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Prologue





視界一杯に広がる一面の銀世界。

吹雪吹き荒ぶ極寒の大地は生物にとって凡そ最大の脅威ではなかろうか。


時刻は午後十一時。

本来は闇夜に包まれる時間ではあるが、空は未だ明るい──所謂“白夜”と呼ばれる現象だ。


子供の頃、夜が来なければいいなどと思ったことは無いだろうか?

そうすれば友達と遊んでいられる、という子供の考えだ。実際には睡眠など諸々の理由を含めて無理な話だが、今の“俺”の内心はその子供心に一番近い。



──しかし、“少々”血生臭くはあるのだが。



吹雪は強さを増す。

荒れ狂う氷獄の風は俺と、この場にいる大勢の人間の体温を奪い続けている。


この場にいる人間に統率間は欠片も無い。各々が各々の防寒服や装備に身を固め、年齢もバラバラだ。


だが、“ある一点”に焦点を合わせ、“ある一点”を取り囲むように散開していることだけは共通していた。



その“一点”……一人の()を囲むように。



女はこの氷獄の中では異端だった。

まず、防寒服を着ていない。

ここは雪原の奥深くだ。そんな格好で来ようと思うわけは無いし、思っても一時間しない内に最悪凍死してしまう。

にも関わらず、女性は肩がむき出しの純白のワンピースしか着ていないのだ。これが異常と言わずしてなんと言う。


純白の世界で全く違和感の無い真っ白な肌と髪が吹雪に晒されている。それだけ見れば幻想的ではあるが、このようなことができる“人間”がいるだろうか。


──いや、そんな筈が無い。


一人(かぶり)を振る。






──だから(・・・)俺たちはここにきた。






女が右手をゆっくりと頭上に翳す。

たったそれだけの動作の筈なのに、吹雪が更に激しくなったような気がした。着ている漆黒のロングコートが暴れ、頭を覆うフードは風に押しのけられそうな程。


「──ああ、やっとだ」


呟きは吹雪の中に虚しく溶けていく。


それを寂しいとは思わない。

思う気持ちは湧かない。


ただ、怒りと憎悪と歓喜と悲しみが綯い交ぜになった黒い感情が狂ったように暴れているだけだ。


「……ディーモーション」


呟くと同時に背中に背負っていた()を引き抜いた。

瞬間、紅蓮の炎が俺の周りに荒れ狂う。


業火はまるで心を写したかのように燃え盛る。怒りと憎悪と歓喜と悲しみを糧にして。


それが合図だったかのように、全員が持ち合わせていた得物(・・)を抜き始める。

この場で起きたのと同じような非現実が背後でも起きるが、そんなことは気にも留めなかった。否、留めるだけの余裕が無かった。



──少しでも気を抜けば、今すぐにでも目の前にいる女の首を狩るために突っ走りそうだった。



女は動じない。まるで感情が無いかのように。

そんな女の様相に、殺意はさらに膨れ上がる。


「やっとだ……やっと……」


紅蓮の業火は激しく燃える。

吹雪が触れた瞬間、蒸発しては消えていくほどの温度がとぐろを巻いて刀に宿った。


女は動かない。

俺も動かない。

誰も動かない。


──そんな膠着状態も、長くは続かなかった。


女が手を振り下ろした。

その瞬間、何百本もの巨大な氷柱が飛来した。


当然、俺の方にも落ちてくる。



「はぁぁああ!!」


──斬。


確かな手応えと共に、氷柱は真っ二つに引き裂かれた。それが開幕の合図だ。

足下に突き刺さった二つに別れた氷柱を一瞥もせず駆け出す。


降り注ぐ氷柱の雨を掻い潜り、時には刀で切り裂いて女の元へと突き進む。


「──〝紅き業火に身を焦がし、憎悪の焔の糧となれ〟」


流れるように言葉を紡ぎながら駆ける。


斬る。駆ける。飛ぶ。また斬る。


死角から飛んで来た氷柱は業火に焼かれて溶け落ち、正面からの物は真っ二つ。それでさえ脚を緩める必要さえ感じない。


「──〝炎獄の彼方で灰となり、消えろ〟」


背後から轟音と怒号が聞こえるが、振り向くことさえしない。


手に持つ刀に炎が渦巻く。赤い、灼熱の炎が獲物を喰らわんと唸り声をあげる。



もう俺は、自分の感情を抑え切れそうに無い。




「──〝炎熱の焰(カルマ)〟」


瞬間、炎の勢いが増した。

それはまるで火山の噴火を想起させるように刀を取り巻き、銀世界を塗り替えようと燃え盛る。

飛来する氷柱は、取り囲む炎に触れただけで一瞬にして昇華した。



女の姿が目前に迫った。再び宙へ飛ぶ。足下の大地が割れる音が足を伝い、破砕音が鼓膜を打つ。



「はああああああああ!!」



上段からの斬撃が、業炎と共に女を切り裂かんと振り下ろされた。







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