自分の顔に誇りを持て
それから翌年の5月。とうとうシャンティに第2子が誕生した。女の子が生まれたらミーナと名付けると言っていたのだが、誕生したのは男の子だったので、北都にちなんだ名がつけられた。
北都の名が北の都という字だと知ったシャンティは、かつて北の砂漠の王国の主要な都市であったジャイサルメル、その都市の名前の由来となった砂漠の王から名前を取って、「ジャイサル」と名付けた。
「クシャトリヤの名前を貰うなんてちょっと厚かましいかと思ったんだけどさ」
「そんなことないよ! 人類皆猿! この際カーストなんて無視無視!」
「あはは、ミナ様、それ町で言わない方がいいよ」
「・・・そうね」
インドはヒンドゥー教に則って社会制度が敷かれているほどの国である。当然その制度自体はかなり昔に撤廃されているのだが、その風習は根強く、その歴史は5千年にものぼり、これまで幾度となく撤廃されてきたものの、その都度復活している。ちなみにクシャトリヤとはの王族や貴族を意味するヴァルナである。
ヴァルナとはヒンドゥーにおける階級のことである。簡単に説明すると以下の様に4つに分類され、上から順に高位となる。
・バラモン――司祭と訳される。所謂聖職者の中でも高僧
・クシャトリヤ――王族、貴族
・ヴァイシャ――平民
・シュードラ――奴隷
これらの階級が無為な差別を生むとして強く反発し、新たに宗教を起こしたのが仏教の開祖で、かつてインドのシャカ国国王であったゴータマ・シッダールタ――ブッダである。一時はカースト制度に対する反発から勢力を強めた仏教であったが、あまりにも根強く歴史の長いヒンドゥー教の前に、インド国内では仏教は弱体化した。
その制度が社会制度から撤廃されてなお、その考えは根強く残る。当然、この制度に当てはまらない者たちもいる。それが不可触の民である。このヴァルナ、カースト制度は階級間の移動はほぼ不可能、認められていない。よって、世襲制であり、結婚も同階級内でしなければならない。階級によって職業も決まっており、5千年の歴史を持つこの制度を変える事など、今更不可能と言ってよい。
しかし、当然反発する者もいる。特に下階級の者や不可触の民は教育を受ける事すらも認められていないため、本人がいかに努力をしようとも、そもそも努力する機会も与えられず、どうしようもないのだ。現在インド政府は初等教育に力を注いでいるが、一部の地域以外での識字率の低さは他の類を見ない。
特に世界で最も広大で、最も人口が多く、最も貧しいと言われるインドのムンバイのスラムにおいては、教育どころか生存がやっとの状況なのである。才能や努力などは反映されない社会。人は権力を持てば持つほど、その権力を有効には運用できないものだ。また、生存と誇りを天秤にかけて、誇りを保てる者はそうそういないものなのである。
高等教育を施され価値ある者になれたとしても、権力に溺れれば愚者、上では無能な人間が空えばり。虐げられ誇りを失った者は、生存の為に他者を貶め、下では有能な者ですら汚濁に染まる。社会の底辺では、生まれながらに地獄を生きることを強いられる人民がひしめいている。
その現状を鑑みると、シャンティ達がいかに幸運だったかお分かり頂けるだろうが、シャンティ達もミナ達と出会わなければ、辛うじて読みは出来ても書く事は出来ず、計算もできず、野良犬のごとく生きなければならなかったのだ。
こう言った現状に反発する者たちは、階級に囚われない新しい事業、例えばIT企業などに好んで就職したがる。当然、シャンティも階級に囚われずに、人々に生きる場所を与える為に事業を起こしたのだ。
最初の頃はスラムを巡って労働希望者を集めた。ボニーとクライドとミラーカに教えてもらった勉強や、所作を教育することから始め、その間の生活を保護し、あらゆる企業を回って契約を取り、不可触賤民救済運動に参加し、役所に幾度も足を運んで役人に金を握らせ、やっとのことで戸籍を取得したのだ。
戸籍がないと訴えて、それは大変だ、と腰を上げるような国ではない。不可触の民は把握しているだけでも1億人以上に上る。無戸籍の人間はそれの数倍とも言われている。インドは階級、貧富、待遇、あらゆる格差の激しい国で、その底辺は貧困の窮地なのだ。
かといってこの制度自体がヒンドゥー教では最重要とされる為に、無視はできない。ヒンドゥー教の根本的世界観である輪廻転生。現在の人生の結果によって、次の生で高いカーストに上がることができる。現在のカーストは過去の生の結果であるから、受け入れて人生のテーマを生きるべきだとされる。これがヒンドゥーの基本概念である。
シャンティ自身も不可触の民であるためにカースト制度には反感があるものの、どうしてもこの世界観を否定する気にはなれない。来世の為に現世で苦行を、とまでは思わないものの、自分の行いが5年後か、10年後か、あるいは来世か、その内自分の身に帰ってくることは間違いないと信じている。だからこそ名付けた、「ジャイサル」と。
「北都様は最後まで戦った。ミナ様と一緒に、ミナ様を励まして。勇敢で不屈の魂を持った戦士だった。ジャイサル王の国は侵攻してきたイスラムに徹底的に抵抗して、小国でありながら国を守り続けた勇猛な戦士の国だった。きっと北都様は、ジャイサル王のような魂を持ってたんだね。この子も、そう言う子になってほしいな」
シャンティはミナ達と出会って、尊厳を取り戻せたと言った。どこまでもひたむきで、前向きで、希望を忘れないシャンティの笑顔には、ミナはいつも励まされる。いつも笑顔で笑い飛ばして、時には共に泣いてくれる心優しい友人が大好きだ。勿論シャンティもミナが大好きだ。シャンティにはかつて家族があった。カーストの最下層ではあったが、母と妹が在った。妹とはよく学校を覗きにいって、授業を盗み見ていたものだ。
しかし、家族をテロで失い天涯孤独となった。当時まだ子供だったシャンティに行くべき道は、スラムの掃き溜めしか存在しなかった。そこでレヴィ達と出会い行動を共にし、生きるために強盗を働き、シャンティが仲間思いで情に篤かったこと、女だからと言うこともあってリーダーをしていた。そんなときにミナ達と出会い、運命は大きく変わった。
シャンティは思う。あの時出会わなければ自分は今頃何をしているんだろう、と。きっと、幸せなんて言葉を使うことは一生なかった。シャンティは今心から思う。幸せだ、と。
幸せそうな笑顔を浮かべてジャイサルを見つめるシャンティに、ミナも嬉しそうに言った。
「シャンティとレヴィの子だもん。クリシュナもこの子もきっと立派な子になるよ。ねークリシュナ?」
「ねーミナ様!」
3歳になり、よく喋るようになったクリシュナもにっこり笑った。クリシュナは小さな手でジャイサルの頭を優しく撫でる。
「うふふ、うれしいな。ぼくお兄ちゃんだ。ジャイサル、お兄ちゃんだよ」
クリシュナが笑いかけるとジャイサルもキャッキャと笑って、可愛い兄弟の姿を見て、ミナはとても幸せな気分になった。
一方、シュヴァリエ達の中には、一部ガッカリする者もいた。
「また男が増えた・・・」
「ボニーさんもミナもシャンティも人のモンだし、足りねぇよ」
「華、華が足りねぇ」
「華が物足りねぇ」
「物足りないってどういう意味よ」
アルカードが帰ってくる頃にはクリシュナも20歳、ジャイサルでさえ16歳だ。いよいよ男臭さの増えた屋敷に落胆せずにはいられないようだ。
「どうかミナとボニーさんの子は女の子でありますように!」
「美少女に会いたい!」
なぜか必死になって祈りを捧げるシュヴァリエ達に、物足りないと言われた華達は揃って溜め息を吐いた。
結局妊婦連合からは当然のごとくシャンティが10か月で脱退したため、やはり吸血鬼の二人が残される。ボニーとミナは付き合いも古いし、お互いに妊婦になったこともあっていよいよ親密になったが、不思議とミナ達以上にクライドとアンジェロが妙に仲良くなった。いつも二人で何やらワイワイやっている。その様子を遠巻きに眺めつつ、ボニーに尋ねた。
「あの2人は何をあんなに意気投合したんですか?」
ボニーは笑って答えた。
「そんなの“気の毒旦那同盟”に決まってんじゃん」
「なんですか、それ・・・」
気の毒とはどういう意味だろうか。2人とも嫁で苦労してるとでも言いたいんだろうか。
少し釈然としないまま考えていると、質問の答えが帰ってきた。
「そりゃあれだよ。禁欲の」
「・・・ああ」
「2人でこの5年間を乗りきるための情報交換してんだってー」
「へぇ・・・」
そんなことで意気投合してしまったのか、と呆れてしまった。そしてそれをボニーに包み隠さず話してしまっているクライドに、呆れを通り越して敬意すら覚えた。
引いていると、ボニーがニヤニヤしながら覗き込んできた。
「でも、ミナ達はもうすぐ解禁じゃん? 嬉しいでしょ」
「いや、別に・・・」
嫌ではないが嬉しいと言うほどでもない。曖昧な返事をした為かボニーは少しつまらなそうにしたが、すぐに被せてきた。
「でも、アンジェロは嬉しいと思うよ?」
「・・・でしょうね」
「Good ruck!」
「頑張れって言われても・・・ねぇ?」
いよいよ複雑な心境になってきてシャンティに同意を求めると、シャンティは気の毒そうに笑った。
「ミナ様、頑張れ」
「ミナ様、がんばれー!」
「・・・・・」
シャンティどころかクリシュナにまで応援されてしまって、かえって嫌になってきたミナだった。
そして待ちに待った解禁の日。
「解禁だからと言って無茶はしないでください。優しく、1日一回ですよ」
ジュノに念を押されての二人きりの寝室。何故か緊張するミナ。ベッドの中で抱き締めてきたアンジェロに異様にドキドキしてきた。が、待てど暮らせどなにもしてこない。どうしたのか、と思わず顔を上げると、アンジェロもそれに気付いた。
「なに、してほしいわけ?」
「ちが! 違うけど!」
そう言うことではないが、「どうしたエロ神父?」と言うことである。可笑しそうに笑ったアンジェロはまたミナを抱き締めた。
「や、なんかここまで頑張ったら、いっそ自分の限界に挑んでみたくなった」
リュイの言っていた通り、つくづくひねくれた男だ。禁止された時は頭がイカレたのでは、と疑う程の悶えっぷりを発揮していたのに、GOサインが出たら「結構です」ときた。
―――――変な人・・・私、多分一生この人の思考は読めないな。
とりあえずアンジェロがよくわからない男だと言うのは今に始まったことではないので、放っておくことにした。
アンジェロが現状維持に甘んじたのは、当然そのひねくれ根性も理由の一つであるが、さすがに3年経ってミナもお腹が大きくなってきた。アンジェロとしては自分が何かした為にお腹の子に異常をきたしたら、と考えると気が気ではないのだ。
どう考えてもさっきのひねくれたチャレンジ精神を述べるよりも、そっちを言った方が良かったと思うのだが、折に触れて言葉のチョイスを間違えるのが、アンジェロと言う男である。
ひねくれている上にすぐに極端な発想をしてしまうアンジェロは、当然極端に心配性だ。ミナのお腹が出てき始めた頃から、自分が同じベッドで就寝することすら躊躇う程だ。
―――――寝てる間にミナの腹を蹴ったりしたら・・・うわぁぁぁ!
と言うわけである。
そもそも二人とも寝相はいい方なのだが、アンジェロは心配性が炸裂するあまり、二日に一回のペースで棺に寝るように諭しているほどだ。それでミナも渋々棺で寝ることが増えてきたのだが、本来吸血鬼はベッドではなく棺で寝るものだ。棺で寝ると翌日はそれまでにないほどスッキリして、驚きの安眠効果を得られる。その事をミナは久しぶりに思い出して、お腹の子の事もあるし、アンジェロの言う通り棺で寝る事にしようかと考え直しているところである。この日は別だが。
翌日、ボニーがしつこく尋ねて来るので、今までどおり何もなかったこととその理由を言うと、大笑いされた上に慰められてしまった。
「ミナ残念だったね」
「別に残念じゃないですけど」
「とか言ってアンタ、期待に胸膨らませてたんじゃないのー?」
「別に期待してませんでしたけど・・・」
「ま、でもね、確かに人によっては賛否が分かれるところだからね、妊婦プレイは」
「や、別にそんな理由じゃ・・・」
「あと2年我慢しな!」
「・・・・・」
ボニーの中ではミナの方がフラれたという構図が確立してしまっているようだ。微妙に全否定も出来ないが。
更に困ったことに、ボニーはそれをクライドにチクってしまったようで、それを聞いたクライドはガシッとアンジェロの手を取った。
「お前、いい奴だな!」
「ハイ?」
「一緒に頑張ろうな!」
クライドは自分と共闘してくれるんだと思ったらしい。勿論アンジェロはそんな事など微塵も考えていなかったので面食らったようだったが、適当に話を合わせていた。お陰様で“気の毒旦那同盟”はより絆が深まったようだ。
激しく複雑な心境ではあったが、結果的に仲良くするならいいか、といつものごとく諦めた。溜息を吐いていると、クライドが思いついたように手を叩いた。
「そういやよ、ジャイサルって誰の生まれ変わり?」
その質問にミナとアンジェロは同時に溜息だ。
「それが、あの3人の誰も違うらしいんですよ!」
「妊娠したのはボニーさんの方が先だったらしいんですけど、その前に既に二人は転生されてたらしくて、ボニーさんが最後だったって」
「えぇ!? そうなの!?」
そうなのだ。当然ジャイサルが生まれた時にアンジェロとミナはジュノに尋ねた。誰の生まれ変わりなのか、と。するとジュノは言った。
「あの子は私が妊娠させたわけではありませんし、誰の生まれ変わりかは存じ上げません」
とのことだった。要するにボニーとミナのお腹の子は誰かの生まれ変わりだが、もう一人既に誰かが妊娠または出産しているという事になる。その事についてはジュノは秘密だと言って教えてくれなかったが、ミナの幸せに関連することなので、ミナと出会う人物ではあるらしい。
「うーん? じゃぁさ、シャンティファミリーの誰かの子供かな?」
「でもこの間にかなり生まれてますからねぇ、どの子かわかりませんよ」
「意外にリュイが妊娠してたりして」
ニヒッと笑ってそう言ったクライドに、まさか! とミナ達は手を振る。
「そーれはないですよ! いくらレミだって、そこまでは・・・・ねぇ?」
「ボニーさんが最後って事はその前って事だろ? リュイは4月から入学だったし、それはいくらアイツでも・・・いや、どうだろう」
「えぇー・・・」
そう、リュイは努力の甲斐あって4月から大学生。インドは大学によっては入学月が違うところもあるが、大概日本と同じで4月スタートだ。そんな、これから夢を叶えます、なリュイが妊娠していたら気の毒にも程がある。が、よく考えると、ボニーより前に妊娠していたとしたら、リュイは人間なのだからとっくに出産しているはずなので、それはあり得ない。
「自分たちが吸血鬼なもんだから、うっかり忘れてたよ」
「危うくクライドさんに騙されるところだったな」
「ミナはともかく、アンジェロを騙せると、なんか嬉しいな」
「私はともかくって、どういうことですか?」
「お前すぐ騙されんじゃん、バカだから」
「バカじゃないですよ!」
「いや、お前はバカ」
「ミナ、バーカ」
「もー! 3人で寄ってたかって! もー!」
「アハハハハ」
結局なんだかんだうやむやになってしまって、もう一人が誰の元に生まれ変わっているのかはわからなかった。が、いつかは会えるのだと思うと、嬉しくなった。
お腹を撫でてアンジェロに聞いてみた。
「お腹の子はどっちかな? アンジェロは男と女、どっちがいい?」
「どっちでもいいけど、俺に似てないとヤダ」
「浮気でも疑ってんの?」
「そーじゃなくて、俺に似たら男でも女でも間違いなく美形。お前に似たら可哀想だろ」
「ヒドッ! もー! なんでアンジェロはいっつもそう言う事言うの!」
「事実だから」
相変わらずヒドイ言いようである。ミナだって別に不細工なわけではない。どちらかと言うと上中下の内、ギリで上に入る。ちなみに本人もそう思っている。なので余計に腹が立つ。
「もう! アンジェロの目には私はどう見えてんの!?」
「なに? 聞きたい? 聞きたい?」
「・・・やっぱ聞きたくない!」
どうせ30点だ。アンジェロは美人なら誰でもいいと思ってたので、目だけは無駄に肥えてしまっている。お陰様でミナの評価が低い。
膨れっ面で腕を組んでブイっとそっぽを向くと、アンジェロが捕まえて耳元で囁いた。
「俺の目には、お前は世界一可愛い」
その言葉に驚いてアンジェロを見上げた。
「ウソばっかり」
「ウソじゃねーよ。好きなんだから、当たり前だろ」
そう言いながらアンジェロはミナの髪を取って、その髪にキスを落とした。それがとても嬉し恥かしだったミナは、照れたようにはにかんで見せた。すると、途端にアンジェロはニヤリと笑って髪をポイと放り投げる。
「ハハハ、バーカ。何本気にしてんだ。お前マジでバカな」
そのニヤリと言い分にからかわれたんだと気付いたミナは、顔を真っ赤にして怒り出した。
「むきー! ムカつくー!」
「ハハハハ、バーカ。お前マジ面白れぇ」
「面白くない! もう、バカ! バカ!」
「バカはお前ー。単細胞、バーカ」
「むきー!」
怒りながらポカポカと殴りかかるミナを、アンジェロは大笑いしながら防御している。うるさくケンカする夫婦を見て、ボニーとクライドとシャンティは呆れたように息を吐く。
「アンジェロ楽しそうだなー」
「本当。相変わらずだね」
「あの二人、昔からああだったんですか?」
「そーだよ。うるさいのなんのって。二人がうるさいからしょっちゅうジュリオやアルカードがケンカ止めてたよ」
ボニーとクライドは思わず思い出す。二人のケンカを止めた後、必ずと言っていいほどアルカードもジュリオも同じ表情をしていたのだ。「全くこのバカコンビは、うるさいし疲れる」そう言う顔をしていた。それを思い出して懐かしく思うと同時に、抑止力となる二人がどちらも存在しない現在を嘆かわしく思った。
二人の表情に、シャンティも気の毒そうな視線を向けた。
「・・・ご苦労されたんですね」
「マジで。ていうか、あのうるさい二人が親か・・・」
クライドの言葉にもう一度ミナとアンジェロを見ると、まだギャーギャーやっている。
「とんだ胎教だな」
「本当だよ。子供、絶対迷惑してる」
「間違いありませんね。生まれ変わった子が、抑止力のある人だといいんですけど」
「第一希望は、クリシュナかな」
「そうだな。ミラーカ様は余程の事がない限り、蚊帳の外決め込むからな」
「北都はミナの味方しかしないから、余計うるさくなるしね」
「クリシュナ様がお子様として転生して、アルカード様と一緒になって説教して戴けると助かります」
「あぁ、あの兄弟の説教コンビネーションな、懐かしいな」
「どうかアルカードがさっさと帰ってきて、クリシュナと二人であのバカコンビを窘めてくれますように!」
「わたくしがお二人の代わりに神に祈っておきます」
「そうしてくれ」
3人が呆れている間に何とか落ち着いてきたミナ。が、腹立つものは腹立つ。
―――――全くもう、この悪党は、全くもう!
腹が立ちすぎてボキャブラリーの低下が著しいミナに、アンジェロは可笑しそうに笑って頭を撫でる。
「ウソウソ、可愛いって」
「胡散臭い!」
「マジマジ」
「ウソ! 笑ってんじゃん!」
「だってお前の顔、笑える」
「ムカつく・・・!」
更にムカつかされたミナだったが、その様子を見てクライド達は今度はニヤニヤ笑いだした。
「アンジェロ、本当にミナが可愛くてしょうがねーんだな」
「見てくださいよ、あの幸せそうな顔」
「あはは、案外ウソでもなさそうだね」
「ぽいな。アンジェロにしてみりゃ、確かにミナは世界一可愛いんだろ」
3人がミナ達に視線を戻すと、プンプン怒るミナをアンジェロが撫でてご機嫌取りをしている。
「ま、気にすんな。言いたい奴には言わせとけよ」
「アンジェロが言ったんじゃん! 人の顔見て笑えるとかさ、失礼にも程があるよ!」
「それはお前、アレだよ。お前の顔を見ると笑顔になれるって意味だ」
「ものは言いようだね」
蔑みの視線をぶつけるミナに、アンジェロはなおも笑っている。だけど頭を撫でられて強制的に落ち着いてくると、アンジェロの笑った顔を見て、ふと思った。
―――――アンジェロ、普段は全然笑わないけど、私と(私で)遊んでる時はよく笑ってくれるんだよなぁ。
何に対して笑っているかを考えるとムカつくので考えないことにして、その結果に満足することにした。
★自分の顔に誇りを持て
――――――――――ローレン・バコール
自分の顔には、自分の全人生がはっきりと現れる。自分の顔に誇りを持つことは、自分の生きざまに誇りを持つということ。
★登場人物紹介★
【シャンティ・アヴァリ】
屋敷の主人でミナの友人。人材派遣会社「ムンバイワーキングプロセス」の社長。
元々スラムの孤児で盗賊団のリーダーをしていたが、アルカードに拾われた。それをとても恩に思っている。
【クリシュナ・アヴァリ】
シャンティの長男。シャンティ達はクリシュナに面倒を見てもらった為に、その名前をもらった子。
ジュリオの生まれ変わり。ジュリオの記憶があるが、人格はクリシュナのもの。
【ジャイサル・アヴァリ】
シャンティの次男。残念ながら誰の生まれ変わりでもない。
将来はクリシュナと共にシャンティの会社をしょって立つ兄弟。