エピローグ
※「33 錆色と銀色」と連続投稿しております。ご注意ください。
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「フィア……フィア! あぁ、久しぶり! 元気にしているかい? ちゃんと食べているのかい?」
馬車から飛び出したミンダは、出迎えたフィアに抱きついた。
「痩せてはいないね。いや、なかなか女らしい身体つきになってる、瞳も澄んでいる……元気なんだね、フィア。いやあ、雨期が明けるのが待ち遠しくてならなかったよ。雨期には馬車で遠出は苦しいからねぇ」
「うんうん、ミンダ」
ぎゅうぎゅうとハグをしあっていると、横から伸びた腕がフィアの肩を叩いた。
「フィア、そしてミンダさん、注目を浴びているので、近況報告は家についてからどうぞ」
肩を叩いた男……エディはそう言うと、さっさと馬車から降ろされたミンダの荷物を抱え歩き始めた。
その後ろ姿をみやりながら、
「相変わらず、顔はいいけど愛想の悪い男だねぇ」
と、ミンダが呟く。それに応じるように、
「口は悪いが、エディはいいやつなんだ……たぶん」
とフィアがこそっと言った。
その瞬間、前を歩いているエディが二人を振り返る。
「ウィルが待ちくたびれてるので、早く行きましょう」
冷ややかな目と口調でそう言われて、ミンダとフィアはやれやれとばかりに後を着いて行った。
王都の森のはずれにある家が見えるところまで来ると、フィアは手を振った。
杖を支えに家の前に立つ男がいる。
フィア達の姿に気付いた男は、杖をつきながらゆっくりとだがこちらに歩みを進めてくる。
その姿を見て、ミンダはフィアに小声で尋ねた。
「旦那の体調は良いのかい?」
「あぁ、ずいぶんと」
「そりゃあ良かった」
ミンダの声が弾む。
ちょうどその時、夏の日差しを和らげるような爽やかな風がふいた。
陽光にさらしたフィアの長い髪が風に揺れて、なびいてゆく。
そのさらりとした長い髪を見て、ミンダが目を細めた。
「……真実だったんだねぇ。ほんとうに綺麗だよ。雨期は明けたが、大地を潤す慈雨を思い出すねぇ」
フィアはミンダの言葉に照れたように頬を染めた。それからフィアはお腹をさすりながら言った。
「どっちに似るだろうか」
「そりゃあ、どっちもさ。何色だろうと、その子の色だよ」
そういって豪快に笑ったミンダは、家の前に立つ男に大きく手を振ると、フィアの手を取った。
「さ、行こう! 旦那はお待ちかねだし、エディの目はどんどん冷ややかになってるからね」
茶目っ気たっぷり言うと、ミンダはフィアと手をとり男達が待つ家へと歩き始める。
雨期の明けたまばゆい夏の陽光が、明るく彼らを照らしている。
多くの涙のしずくを受けとめた大地は、恵みゆたかに次の命を育てることだろう。
fin.




