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あの日、あの時、あの場所で。  作者: Noa.
とらわれた男は何を望むのか
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人間界5

「無駄ですよ。普通の魔法では彼らはどうにもならない」

 そんなことは分かっている。禁止魔法に分類されるほどの魔法だ。上級魔法よりも上なものがほとんどなはず。だが、何かをしなければジンを助けることができない。

 誰もがそう思っていた。

 だが、どうやって?

「ししょー……」

 ユーリーンが隣にいる師の顔を見上げると、眉間にシワを寄せて何かを堪えているような、何かを考えているような、そんなように見えた。

「大丈夫、一瞬です。痛くもないですから」

 赤髪の少女がその巨大な手を上に上げる。

 兄同様に感情の見えない顔で、宙に浮くその姿はまるで死神だった。その手が全力で振り下ろされる。

「やべぇ」

 終わりか、と思わずジンが目をつぶった。

「……」

 が、たっぷり十秒待っても衝撃はこなかった。

 ジンが恐る恐る目を開けると、目の前に見慣れた後姿があった。ヴズズだ。

 大きな手を右腕一本で押さえている。

「ヴズズ……」

「フェイに感謝しろよ。あいつがとっさに俺の右腕の鎖を解いたんだ」

「右腕……?」

 見れば、いつもついているはずの鎖が右腕だけついていない。

「お前、それ……」

 右手は無傷。完全に押さえている。が、もう一方の巨大な手がヴズズの腹を抉っていた。とっさに避けたらしく、致命傷ではないだろうが出血がおびただしい。

 片腕の攻撃ではなかったのだ。右手を振り下ろすことが出来ず、少女は無表情のまま力勝負をしている。

「少しタイミングが遅かったな」

 反省だと苦笑してヴズズが言った。

「ちょっと、大丈夫?」

「あぁ、死にはしない。お前じゃ無理だから、近づくなよ?」

「うぅ……わかった」

 普通の魔法では防げない攻撃を防いでいるのだ。言われなくてもルルゥに近づくという選択肢はない。

「漸くやる気になって頂けましたか。といっても、まだまだ全開ではないようですが……。果たしてその男を庇ってどこまで出来るでしょうかねぇ」

 嬉しそうにJは言い、赤髪の少女は一旦後ろに引いた。

 ヴズズは回復魔法を使っていない。そのまま魔力を攻撃と防御に当てるつもりだ。

「さて、次の一撃はもう少し勢いをつけますよ」

 少女が大きな右手を勢い良く振り上げた。こんどはヴズズへ向けての攻撃だ。左上に向かって振り上げた遠心力を使って、クルリと、まるでダンスを踊るかのように回転し、左手で裏拳を出す。

 右手をかわして左手を受けようとしたところで、ヴズズの目の前に何かが現れた。

 灰色で、良く見れば地面から生えているそれは上半身が女性の形をしていて、その人がヴズズを庇うように立ちはだかり巨大な手を受け止めていた。

 全身が灰色の女が口を開く。

「ジェイ」

「貴女ですか。今いいところなんです。邪魔しないでいただけますか?」

「ダメよ。こいつらは主様のものだって。手にかけることは許さないって言ってた」

 どうやらJと地面から生えている女は知り合いらしい。

 静かに睨みあう二人に、この先の展開が読めず動くことができない他の面々。

「……」

「ダメよ」

 引く気のなさそうなJに念を押すように女が言う。たっぷりと二十を数えたくらいで漸くJがため息をついた。

「あの方のもの、ですか。それでは仕方ないですね」

 今日は引きましょうと言って、Jはジンにかけた拘束を解いて背を向けた。赤髪の兄妹は姿を消し、地面から半身を出していた少女も既にいない。

 拘束を解かれたジンは、ちょっと待てとJに声を掛けた。

「それで俺たちが何もしないはず、ないだろ」

「そうですよねぇ。でも、僕は貴方達を相手にしてはいけないようなので……」

 そういって、懐からナイフを出した。

「お、やるか?」

「いいえ、さよならです」

「っ!」

 Jはナイフを左手で持ち、黒いグローブの上から右手人差し指を切り落とした。

「なに!?」

 落ちた人差し指は赤い石へと変わる。

男は口元を吊り上げて笑ったまま膝をついてうつ伏せに倒れた。切り落とした指から石化が始まり、あっという間に石造となった。

ほんの一瞬の出来事。

「なに、これ。どう、いうこと?」

「石化、か」

 ヴズズが動かなくなったJを足で蹴ってみたが、硬い。

 本当に石になってしまったらしい。

 なんともあっけない終りだ。

 傍に落ちている赤い石を拾い、フェイは月明かりに透かしてみた。中で何かが揺らめいているように見え、普通の宝石や石とは違って見える。

「魔法石、だな」

「フェイ」

「……なんだ?」

 足元の黒い猫に視線を向ける。

「どうして助けなかった?」

「コク……」

「君が動けば流れは違ったはずだ。ジンが捕らわれて殺されかけるなんてことにはならなかった。どうして高みの見物をしてたんだよ!」

「コク、よせ」

「ジンは黙っててよ」

「いいや、黙らねぇ。お前が一番見当違いなこと言ってんだ」

「どうしてさ。フェイが動けばあいつが召還魔法なんて使うことすらなかったはず……」

「かいかぶりすぎだ。俺はそんなに出来る奴じゃない。俺は今回ユーリーンを守る担当だった」

「フェイにも出来ることと出来ないことがあるんだよ」

 味方をしたはずのジンにまで止められ、行き場を失った感情を持て余す。

「僕が悪者ってことか。分かったよ、先に帰る」

 そのままコクは走り去ってしまった。

 その後を追いかけようとしたユーリーンだったが、肩を押さえられて引き止められる。

「師匠……」

「帰るぞ」

 これだけ煩く魔法を使っていたのに、公園の周辺には誰一人いない。民家から覗く姿すら見えない。

 魔法使いには関わりたくないという、人間の心を表していた。石造はどうしようもないためそのまま放置することにしたが、次の日大騒ぎになることは必至だ。明日にでもニュースになるだろうから、説明しに行かなければとフェイは思った。

 ヴズズは傷を治すため、治癒魔法を発動。

 囚われていたジンだったが、特に目立った外傷はなかった。

 空を見上げれは、縦に輪を持つ青白い星が昇っていた。夜はまだまだ長い。

「あー、腹減った」

「ユーリーン、今日の夕飯はぁ?」

「えっと……全く考えてなかったりして……」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇ」

 数名の悲鳴が夜にこだまする。

「よし。ラーメンを食べて帰ろう」

「はぁ? お前、自分が食いたいだけだろっ!」

 フェイの提案に、来るときに見たラーメン屋を思い出しジンが言った。

「あたしもラーメン食べる!」

「ユーリーンずるい、あたしもぉ!」

「俺もラーメンだな」

「よし、お前は来たくなければ帰ってていいぞ」

「行くに決まってんだろ!」



 こうして、彼らの戦いが静かに幕を開けたのだった。


帰って空腹のワフラが般若の形相で怒ってて、一戦交えたとかそうじゃないとか。。。

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