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あの日、あの時、あの場所で。  作者: Noa.
とらわれた男は何を望むのか
8/12

人間界3

「カーマ族にフタコ族、スン族、天才魔法使いとその幼馴染。豪華ですねぇ」

 嬉しそうな声でJが言う。その言葉に全員が身構えた。特に天才魔法使いと幼馴染と言われたフェイとジンは驚き、互いに視線を交わす。

「俺たちのこと、知ってるのか?」

「えぇ、特に貴方は我々の間では有名人ですよ。十年前の一件以来、ね」

 Jの答えに片眉をピクリと吊り上げたフェイ。だがそれ以上は追求せず、ユーリーンに視線をやる。

「うちの可愛い弟子を放してもらおうか」

「あぁ、お弟子さんだったんですね。通りで契約をしてないわけだ」

「契約をしていなかったら不都合なことがあるのか?」

「えぇ、不都合ですね。僕は魔法石を集めるのが担当なので」

「担当……か。お前はどこかに所属してるということか。ここ最近の事件もお前の仕業か?」

「さぁ、どうでしょう」

 にこやかにはぐらかしてくる。が、個人ではなく複数人が相手であるらしいということが分かった。

「魔法石が目的ならば、その子は関係ないはずだ。さっさと放せ」

「嫌です、と言ったら?」

「力ずくでいく」

「まぁまぁ、そうカリカリしないで」

 ヘラヘラと笑うJのユーリーンをつかんでいるほうの手首にナイフが突き刺さった。

「っ!」

 会話に焦れたヴズズが魔法で投げたものだった。Jに刃を向けて、いくつかのナイフが空中で待機している。

握力がなくなり拘束が解けたにも関わらず、驚いて立ちすくんでいるユーリーンに声がかかった。

「走れ!」

 フェイの一喝で弾かれたように走りだし、迷うことなくフェイに抱きついた。

「ししょっ……」

「無事で良かった。怪我はないか?」

 声を出せず首だけを振って無事を伝えると、フェイはユーリーンの頭をなでてやる。怖かったのだろう、小刻みに震える彼女はフェイの胸に顔を埋めた。

「もう大丈夫」

「ユーリーン! 無事で良かったぁ」

 ルルゥがユーリーンの肩にくっついて喜ぶ。

 ジンとコクは目の前のJから視線を離すことはしなかったが、それぞれほっとしていた。きっかけを作ったヴズズは、無表情のままJを真っ直ぐに見つめる。

「いきなり攻撃してくるなんて、卑怯なんじゃないですか?」

 腕を押さえてはいるものの、にこやかな表情は変えずにJが言う。動脈が傷つき、腕から赤い血が流れている。それを緑色の光が覆った。一般的な回復魔法を使った時の光だ。組織の再生を早めるだけで、一瞬で治るわけではないため血がポタポタと流れ続けているが、鎮痛効果を加えているのか口元の笑みは消えていない。

 ヴズズが鼻で笑った。

「卑怯? 人質を取ってる奴を相手に掛ける情けなんて持っていない。それに俺は今、腹が減ってるんだ。さっさと帰る」

「ユーリーンの飯、早く食べたいんだもんなぁ」

「黙れジン!」

 待機しているナイフの一つがジンの頬をかすめていく。

「おまっ! あぶねぇだろ」

「お前が余計なことを言うからだ」

「僕もお腹空いてるんだよね」

 コクが一歩前に出れば、あたしもぉと手を頭の後ろで組んでルルゥもそれに続く。

「うちの旨い飯を奪おうとしたお前の罪は重い」

 全員が無言で頷いた。

「しょくじ……ですか。まぁいいでしょう。思わぬ収穫のチャンスを無視するわけにはいかないですから」 

「回復魔法を使ってる間がチャンスだ、一気にやるぞ」

 ジンの言葉でまず、ヴズズが動いた。

 待機させていたナイフを一斉に飛ばし、本人も突進していく。

 四方から一気に突き刺すようにナイフが動いたが、それよりも一瞬早くJは後ろに移動した。

 滑るような動き。

 追い討ちをかけるようにヴズズがゼロ距離からの攻撃を仕掛けるが、男に触れる前に男の魔法によって吹き飛ばされた。

 が、それは想定内だ。

「逃がさないよ!」

 ルルゥが男の背後から攻撃をしかける。両手から生み出される火の玉が、男の背中に向けていくつも飛んでいく。

 振り向いた男が使えるほうの手をかざし、向かいくる火の玉に同じように火の玉を放つ。二つが命中、残りを避けるため上に浮いたところをジンが待ち構える。肩に乗るコクが、男のとっさの攻撃を防いだ。

「茨の王ローゼ」

 ジンが呪文詠唱を始める。

「魔方陣も無い場所でそんな呪文など……っ!」

 男の下には、ナイフが数本地面に刺さっていた。ヴズズが始めに投げたものだ。ジンの言葉に応えるように刺さっている場所が光の線で結ばれ、円を作る。その中に男は囚われた。

「悲しき棘は刃、強き根は捕食者、赤き蕾は死神」

 言葉は流れ、静かな夜に響く。

「美しき花よ、咲け」

 地面からゆっくりと現れた棘のある蔓が男に絡みつきじわりじわりと体に傷をつける。流れる血を養分とし、小さな蕾がいくつも成長する。が、そこまでだった。本来ならば対象者を殺し美しい花を咲かせる魔法だが、蕾は開花せず成長は止まる。

「ただの円から作った俺の短縮魔法だから、本物に比べたら大したことねぇが、これでお前は捕まえた」

「いやはや、流石ですね。ただの円でここまで出来るとは」

 捕まったというのに、やはりにこやかに男は言う。まるで危険を感じていないかのようで、余裕を崩さない。茨で出来た傷を癒すため治癒の魔法を使っているだけだ。

 そんな男にジンは問う。

「お前が最近の石化事件全ての犯人なのか?」

「さぁ、どうでしょう」

「この期に及んではぐらかすわけ?」

 ルルゥが攻撃の姿勢を見せたが、ジンが片手で制する。

「いえいえ、はぐらかしてなんていませんよ。ただ僕は他の面々の行動に興味がないため、分からないというのが正しいですね」

「じゃあもう一つ。十年前リーアを、フェイの姉貴を殺したのはお前か?」

「さぁ、どうでしょう。知りませんねぇ」

「何故知らない?」

「僕、少し前の記憶しかないんです。記憶欠乏症なもので」

 相変わらずの笑みをたたえた表情で、男が言った。

「記憶欠乏症だと?」

「えぇ、そんなわけで数日前の記憶くらいしかありません」

「ホントかなぁ」

 男の答えにルルゥが疑いの目を向ける。

「そしたらなんで十年前とかいう話ができるんだ? 嘘に決まってるだろ」

「嘘じゃないですよ。一週間前に自分が何処で何をしていたか、覚えてない。でも日常生活に必要な内容は覚えている。そんな感じです。まぁ、信じる信じないはあなた方の自由ですが」

「んなことどうだっていいだろ。何も知らないのなら、此処で散れ」

「それは……できない相談です」

 その瞬間、男が火柱の中に消えた。




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