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孤高の道  作者: 一葉鳴乃
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人の流れに沿って歩いた結果入学式の会場である大きなホールへとやってきた灯弥はあまりの人の多さに感激していた。しかし、密度のせいか暖かくなった空間のせいで睡魔にも襲われていた。


(なんだこれねっみぃ…)


立ちながらも頭が右に左に揺れている奴がいると周りの人間はひそひそと小声で馬鹿にしていた。それは、灯弥を勉強のしすぎで眠気に負けている奴と認識したからであった。


「おいお前、もうすぐ始まるからあんまりふざけてるとしばかれっぞ」

「ん…?誰だお前。俺はな、今究極でスペシャルに眠いんだよ…」

(なんだそれ…)


隣に立っていたつり目の生徒が揺れる頭がチラチラと視界に入ってくるので正直邪魔であったし、同時に心配でもあったため声を掛けた。

そのつり目の生徒も周りと同じくどうせ寝不足だろうと思って彼に声を掛けたのだが、どうもそんな肝の小さい男ではないらしい。しかしお節介な彼はまだ眠そうにする彼を起こすのを諦めなかった。


「ほら、学園長と理事長が入ってきたぞ」

「んあ?おっさん来たのか…しゃあねぇな」

「おっさんて…ま、とりあえず俺芝戸恵助ってーの、よろしく」

「おーう」


両手で一生懸命目を擦る所からしてまだ彼は眠気と戦っているのだろうが、理事長をおっさんと呼んだところからすると血縁者か、はたまたただの命知らずか、と考えたがすぐに後者だと判断し直した。


(人が自己紹介してんのにおーうで済ませる奴がお坊ちゃんな訳ないわな…)


そんな事があったうちに、理事長が立ち上がり壇上へと向かって歩き始めたことでざわざわとしていたホールが静まり返った。これがたった数十分で自分の将来が決まるとも言われている大湊学園の入学式が開始される合図となった。





約三百ほどの人が壇上で凛々しくハンターという職業について語る理事長を尊敬の眼差しで見ている中、その理事長の秘書である柏木は舞台の袖で先ほど語られた事実についてもやもやとしていた。それはもう辺りの物というものを破壊したくなる程暴力的なもどかしさである。自分が少しそういった面があるのは理解していたのでこれ以上深く考えて何かが犠牲になる前に思考を辞めた。

ただ、これが世間に知れ渡れば今までの自分たちの正義というか善悪の区別というか、そういった物が崩れるだろうということは分かった。それに、理事長がこうまでして彼をこの学園に入れたのかも少しは理解できる。

数分前のあの少し気の抜けた男の子を思い出していると拍手が聞こえてきたので理事長の挨拶が終わったのだと思い、この後に始まるこの式のメインとも言える審査の準備に掛かった。




「続いて、クラス分け試験に移ります」


進行役の教員がそう言うとホール全体の空気ががらりと変わった。やる気と呼ぶには激しく殺気と呼ぶにはぬるいその雰囲気をさすがに察した灯弥は先ほど話しかけてきた芝戸に問いかける。


「なぁ、どーしたんだこの感じ。頭おかしくなったのか?」

「クラス分けが始まんだって、ちゃんと話聞いとけよ」

「ほーう、なんだそのなんとか分けってのは」

「お前まじでなんも知らないのな…とりあえずなんか具現化しときゃ問題ないぜ、多分」

「なんだと…具現化だって…?」

(あーこいつ、それもできねぇのかよ…)


終わったな、芝戸はそう思うしかなかった。

大湊学園は筆記よりも魔術や体術の実力の方が比重の大きい学校であるため、クラス編成もそれをメインに据えて考えるのだがその方法は、具現化と呼ばれる魔術の基本中の基本であり全てとも言える技術を入学式に、しかも全員の前で披露するというものである。

その意図とは全員のいる前で行うことで自分より上の人物がいることでやる気の向上に繋げ、さらにランダムに数人ずつ行うことで時間の短縮にもなるし忙しい理事長と学園長も直接見ることができるというよく考えられたものだった。


そもそもクラス分けのことを知らないということがありえないことに芝戸は気づいていないのだが、それは彼も自分のことで精一杯な証であった。


教員と見られる人が名前を呼び、呼ばれた人は自分のできる限りの物を作り出す。これが二組ずつ行われているが自分の番を待ち続けている芝戸はさっきから横で唸っているヤツのせいで気が散るばかりであった。注意したいが今声を出せば集中力が切れるし周りの目も痛い。ここは我慢するしかこの場を切り抜ける方法はないとそう決心した時だった。


「田中灯弥」


その名前が響いた時、スムーズに行われていた試験が止まった。何事かと生徒がざわめいたが進行していた教員がもう一度名前を呼んだが返事もなにもない。欠席かと次の生徒の名前を呼ぼうとした時、一人の生徒があっ!と大きな声を出した。

そして、俺じゃん田中…そうぼそりと言いながら立った隣の奴を芝戸は口をあんぐりとさせながら見上げた。


「具現化できないっすー」

「き、君…自分が何を言っているのか分かっているのか?」

「やだなぁ、そこまで馬鹿じゃないって!」


この場にいる全員がそういうことじゃないと心の中でツッコミを入れる中、ケラケラと灯弥は笑っていた。


「…では、具現化以外のなにかをしてください」

「あー、俺魔力ないから無理」

「は!?」

「ケンカなら得意!」

「なら俺とケンカしてもらおうか」


そう言い放った男はぬらりと立ち上がって灯弥をまっすぐ見た。その表情から彼が何を言いたいのかが物語っていた。

彼はこの学園の教員で新入生の一クラスを任されることになっている田端十郎という男だった。


「お、いいの?先生には気をつけるように言われてんだけど」

「さっきからその舐めた口調、ふざけてるなら辞めた方がいい」

「た、田端先生落ち着いてください」

「うるせぇ。こんな奴この学園にいていいわけないだろうが」


事態の発端である本人がケンカという三文字に嬉しそうにしている中教員たちは怒りを露わにする田端を鎮めるのに手いっぱいであった。生徒もなんだなんだと騒ぎ始めて事が大きくなりつつあったが、理事長の一声が響く。


「全員その場に立てぇ!」


あまりに突然で、大きな声であったため反射的にというのか全員言われた通りその場に起立した。


「田端ぁ、魔力のない奴がここに入れないなんて誰が決めたんだ!



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