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あの日、あの時、あの場所で。  作者: Noa.
とらわれた男は何を望むのか
5/12

大きな家の住人たち 3

 場所は変わって……。

 家ではヴズズとルルゥ、ワフラがフェイの水槽の前で話をしていた。喧嘩もするしお互いに嫌いな部分もあるが、一緒に住んでいるだけあって基本的には皆仲が良い。

 暇なときには二階にあるフェイの部屋か、一階のテーブルを囲んでツラツラとどうでもいい話をしたり、ゲームをしたり、魔法について勉強したり、と皆で同じ場所にいるのだ。

 そろそろ夜になる。

 お腹が空いてきたのだが、一向に御飯が出来る気配はない。それもそのはず、食事担当のユーリーンが出かけたきり帰ってこないのだ。

「ユーリーン、遅いなぁ」

「かなり落ち込んでたし、気が済むまで一人にしてあげたほうがいいんじゃない?」

 宙に浮かび寝転んだ状態で呟いたルルゥに、ワフラが言葉を返した。傍にあったベッドに腰掛けて足をプラプラとさせながら、出掛けのしょんぼりとした姿を思い出す。

「あの状態だと、二、三日は帰ってこなかも」

「心配してるようにみせて、実はフェイ独り占めしたいだけでしょ」

「もちろん!」

 頭についている髪飾りみたいな大きな赤い花が、頭を縦に振った弾みで一緒に揺れた。頭に花がついているのは花の妖精の特徴だ。これは一年中枯れることなく咲き続けている。

「あいつは人間なんだし、ここに居るよりこのまま人間界に帰ったほうがいいだろ」

 ルルゥと同じく宙に浮いた状態で胡坐をかいて明後日の方向を向いていたヴズズが、口を挟んだ。

「出たよ、人間嫌いのカーマ族! なんでそうも嫌うかねぇ。ユーリーンの作ってくれた御飯、残さず食べるくせに」

「それはそれ、これはこれ」

 ルルゥの茶化した言葉も気にすることなく、淡々と答える。

「何でそんなに嫌いなわけ?」

「……さぁ、なんでだろうな」

「むぅ」

 これに関しては何度も聞いているが、一度として明確な答えが出たことはない。そのくせ、話を自分から出してくるのだから、言いたいのか言いたくないのか……。

「じゃあそれは答えなくていいからさぁ。そろそろフェイ元に戻してあげよーよ」

「やだね」

 即答だった。

「今ここに居るメンバーでフェイ様を元に戻すことができるのは、あんただけなのよ?」

フェイのファンを自称する彼女はフェイを呼ぶときに様とつけている。それがファンとしてのけじめらしい。

「それが?」

「だからー、ヴズズがやってくれればいいと思うわけ!」

 あーもーと全身を大きく広げて大げさなジェスチャーをするルルゥを冷たい目で見つめてから、ヴズズは大きくため息をついた。

「そもそも、こいつは自分で鯉になる魔法を解かずにいるんだ。好んで鯉になろうとする奴をどうして俺が元に戻してやんなきゃなんないんだ?」

「むー、そうだけどー」

「フェイ様にはフェイ様のお考えがあんのよ! あんたがとやかく言うことじゃないわ!」

 フェイが鯉になってしまう魔法を自ら解かずにいるのは、ここにいる全員が気づいている。それでも、鯉の状態では魔法は使えないのだからやっぱり誰かが元に戻してやらなければならないのだ。

「もう、いっそ川に流してやりゃあいいんじゃないか?」

「そんなことさせない!」

「絶対やらせない!」

「俺だって流石に自分と契約してる相手を放流したりしないけどな」

 冗談だから落ち着けと、今にも魔法を仕掛けてこようとしていた二人に言う。

「でも、どうしてフェイは完全に魔法を解こうとしないのかな?」

「そうなのよねー。フェイ様くらいなら、簡単に解くことができるはずなのに。どうしてあの小娘にやられたままなのか……」

「小娘とか言わない! ユーリーンがフェイの弟子なの悔しいのは分かったから呪いの人形握り締めるのやめて」

「これは別に呪いの人形じゃないわ」

「じゃあ、何なのさ」

「ユーリーンの身代わり人形よ!」

「それ、釘刺したりする用でしょ」

「っ!」

「お願いだから、どうして分かったのって顔しないでくれる?」

「……お前ら本当はフェイ、どうでもいいだろ」

「「そんなことない!」」

 本当か?

 同時に答えた二人に対して、それはそれは疑わしげな目を向けたヴズズだった。

 と、そこで下から扉が開く音が聞こえてきた。

 なにやら話し声が聞こえる。そのまま階段を上がってくる音と共に、ジンとハクが顔を見せた。

「お帰り、ジン、ハク」

「おう、ただいま」

「随分遅かったねぇ。ってかずぶ濡れの状態でこっちくんな!」

「もう、ジンが雨降ってることに気づかない究極のアレだって気づかなかった僕はどうかしてたよ」

 大きな肩から降りて、ハクがボソッと呟いた。

「アレってなんだ?」

「アレって言葉に気づかないのが、君がアレである証拠だね」

「なんか知らんがお前、バカにしてるだろ」

「うん、つまりはそういうこと」

「こんにゃろ」

「ちょっと喧嘩しないで、服乾かして来て!」

 ルルゥに言われ、渋々とジンは上に濡れた服を乾かしに行った。少し身震いしてハクは体についた水滴を落す。

 そんな白猫にルルゥは声をかけた。

「今日はどこ言ってたの?」

「んー、ホーレンの街」

「あぁ、ビーのところか」

 ヴズズの呟きに驚いてハクは顔を上げた。声をかけようとしたが……。

「うぉ、なんだぁコレ!」

「あー、ごめん片付けてなかった。気にしないでー」

 上から聞こえたジンの声にルルゥが叫んで答えた。昼間の洗濯物の騒ぎから、魔法を解いたまま放置していたことを今の今まで忘れていた。

 上からはまたユーリーンだな、と聞こえてくるが気にしない。

「ビーって、知ってるの?」

 改めてハクはヴズズに聞いた。

 そういえば、この使い魔はフェイと組んで二十年は経っているはずだ。知っていても不思議はない。

「あぁ、一言で表すと変な奴」

「僕は普通の人な気がしたんだけどなぁ」

「ネジが外れた人間ってのは、一見普通に見えるもんだ」

 酷い言われようである。

「ねぇねぇ、何しに行ったの? デート?」

「ジンみたいのを相手にする女、見てみたいわね」

「ちょっと、違うって!」

「どうせ、最近起きてる石化について話を聞いてきたってところだろ」

「……まぁ」

 核心をついてきたヴズズに、小さく俯いてハクは答えた。

 この中では一番古株であるヴズズは、色々と事情を知っているのかも知れない。それが少しだけ悔しく感じた。

 そこで、服を着替えてきたジンが降りてきた。

「おっ、珍しいな。今日は鯉の状態で過ごしてるのか、フェイ」

 水槽の中で動き回る鯉をガラス越しに覗いてジンはニヤリと笑う。心なしか怒ったように、鯉の動きが早くなった。

「偶然に偶然が重なってフェイに水がかかっちゃってさぁ」

「お前のこんな姿が見られるなんて、想像できなかったけどなぁ。世紀の天才魔法使いが弟子に鯉にされるなんて聞いたときには、戦慄したぜ」

 喋りながら指を動かすと、鯉とその周りにあった水槽の水が球体にまとまり、外に出てきた。さらにそれをツンと突くと、段々と人のカタチに戻っていく。

「いい加減、その言葉は聞き飽きた」

 無事に元に戻ったフェイが、ジンを睨み付ける。

「礼はいらねぇよ」

「言うつもりもないからな」

 ため息交じりにフェイは返した。ここ最近のいつものやり取りだから、台詞も棒読みだ。

 実は、元に戻すときの魔法には服を着せることまでは含まれていないのだ。だから、魔法が使えるようになると同時にフェイは自分で服を着るようにしている。これがタイミングによって、かなりギリギリになってしまうのだ。かける方とかけられる方にしか分からない話だが、そんなこともあってフェイは絶対に礼は言わないと心に誓っているのである。

「良かったぁ、誰かさんの使い魔が全然使えないからさぁ」

「……誰のことだか」

「お前だよ! ユーリーンが帰ってこないって話を早くしたかったのにさぁ」

 ワーギャーと言い争いを始めた使い魔たちは無視して、ジンが周りを見る。 

「そういえば、ユーリーンはどこに行ったんだ?」

 いつものこの時間であれば、良い匂いをさせてキッチンで料理をしているはずなのだが、帰って扉を開いた時には下に居なかった。上に居るのだろうと思っていたのだが、フェイの部屋には居ないし、すぐ隣にある自室に居るようにも思えない。三階にも居なかった。地下かぁ? と呟くと、彼女の使い魔がヴズズの頬を左右に伸ばしながら答えをくれた。

「なんか、お墓参りに行くって行ってたよ?」

「は?」

 墓参り?

「あぁ、ジンはまだここ来てあんまり経ってないから知らないのか。毎年この日はユーリーンのご両親の命日とかで、必ずお墓参りに行ってるんだ」

「墓参りって、だってあいつの両親は人間だろうがよ」

「うん、だから人間界に行ってる」

「……」

 黙って眉間にシワを寄せた彼の様子に、ルルゥは手を離した。他の面々も顔色をうかがうかのように顔を向ける。

「ジン?」

「……今から人間界行くぞ。お前らも大体来い」

 大体という言葉に、その場の全員が頭に疑問符を浮かべる。

 大体って……、誰だよ。

 面倒くさそうにヴズズが代表して聞いた。

「俺もか?」

「留守番はワフラだな」

「えぇ! フェイ様にあたしは付いていけないってこと?」

「お前が一番目立つ」

「……確かに」

 身長三十シームのワフラは、一見小さいから目立たない気がするが、実は大きめの人形サイズであるから動いているととても不思議な目で見られる。魔法使い以上になじみがない花の妖精なのだから、仕方がない。

 他の面々は子供や大人、完全に隠れられるサイズなのだが、彼女だけがどうにもならないサイズだった。ジンやフェイ、ヴズズが腕に抱えて行動するには大きすぎるし、見た目の年齢的に無理があるのだ。

 頬を膨らませて悔しそうにする小さな妖精の頭をくしゃくしゃと撫でて、ジンは下に向かう。

「詳しいことは後だ。とりあえず行くぞ!」

 何故か焦るジンに一同は黙って続いたのだった。


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