく、明らかに落ち込んだ
俺「あー…言い過ぎたか、悪かったよ」
何で俺が初対面の変態を励まさなきゃいけないんだ…
ポ「わかればいいよ、わかれば」
俺「………」イラッ
俺がここに来てから30分
さっそく嫌いな奴ができた。
ポ「まぁ、もう察してると思うけど君をこの島に連れて来たのは僕なんだ」
俺は「ああ、やっぱそうなんだ」と思うくらいで自分でも不思議なほど落ち着いていた
ここで取り乱したり怒ったり暴れたりしてもどうにかなるとも思えなかったからかもしれない
ポ「ちなみにここに居る僕はただの立体映像だから手は出せないよ?」
俺「グダグダした前置きは面倒だし難しいから要らね、お前の目的だけ簡潔にまとめて三行で頼む」
難しい話は苦手だ
ポ「僕宇宙人、君達地球人観察する、感想は?」
この自称宇宙人は本当に三行でまとめて感想まで求めてくるコストパフォーマンスを披露しやがった
正直助かる
俺「感想は特に無いけど一個だけ質問がある」
ポ「どうぞ」
俺「俺は無事に家に帰れんの?」
呑気な性格だけど最低限身の安全は保証してもらいたい(切実)
ポ「それは君次第かな」
ポルンは包帯越しでも判る様な笑みを浮かべて言った
不気味で気持ち悪いがまた凹まれても面倒臭いので言うのはやめておく
ポ「飽くまで僕達の目的は『観察』、他の場所から眺めてるだけで必要以上に君達を痛め付ける事はしない。ただそれだけでもつまらないから君達にはここを脱出するための目標を作っておいたんだ」
俺「ラスボスにモンスターでも出てくるってか?」
流石にこれは冗談半分だ
いくら今の状況が非現実的だからってそんなRPGみたいな事があるわけがない
ポ「察しがいいね、君達の最終目標はこの島の主である『怒竜・グオーム』を討伐すること」
おいおいマジか…
いつから俺は異世界ファンタジーの住人になっちまったんだよ…?
最終的に魔法とか使えるようになっちゃうってか?
俺「竜って言うのはあれか?ドラゴンの事だよな??」
嘘をついてるとは思えないけど一応確認する
ポ「そうだよ?デティールで言えば西洋風のものに近いね」
混乱しつつも『竜』と聞いてワクワクしてる男の子が俺の中には居た
だがただの高校生に漫画や小説に出てくる様な凶暴なドラゴンを倒せるとは思えない
経験値を稼いでレベルアップするなんて都合のいいシステムは現実には無いんだからよ…
俺「まぁいいや、時間は有るっぽいからのんびり作戦でも考えるわ」
ポ「ずいぶんすんなり受け入れるね」
俺「充分バカみたいな事が起こってんだから今更うろたえんのもアホらしいだけだよ」
ポ「そう、それじゃ僕は必要最低限の事だけ説明して帰らせてもらうよ」
俺「どうぞご勝手に…」
ポルンが言うにはサバイバル生活が基本らしいが湧水が出る井戸や工具セット、そしてトイレ(洋式)は元々完備してくれるらしい
意外と考慮されてるところも多いがその他は完全にサバイバル
食料や他の動物(主に猛獣)の対処は自分達でやれ、とのこと
俺「もうひ一つだけ訊いていいか?」
ポ「なんだい?」
俺「お前は『君達』って言ってたけど俺以外にも誰か居んのか?」
ポ「現時点では今この島に居る人間は君一人だけど少し時間が経てばまた増やす予定だよ。あと数人は連れてくるかな」
俺はそれを聞いて心の底から安心した。
連れて来られる奴らには悪いが俺一人じゃ心細過ぎるし、何より寂しい
俺が一番恐いのは餓死でも獣害でもなく孤独死だったりする
ああ、そうだよ
寂しがり屋だよ…
俺「危うく孤独死するところだったぜ…」
ポ「なるほど…『地球人は一人だと寂しくて死ぬ』、と」
ポルンは懐から出した手帳に俺の恥ずかしい生態を書き込み始め、俺はそれを阻止しようとするが立体映像なので触れる事も出来なかった
何も抵抗出来ず書くのを見届けるとポルンは徐に左手を上げ中指と薬指の間を広げた
ポ「それじゃ、頑張ってね」
俺「………」
それだけ言うとポルンの姿が小屋から完全に消えてなくなった
一人の高校生の人生を大きく左右しようとしてるのに別れの挨拶はあまりにもあっさりしてて無性に腹が立つ
俺はその場に座り込みこれからの事を頭の中で巡らせる
が、全然まとまらないのでとりあえず外に出て食料調達に行くことにした
俺「ま、なんとかなんべ」
この時、俺はまだ何も知らなかった
この島の本当の恐ろしさを…
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