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眼下に広がるのは火の海。聞こえるのは兵士の怒声と女性達の叫び声。
「この国は戦いをやめるということを知らないのか」
「ずいぶん大きな口がたたけるな」
ぽつりと言ったはずなのに、石部屋で音が通るのか、様子を見に来たあいつに聞かれた。
「こんな所で何をしている。指揮官なくて兵士を戦わせるのか」
「ほう、自分の心配はしないのか。いなくとも戦える兵が育っている。お前の国にも送る準備が進んでいる。お前は役立たずとしてさぞかし母国に恨まれるだろうな」
「なるほど、この国はそうした考えから崩れていくのだな。我が国に兵を送ればこの国に人質を送っても無駄だという良い例になる。私を殺しても同じだ。またこれだけ戦い続ければ他国からの恨みは深く、民衆の疲労も濃くなる。外敵だけでなく、中から駄目になるだろう。この国の滅びを目の前で見られるとは嬉しいことだ」
「そう言うならやってやろうか?」
「安心しろ、お前に殺られるぐらいなら自分で死ぬ。我が国に兵を出しても死んでやる。後腐れがなくて良いだろう」
「俺のものになれば楽になるが」
「五感が全て無くなろうともそれはない。私がまだ生きているのは国のためだ」
話すのが嫌になって、再び窓へ視線を向ける。
「…勝手にしろ」
そう言い捨てて出て行く気配がした。監禁されている状態で一体何が出来るのだろう。眼下に広がる景色の中、子供が泣いているのが見える。何も出来ないことに顔を歪める。出来ることと言ったらー。
「―――」
歌を歌うことだけ。子供が弾かれたように顔を上げる。歌っている人を探しているのだろう。しかし見つけることは出来ない。歌がどんなに聞こえても、子供が上を、塔を見上げることはない。掌位の窓があるだけの塔には、誰もいない筈だから。
やがて子供は駆け出した。塔とは反対方向の、何となく声のする方へ向かって。
その間も歌い続ける。目を閉じ視界を暗闇で塞いで、耳を自分の声だけに集中させて。歌はやがて、鎮魂歌へ。謝罪と罪悪を抱きながら。
この国と戦っている人々に、鎮魂歌しか歌えない苦しみと今戦っているのが自国でないと安堵する恥ずかしさと。
監禁も衣食住が酷くなるのも予想していた。嫌ならこの国の者に嫁ぎこの国の民となれ。お前を悪者にし母国は思い切り戦えるようになるぞと。お前1人だで救われる命が増えるかもしれないと。
私は拒否した。歌は心で、止められなかったから。
「例えこのまま、これ以上悪くなっても歌うことをやめはしない」
母国を、人を想うことを、心が閉じ込められるのを、我慢はしない。




