解答編
皆さん、ふたつとも答えが分かりましたか?
まず、主人公が考えていた正統派な答えから解説します。
普通に自分が赤か緑かをストレートに考えても埒があきません。こういう時は背理法を使いましょう。
背理法とは、ある命題について否定の仮説を立て、それが矛盾することを証明することによってその命題が間接的に証明されるというポピュラーな証明法です。分かりやすく言うとただの消去法ですね。
例えば、AかBかの二択問題でこれを当てはめると、「答えはAであると仮説を立てる。→調べてみるとAは矛盾する→答えはB」みたいなことです。
今回の問題の場合、選択肢は緑か赤なので、順番に考えていきましょう。絵に描いてみたら分かりやすいと思います。
Ⅰ、自分が緑だと仮定する。
つまり全員が緑。
→全員が手を上げても問題ない。
→隣の人Aから見ても全員が緑で問題ない。
→B、Cから見ても同じ。
→……行き詰る。
ここではあえて深く考えず、次に行きましょう。
Ⅱ、自分が赤だと仮定する。
つまり、他三人は緑。
→自分から見て三人が緑で、他の三人から見て二人が緑なので手を上げても問題ない。
→隣のAから見ると、もちろん二人が緑。
→もうひとつ隣のBから見ても二人が緑。
何か気付いたことはありませんか?
では、ここでB目線に立ってみましょう。
視界には緑が二人。全員が手を上げている。
Aも手を上げている。
ん? 「自分」が赤だから、Aと「自分」以外の二人は緑ということか。
じゃあ、俺(B)は緑だ。
という風になります。これ(B目線の推理)はごく簡単な推理なのですぐに分かります。
この話の主人公は「すぐに「緑!」と言うわけにはいかないな。しっかり時間をかけてから答えなければならない」と(地の文で)言っています。つまり、この問題は多少時間が掛かるということです。でも、誰かひとりが赤ならすぐに分かるはず。
すなわち、矛盾します。
つまり、自分が赤だと仮定は否定され、自分が緑だと分かる。ということです。それ故にこの問題には多少の時間が必要なんです。
分かりましたか?
では、「俺の正面の男」は何故すぐに自分が緑だと分かったのか。主人公が赤だったのならさっきの推理ですぐに分かりますが、そんな簡単な問題が出るはずがない。
そろそろ、薄々にでも分かりましたか?
そうです。そんな簡単な問題なんて出るはずがないんですよ。もし誰かひとりが赤なのなら、そのひとりに勝ち目はないんです。何度も言いますが、そんな問題が出るはずはありません。
つまり、全員緑。
でも、これはこの問題自体を最初から知っているという仮定のもとに成り立っている推理です。知らなければ意味がない。そんな問題も出すはずがないんですよね。
試験官が「自分の色が分かったら答えてください。その後理由を聞きます。その理由も正しいなら正解です。何かで見たことがあるとかやったことがある、と言う回答はなしです。ちゃんとした理由を答えてください」と言ってますから、そのような答え方ではアウトです。
ということで、正解した「俺の正面の男」はそんな答え方はしていません。
この問題を知らない人にでも分からなければならないんです。それも、アイマスクを取って全員が手を上げたその瞬間に。
答えはこうです。『このテストは全員に平等でなくてはならない。つまり、緑3赤1なんて明らかに不平等が起こるはずがない』
どうでしたか? あまり人にものを説明するのが得意じゃないので、うまく伝わっているかがすごく不安です。少なくとも「背理法」なんて面倒な名前を出す必要はなかったかなと思います。まあ、あえてそのまま載せておきますね。高校を卒業して数学と関わりを持たなくなった人には「そういえばそんなのあったな」と、まだそれに出会っていない人には「へえ、そんなのもあるんだ」と思ってもらえればと思います。