Ⅶ
件の一部始終をしっかりと見ていたというラウ爺の話を要約すると、影に取り憑かれた男性はノアが痛め付けて、教会に連行。ノアは街中でなかなか大規模な魔法を披露したことに加えそれまではフードで隠していた王族特有の金髪金眼を晒したことから王女であると発覚し、注目の的となるも、騒ぎになる前に警備隊が突入し、沈静化を図る。その間にラウ爺と共にヴァンとミナトをここまで運んできた。ということだ。
因みに、この場所は中央広場の近くにある警備隊の駐屯地である。窓の外を見ると、空の色は赤く染められたままであることから騒ぎからはそれほど時間は経っていないことが伺える。
なんというか。
色々と言いたいことはあるが、取り敢えず。
「ノアに会わないと」
話さなきゃ。意識を失う直前に見えたノアの表情が頭から離れない。
「……儂にお礼は?」
「………………アリガトウゴザイマス」
感謝の気持ちが無いわけでは無いのだが、騒ぎのなか見ているだけだった事に対する恨みが先立ってしまい、感情の籠らない棒読みの言葉となってしまった。
あとは、ヴァン自身も見たことないノアの魔法に対して目を輝かせて話している様が気にくわなかった。良い歳した爺のくせに。………ガキだという自覚はあるけど仕方ない。自分に嘘はつけない。
ラウ爺からは半眼をむけられるが、視線を反らし「それより」と無理矢理に話題も反らす。
「ミナトさん。大丈夫なのか?」
「ああ。先程までは極度の緊張にあったが、今は落ち着いておるし、一応産婆も呼んだてもう着く頃だろう」
……サンバ?
聞き慣れない単語に首を傾げると、同じようにラウ爺も首を傾げ驚きを口にした。
「なんだぁ?気づいてなかったのか?彼女のお腹の中にはもうひとつ命が宿っておる」
「……え」
え?
今しがた聞かされた言葉が何処か遠く感じた。
頭の中の色々がぶっ飛んで真っ白になって、理解が追い付かないというのはこういうことかと、ぼんやりした頭で考える。
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『私ね、赤ちゃんが出来ない体質みたいなの』
『こんなに大きなお家に、私とあの人の二人きりだと寂しいでしょう?』
『ヴァン君が来てくれて、嬉しいわ』
頭を巡るのは、出逢ったときのあの人の言葉。