表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編集

王と王妃の変貌事情

作者: うぃんてる

「きゃあああああ?!」


 今夜も後宮を廃止してその跡地に作られた国王夫妻の為に作られた王妃の部屋に悲鳴があがる。


「陛下!何故このような場所に寝そべられていらっしゃるのですか?!それから無断で私の部屋にお入りにならないでとあれほどお願い致しましたじゃないですかっ!」

「そのような些細なことなどどうでもよい。廊下は寒いであろう?早く部屋へ入るが良い…………その可愛らしい柔らかな妃の足で余を踏み躙ってな」

「そ、そのような不敬は出来ません!私が愛する陛下にそのようなこと、は……」

「よい、余が許す。さぁ、踏むのだ。さぁ。さぁさぁさぁ!」


 下着だけになって王妃の寝室入口に無防備に引き締まった筋肉の身体を惜し気もなく晒し、歩幅の小さな王妃では自分を踏まねば中に入れぬようにしている年若い王が早く自分を踏め、踏み躙ってぐりぐりとその細身の全体重をかけて踏み入れと急かしていく。

 しかし、一応常識は保っている王と同じくらいに年若い王妃は廊下の寒さに耐えつつ跨ぐ不敬は仕方ないとしてもどうすれば愛する夫を踏まずに中に入れるか考えている。


「ええい、何を躊躇っておるのだ。我が妃フィリアよ。そちの愛する余の願いが聞けぬと申すか」

「……なれば仕方あるまい、そちの大切な我が義母殿を……」

「やめて!ママには関係ない!!踏みます、力一杯踏み躙りますからぁっっっ!!」







 とある大陸の辺境にあるこの国は決して強国というわけではないながらも、国内の鉱脈から産出する希少な魔法金属を採掘し加工する技術を持ち、肥沃な穀倉地帯を抱えていたために、隣接する友好的な関係を維持している軍事大国である帝国に兵站支援を行う見返りに庇護を受けることができ、長い平和な時間を過ごしてきた。

 そんなこの平和な国にある日突然致死性の高い伝染病が流行し多くの国民とともに国王夫妻もあっけなく逝去してしまうという不幸が襲い掛かってしまった。幸いにして唯一の王太子であるルカノールは隣国に留学していたため難を逃れており悲しみに包まれた祖国に慌ただしく帰国した王太子は喪に服したのちに若き国王として即位することになったのだった。


 国王として即位し国内の混乱を苦労しながらも鎮める事ができ、隣国から受ける庇護に対する兵站支援規模が本来の状態になるまでには伝染病で少なくない人材を失った結果、事前予想よりも多くの年月が掛かってしまって王国の平和を守るために盟約を優先するあまり国内は更に疲弊するという結果を招いてしまったものの、自ら質素倹約を率先し領内を精力的に回る若き国王の姿に励まされた国民たちの忍耐と根気、努力により次第に先代の頃の賑わいを取り戻していった。

 そうなれば次の関心事は若き国王が誰を王妃として迎えるのかという事に移っていくのだが。


「余の妻となる者の条件は余と共にこの困難な時代を生き抜くにふさわしい者を望んでいる」

「余と愛し合い次世代へ繋ぐ子を為すのは当然ではあるが、余に従うだけの存在は要らぬ。共に考え時には余に言葉を発するも恐れぬような意志を持つ者が望ましい」

「身分は問わぬ。余と共に生き余の望みを叶えんと欲するならば遠慮せず我が下へ来るが良い。妃選びの期限は今月末とする」


 血筋は問わぬ、ひ弱なだけの大人しい貴族令嬢などはお断り。事実上そのような意味に取れる先代迄なら考えられないような、有力貴族からすれば国王さえ気に入れば汚らしい農民の娘であっても構わないという、正に暴挙としか思えない事態にほぼ全ての貴族や血統を重んじる神官、伝統こそが王国の誇りと信じて疑わない騎士団重鎮などが一斉に反発しなんとか正気を失ったとしか思えないこの若き国王を諫め考えを改めさせようとあの手この手と尽くしてみたものの頑として頑なに説得を拒み続ける国王と次第に迫る期限に、説得を諦めた有力者達は自分の影響力を残すための候補者探しへと移っていくのだったが国王に逆らうなどもってのほかと教え込まれてきている娘が大半であった。

 それでも幾人かのはねっかえりな言動をする一部の令嬢が送り込まれてはいくのだが、二人きりにさせられた暫く後に皆ガックリとうなだれて王城をあとにし、曰く『陛下は本気です。わたくしにはとても勤まる自信は欠片もございませぬ』とこぼすのだった。




***


 とある深夜。一人国王執務室にて好みの酒を飲むルカノールは幼い頃に別れたきりの一人の娘のことを考えていた。


「……フィリア。余の乳兄妹よ……どこに隠れておるのだ?」


 自分を育てた若き乳母の一人娘。子供同士だったとはいえ思ったことを躊躇わずにずけずけと自分に言い放ち、気に入らなければ問答無用で見付からないように鋭い蹴りを放ち自分を王族とも思わない仕打ちに逆に惚れてしまった娘。……あの見事な蹴りは健在だろうか。久しぶりに彼女の蹴りを味わいたくて仕方がない自分に思わず苦笑する。


「早く出てこい、フィリア。お前の為に揃えた条件だ。それでも余の前に現われぬと言うのであれば……手段は選ばぬ事になるであろうな」


 帰国する前に調査したところでは母子おやこ共に王国内に生存していたと言う情報だけは掴んでいた。

 乳母であったフィリアの母親は旅立った自分の母親、つまり先代王妃付きの筆頭侍女であり疫病にて母子以外の家族を失ったとは言え名門伯爵家の令嬢としての身分を持っていた。

 しかし、余の王妃選定に伴う条件を告知すると同時に起こり得る大混乱を予見して娘のフィリア共々あっという間に行方をくらましてしまったのだ。

 今では貴族階級で最後に残る候補であるフィリアに思い至った幾つかの貴族派閥どもが伯爵令嬢が危惧し予見した通りに血眼になってさがしまわっているという。


「ふん。余が尊敬し我が父を尻に敷いて居たほどの母が直々に教育をし、心から信頼していたほどの女だぞ、我が乳母にして王家の古い血を引くアデラード伯爵家最後の令嬢、パルミラは。彼女は用心深い。恐らく余の狙いにも気が付いておる。お前ら如きの些細な権力に群がるしかない程度が手を出そうなど百年早いわ」

「フィリアは余がパルミラ共々手に入れるのだ。余以外が触れることなど許さん。あれは余のものなのだ。余こそがあれの夫にふさわしい……」


 空になったグラスに再び酒を満たしクイッと傾け飲み干していく。フィリアとの懐かしい思い出に耽りながら。


「…………陛下。発見致しました。いつでも確保可能です」

「ほう。……どこにいた?」

「は。それが……アデラード伯爵領辺境部にある荒野に新設されました疫病にて没した領民のための共同墓地がありまして」

「ふむ。納骨堂の小さな隠し部屋から更に地下にでもいたか?」

「恐れ入ります」

「パルミラの事だ抜け道が恐らく近くの枯れ井戸に通じているはずだ。我が母上はしつこいくらいにパルミラに生存術を叩き込んでいたからな」

「出発されますか?」

「明日は新月か。よし、明日深夜我が妃を迎えに行くことにしよう」

「御意」


 帝国留学時代に母上から勧められた通りに育て上げ今は少数精鋭の国王直属である情報部隊の動きに満足しつつ、ルカノールは明日の再会に想いを馳せる。


「フィリア。余に唯一自由であるフィリア。少しは麗しくはなったであろうか?早くお前のそのしなやかな御足で余に長年の空白を埋めるにふさわしい、余の積年の想い、願い、望みを満たす、“それ”を与えてくれ。……ああ、思い出すだけでもあの素晴らしい感覚が甦る……あの素晴らしい日々が、また……」


 離れ離れになってから毎晩夢にみるほどに焦がれに焦がれた至福の日々が間もなく手に入る。誰にも邪魔などさせはしない。間もなくフィリアとの新生活のためにと作らせている王と王妃のための屋敷も取り壊した後宮跡地に完成する。

 余に新しき世界をもたらした愛しいフィリア。あの素晴らしい世界を余に再び示してくれ、末長く、いつまでも。余の鍛え上げた肉体を余の愛と引き替えに導いてくれ。

 あぁ、フィリア。愛しいフィリア。素晴らしき伝道者、フィリア。お前を一生涯離さない。王国への責任を果たす以外の全てはフィリア、お前に捧げることを誓おう……。




***


 こうして余はフィリアとパルミラ母子おやこを無事手中に収める事ができた。フィリアとの交渉の末、二人の為の屋敷にパルミラを住まう事を許可する羽目になったのは予想外ではあったのだが、ただ一人の血縁となってしまったパルミラをフィリアは病的なまでに執着するほど慕っており、何かあれば『ママ、ママ』とそばに居たがるようになってしまっていた。

 理由を聞けばさすがに無理もないと思わずにはいられなかった。例の疫病でパルミラも危うく命を落とし掛けたといい、一人この世に取り残される恐怖に襲われパルミラが持ち直すまでの間はその恐怖に押し潰されそうになるのを必死に堪えて生きていたそうだ。

 だからフィリアの変容ぶりには若干驚かされはしたものの同じ屋根の下に暮らしたいという望みを余は快く受け入れた。

 フィリアは単純に喜んでいたが、余にとっても現状におけるフィリアにとってのパルミラという存在を握ることが、余がフィリアに求める望みに関して一つの弱点を握るということに他ならないからだ。


 ともあれ余は望みどおりの王妃としてフィリアを手に入れた。最終的にきちんとした血筋を引く者が在るべき場所に収まり反対するものはいなかった。

 下らない権力争いに発展しかけた状況も国王である余が自ら王妃にふさわしい花嫁を見つけ連れてきた事により決着、静かになっていた。ただ、余としては困惑せざるを得ない誤算が一つだけあったのだが……。


「無理です!勘弁してくださいよぅ、大好きな陛下を足蹴にするなんて出来ません!」

「何をいう。散々子供の頃は余を蹴って蹴って蹴って蹴りまくっていたではないか」

「子供の頃は何も分からなかっただけですよ!」

「じゃあ蹴らずともよい。その代わり余をこの荒縄できつく縛るのだ」

「ええええええっ?!」

「縛り終わったら余を昔のように罵ってくれ」

「ひぃぃぃぃぃぃ?!」

「ほれ、何を固まっておるのだフィリア。遠慮は要らぬ、跡が付くくらいで構わんぞ?余とお前の仲であろ、遠慮は要らん!」

「あぅあぅあぅあぅ、もしかしてもしかすると私のせいなのですか?!陛下がこんな風になってしまわれたのは」

「何を今更。フィリアの蹴りが余を新しい世界に導いてくれたのではないか!」

「ふぇぇぇぇぇんっっ、ママーっ、ママーっ、どうしようーっ。陛下が私のせいでおかしくなっちゃったー」


 そう。余の最大の誤算は余がフィリアと離れ離れになる前にフィリアによって“マゾフィズム”という新しい世界の入口へと導かれ、離れ離れになっている間に余が肉体を虐め抜き、あらゆる与えられた痛みを全て快感に変換できる完成された肉体を手に入れた頃、フィリアはフィリアで年頃の貴族令嬢にふさわしい言動や作法などをパルミラによって敬愛する余の母上がパルミラに叩き込んだように、フィリアも叩き込まれてしまい、幼い頃のようなお転婆さがすっかり消え失せてしまっていたのだ。

 なんということなのだろう。余が変貌を遂げきった時にはフィリアも変貌をしてしまっていたなんて。

 こうなれば仕方あるまい。あまり多用したくない手段ではあるが……フィリアには余を導いた責任を取って貰うとしよう。誠に不本意な手段ではあるが、仕方あるまい。


「……フィリア。仕方がないからこれで最初は妥協してやろう。今夜から毎晩、余をその足で思い切り踏むのだ。ぐりぐりと、踵に力を込めて、な。靴は脱いで構わぬ」

「陛下ぁぁぁ、ごめんなさい、ごめんなさい、本当に、無理なんですよう……」

「そうか。ならば仕方あるまい。……フィリアの罪状をパルミラに包み隠さず今から報告に伺うとしようか?」

「……え」

「あの潔癖症なパルミラの事だ。ふふふ、フィリア?お前の愛するママはどんな反応を…………」

「あ。ああっ、あああああっ。いやっ、陛下、ママには言わないで!お願いしますっ!」


 パルミラに事の顛末を全て報告すると余が言えばフィリアは瞬時に固まり、ダラダラと脂汗のようなものを流しながら目に見えて分かるくらいにガタガタと震え始めて可哀想に思わず思えてしまうほどに怯え始める。


「しかし可愛い余だけのフィリアは余の望みに応えられな…………」

「踏みます!昔みたいにっぐりぐりと、踏み踏みしますからっ!今度は陛下へ想いを込めて気の済むまで踏みつけますからっ!!」

「だからっ、だからお願いしますからママには何も言わないでぇぇぇぇっっっ!!ママのお仕置きだけは、それだけはっっ!いやぁぁぁあああああっ?!!」


 防音隔壁が壁に仕込まれている王妃の部屋いっぱいに追い詰められた哀れなフィリアの絶叫が耳に痛いくらいに響き渡り、もはや涙目状態のフィリアが愛する夫の歪んだ望みを叶えるために上半身裸になって絨毯の上に仰向けに横たわる余のそばで室内履きをぽろぽろ泣きながら脱ぎ捨てる。


「……ルー、ルーっ、ごめんなさい、私の無邪気のせいで……愛する貴方を、こんなっ、こんなことにっっっ!!」

「良いのだ。余はお前だけに、フィリアだけに踏まれたいのだ。愛するフィリア、お前は誰にも渡しはしない。さぁっ、余を思い切り踏み躙って踏み抜いて余の空白を心を満たしてくれぇっっっフィリアっっっ!!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ、ルーッ、ルーゥゥゥッッッッ!!!!」


 幼い頃から好きで好きでたまらなくって、けれども想いを告げるのが恥ずかしくて、想いの裏返しに大切なルーに与えてしまった乱暴なスキンシップ。それでもルーは私を拒絶したりもせずに笑顔を絶やさず私を受け入れてくれていた本当に大切で愛しいルー。

 ルーが先代国王の王命により隣国の帝国へ留学する事になって離れ離れになった時私はいつかルーに想いを告げる為にママに頼んで未来の王になるルーにふさわしいレディにならなければと必死にママの容赦のない教えと身の毛もよだつような思い出すのも記憶が拒否するお仕置きに耐え、ただ、ただ。ルー、貴方への想いだけを胸に秘めて生きてきたのに。

 私の、私の浅はかな照れ隠しによって私の大好きな愛しい、大切で、自慢の貴方を歪めてしまっただなんて。本当にごめんなさい。悔やんでも悔やみきれないよ。だから、だから私……貴方を何が起きても離さない。離れない。

 愛しい、ルー。大好きな、ルー。大切な、ルー。私の、ルー。あぁ、ルー。愛、してる、よ……ルー……。


 愛するルーの為にとその華奢な身体に込められるだけの想いと悔恨を込めて次第に半狂乱の様相を呈しながらフィリアは次第に激しく愛する夫、ルーを踏み躙り続けて行く。そして世界でただ一人愛する妻、フィリアに望み通りに踏み抜かれ踏み躙られて満たされていく気持ちに自然とフィリアへ優しい微笑みを返して行く。自分の過ちで歪んだルーから返される愛情にフィリアはただ、ただ、言葉にならない叫びを上げ、過ちを犯した私をいつでも受け入れようとしてくれるルーのために涙を撒き散らしただひたすらに望むがままの行為を体力尽きてその胸の上に崩れ落ちるまでやめようとはしなかった。


「……フィリア。やはり余にはお前が必要なのだ。だから、フィリア。死ぬまで……いや、死んでもお前を離しはしない。あぁ、フィリア。私の渇きを苦しみを癒してくれるフィリア」

「……愛している。心から愛している。余の傍から逃げられるとは思うなよ……余だけのフィリア…………」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ