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あの日、あの時、あの場所で。  作者: Noa.
とらわれた男は何を望むのか
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人間界2

「えぇ! じゃあ、魔法使い連続石化事件の犯人がこの辺にいるかも知れないってこと?」

「ぅぅぅるせっ……」

 鏡を通って人間界へやってきたジンたちは、一先ずユーリーンが行ったであろう墓地へ向かっていた。その道中、昼間あった話をかいつまんで説明したところ、ルルゥが大きな声をあげて言った。ジンの肩に座っていたため、耳元で叫ぶことになりジンは慌てて小さな体を摘んで捨てた。

「ちょっ、いたいけな女の子を捨てるなんて酷い!」

「うっせぇ夜なんだから静かにしろっ! 耳元で叫ぶなっ」

 小声で怒鳴るジンに、周りも頷いた。

 虫の声が響く夜。この町の人々は夜になると早めに家に帰ってしまうようで、人の姿はあまり見かけない。たまに居たかと思うと酔っ払っているか、ホームレスが蹲っているか、夜のお仕事の人たちだ。ポツポツと家があり、窓からカーテン越しに光が漏れてくる。

 ヴズズの手足についている鎖だけが、シャラシャラと歩くたびに音を立てた。

「俺が言ったのは、犯人と思われるかもしれない奴が人間界に向かったってことだ。ただ、いるかもしれない以上、ユーリーンを一人でここに居させるのは危険だと思った。だからこうして皆で迎えに行ってるんだ」

「それって、もしも犯人と出会ってしまった場合危険ってこと?」

「さぁな」

「ちょっとぉ!」

 ジンに分かることは、もしフェイの姉を石化させた相手ならば、かなり強い相手だろうということだ。どんな魔法を使ったのかも未だに分かっていない。

 だが、そんな偶然があるはずがないと思うし、変に身構えさせる必要もない。だから、それ以上は言わなかった。ポカポカと小さな手が肩を殴ってくるのが調度凝っているところで気持ちがいいというのも、あえて言わずにおく。

 先頭を歩くフェイの足取りに迷いはない。

 きっと、何度も付き添って墓参りに来ているのだろう。知った町であるかのように歩く。そしてその足取りはいつもより早い。それに気づきつつ一同はぞろぞろとくっついていく。

 すると、フェイが左にある路地を覗いて足を止めた。一同もつられて立ち止まる。

 その向こうには、こんな時間にもかかわらず営業している店が見えた。数人の客がカウンターに座っているのが分かる。

「あのラーメン屋が美味くてな」

 ポツリと呟いたフェイに、呆れ顔でジンが返す。

「……お前、あの趣味まだ続いてるのか?」

「趣味とはそういうものだろ」

「いやまぁ、そうだけどさ。相変わらず意外性満点だな」

「褒め言葉と受け取っておこう」

「お前ら早く行けよ」

 雑談を始めた二人にヴズズが不機嫌そうに声をかける。

「お腹、空いたね……」

「僕も」

 ラーメン屋の看板を見て、ルルゥとコクの腹が鳴った。今は白い猫ではなく黒い猫なためハクではなくてコクだ。

 昼はそれぞれ食べていたが、夕飯はまだだった。いつもならば皆で食卓を囲んで食べ終わったころだ。

「飯食うために探しに来たんだろうが」

「お、珍しく静かに着いてきてるかと思えば、お前ユーリーンの飯が食いたかったのか」

「……うるさい」

「お前が食べたがってたって聞いたらユーリーン、喜ぶぜー」

「黙れ消すぞ」

「おー怖い怖い」

「おい、墓まであとどのくらいなんだ?」

「この先を右に曲がって階段を登ったところだ」

「先行くからな」

 不機嫌そうにさっさと歩き出したヴズズに、内心苦笑しながら全員が続いた。

 ユーリーンの両親の墓には、立派な花束が墓石の上に置かれているだけだった。墓参りの際には墓石を水で洗ってやるのが通例だが、触った限りでは濡れていない。昼間のうちに済ませて、どこかにいったということだろう。

「来たのは確かだな」

「っつーことは、どっかでフラフラしてんのか?」

「探すしかないか」

「入れ違いで帰ったってことは?」

「それもありうるな」

「人探しの魔法が得意な妖精を置いてきたのは失敗だったな」

「ホントだね、何で連れてこなかったの?」

「目立つからだって」

「てか、よく考えたら夜なんだから目立つとかないよね」

「うっ……」

 得意な魔法は種族によって異なる。自然と一番密接な関係にある妖精は、あらゆるものに話しかけることが出来るため、何かを探すことが得意なのだ。それぞれ人を探す魔法を知っているが、妖精族には早さで劣る。あの家の住人の中ではワフラが適任だったのだが、今更遅い。一度戻って連れてくるのなら、このメンバーでどうにかする方が効率的だ。

「ねぇねぇ、昼間の魔法を応用してユーリーン探せないの?」

 ここまでほとんど黙っていたコクが、口を開いた。

 昼間の魔法とは、魔法石の痕跡を追うためにジンが使った魔法のことだ。だが、そのとき一緒にいたのはハクであり、間違ってもこの黒い猫ではなかった。

「コク、前からお前らに聞こうと思ってたんだが、ハクとは記憶が繋がってんのか? それともお互いにその一つの体で会話してんのか?」

「別にそういうわけじゃないよ。昼間の話を聞いて、できないかなって思っただけ」

「……出来るか?」

「魔方陣自体は簡単だが、ユーリーンの魔力が分かるものが必要だな」

「あー、あたしあるかも……」

 そういって、ルルゥは細い腕を服の中に上から突っ込んだ。あれでもないこれでもないと言いながら、何かを探している。

 あったと言って取り出したのは、ユーリーンのものと思われる髪の毛だった。ルルゥの身長の倍以上ありそうだ。

「……お前、どっから出したんだ?」

「ヒミツ」

「まさか、無い胸をごまかすためにパ……」

「死ね!」

 ルルゥの華麗なとび蹴りがジンのこめかみにヒットした。

 何故髪の毛を持っていたのかも聞きたいところだったが、あえて突っ込みはいれずにフェイは地面に円を描き、中に色々と書き込んでいく。『魔法石の痕跡を追う』という指令部分を『ユーリーンの魔力を追う』という内容に変更する式を頭の中で計算しつつ、手を動かす。

 そいういえば、と蹴られたこめかみを撫でながらジンが声をかけた。

「あのクソむかつく犬。あの姿やめろよ」

「却下だな」

 即答。

 予想して待っていたのではないかと思えるくらい即答だった。

「お前ならできんだろ」

「お褒めに預かり恐縮だが、とっさに変更したことで失敗するかもしれないからな。あのカタチでいく」

「おまっ」

 変更しながら描き込んでるのに、何を言うんだと思いつつそれ以上言っても仕方がなさそうだったため、我慢したジンだった。

「よし。ルルゥ、髪を真ん中に置いてくれ」

「……これでいい?」

「あぁ。発動オン!」

 白い線が青い光となって犬のカタチを作り出した。昼間と全く同じ姿だ。それを見てジンが嫌な顔をする。その犬は吼える仕草をして駆け出した。その小さな姿を見失わないように追いかける。

 入ってきたのとは反対方向にある出口から出て、民家の間を抜けると、小さな公園があった。

「あ、あれ!」

 ルルゥが叫ばずとも、全員が気づいた。

 暗がりに居るが、ベンチに座っているのはユーリーンだ。

 そして、その隣には……見知らぬ男。

「おい、お前ら止まれ!」

 ヴズズが急いで向かおうとしたジンとフェイの首根っこを掴み、引止めた。公園の入り口手前だ。あと一歩で公園内に入るというところだった。

「お前ら馬鹿か」

「あんだよ、ユーリーンの隣に変な奴がいるの、見えねぇのかよ!」

「よく見ろ」

 舌打ちをして言ったヴズズが指を鳴らすと、目の前で魔方陣が現れて燃え、消えた。

 目の前だけではない。

 公園のあちこちで同様のことが起こった。

 どうやら罠が仕掛けられていたらしい。

「道は選んで歩け。カーマ族のありがたい言葉だ」

 そう言って先に公園内に入っていく。シャラシャラと鎖の音が鳴る。

「流石、戦闘に関しちゃプロだね」

 茶化すようにルルゥが言って、後に続く。

 気を取り直して入ろうとした二人に、更に別の声が静止をかけた。

「二人とも、多分中に入らない方がいいと思う」

「はぁ?」

 コクの言葉にジンが声をあげた。罠は消したのに、どういうことだと言外に言ったのだ。

「この距離で、結構きてるんだ。もし二人の魔法石を狙われてるんだとしたら、行かないほうがいいよ」

「……確かにきてるな」

 カーマ族が戦闘に関して強いならば、フタコ族は防御に関することに強い。今コクは、見えない魔法を逆魔法でキャンセルしていた。恐らくはユーリーンの横にいる男が出しているものだ。それが予想できたため、コクは二人に行かない方がいいと言ったのだ。それが、フェイには分かるがジンには分からないらしい。

「おい、何がきてんだ?」

「お前には繊細さが足りない」

「フェイ、喧嘩売ってんのか?」

「そんな場合じゃないだろ。コク、俺の分はいい」

 そう言って、フェイは頭の中で魔法を構築し、発動。周囲に魔法を展開する。

「……結構あるよ?」

「大丈夫。筋肉馬鹿だけでいい」

「分かった」

 コクが逆魔法をやめた途端に、魔法がやってくる。展開したフェイの魔法に相手の魔法が引っかかる。簡易な緊縛魔法だ。それを片っ端から逆魔法をかけてキャンセルしていく。

 誰が筋肉馬鹿だと呟く声が聞こえたが、無視してフェイも公園内に入った。その後を今度こそジンとコクが続く。

 知った顔ぶれに安心して駆け寄ろうとしたユーリーンだったが、その手を隣に座っていたJに引きとめられた。

 放してくださいと言うユーリーンの言葉も聞かず、揃った面々を満足そうに眺め、

「釣れた獲物は予想以上の大物ですね」

薄い唇に笑みを浮かべて、Jが呟いた。


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