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コントラクト 3 ―宿命の契約―  作者: 時任雪緒
第6章 王と下僕、命がけの一六勝負!
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主なる神は土のちりで人を造り、命の息をその鼻に吹きいれられた




 山姫の所の新王国の話は後回しにすることにして、とりあえず反逆騒動は終息を見せた。


 一方のアスタロトは、折角の寸劇が台無しに終わってしまって、つまらなそうに舌打ちをしていた。そこにアンジェロが突然のローキック。はずみで倒れこんだアスタロトの頭を、更に踏みつけた。

 その様子を見てご機嫌なアルカードは、アンジェロに頭を床に押し付けられて、睨み上げてくるアスタロトに不遜に笑う。

「くだらない茶番は終わりだ。この程度で我々が揺らぐとでも思ったか。随分と小賢しい真似をしてくれるものだが、お前では私に勝つことは不可能だぞ。そうであろう、ミナ」

「はい、そうですね」

 声をかけられて、アスタロトの前にしゃがんで見下した。


「アスタロト様、私のお願い、後何個残ってますか?」

「・・・・・あと、3つ」

「じゃぁ、聞いてくれます?」

「なんでしょう」

「これまで私やアンジェロが願った事象を全て、今後も維持すること」

「事象とは?」

「事象ですよ。全部。双子やミラーカさんもこのまま純血種の吸血鬼として、魂を保持して生きていくこと。生活習慣の強化や、能力の維持―――――とにかく、私とアンジェロの関係も何もかもすべて。私とアンジェロが願ったこと、ぜーんぶこれからも維持する事」

「・・・・・わかりました」

 物は言いようだ。何の維持を願うかと考えたら、どうしても足りない。ならば全部願えばよい。

 こうしてしまえば、力も純血種もそのままで、アスタロトはやっぱり吸血鬼を攻撃できない。残りは、2つ。


「それから、アンジェロの契約を解約してください」

 さすがに予想していたようで、舌打ちした後、わかりました、と返事をした。

「解約しました」

 その言葉を聞いて、アンジェロの背中の服を捲ってみる。

 タトゥーのようなアスタロトの印章は、ミナの見ている前で灰色に退色し、すうっと消えてなくなった。

「消えたよ!」

「マジか!」

「やったー! アンジェロ、よかった!」

 アンジェロが悪魔の契約から解放されたことに、全員で万歳をして大喜び。これでアンジェロは死なずに済む。一度こういう経験をした以上、アンジェロが再び悪魔と契約する事はあり得ない。アンジェロが解約した以上、二度と悪魔はアンジェロの魂を手に入れることは不可能だ。


 早速リュイが、戦勝と山姫とアンジェロのお祝いをしようと言い出して、即飛び出していこうとする。

 それを、アミンが捕まえた。

「まだ早いよ。お祝いはもう少し待って」

 アミンの言葉に、すぐにお祝いムードは引いていく。

「えっと、後1個だよね? お嬢様、最後の願いも使うんですか?」

「ミナ?」

「心配しないで。最後のお願いは使わないよ」

 覗き込んできたアンジェロに言うと、心配顔が和らいだ。それを見届けて、もう一度アスタロトに向いて、笑って見せた。アスタロトは怪訝そうな顔をしているが、視線を外して、アンジェロの手をとって、見上げた。

「私の事、愛してる?」

 アンジェロは優しく笑って、応えてくれる。

「愛してる」

「ありがとう、アンジェロ。ゴメンね」

 謝りながらアンジェロに貰った指輪を、右手の薬指から外した。

「ミナ?」

「ゴメンね、アンジェロ。ごめんなさい。約束は守れない。ずっと一緒には、いられないの。本当は、家族をやり直せないの。私、本当にバカで・・・・・だけど、世界で一番愛してる。本当に、大好きなの。だから、この指輪はアンジェロが持ってて」

「は? 何言って・・・・・」

 握ったアンジェロの右手。長い小指に、外した指輪をはめた。訝しげに眉をひそめたアンジェロから視線を外し、アルカードに振り向いた。


「アルカードさん、お願いします」

「ああ」

 アンジェロが近づいてきたアルカードに視線を向けると、アルカードはアンジェロを真っ直ぐ見つめる。

 アルカードの瞳が光った瞬間、アンジェロはがくん、と体から力を失った。

「アンジェロ!?」

 駆け寄ってきたクリスティアーノに、体を支えたアルカードが、アンジェロを託しながら平気だと言った。

「寝ているだけだ。邪魔をされても困るからな」

「邪魔って、陛下? 何をする気ですか?」

 クリスティアーノの問いは無視して、アンジェロを預けたアルカードが、双子に向いた。


「金、黒、用意はいいな」

「「はい」」

「ミラーカも」

「ええ」

「ボニー、クライド」

「うん」

「アミン、頼んだぞ」

「はい」

「苧環、協力してくれるか」

「勿論です。柏木も」

「はい」

「オリバー」

「準備は出来ています」

 呼ばれたメンバーは返事をして、アルカードのもとにやってくる。

「よし、では」それを見届けて、ミナに向いた。「ミナ、いいな」

「はい。お願いします」

 そう返事をして、みんなを見渡した。


「アルカードさん、ミラーカさん、ボニーさん、クライドさん、アミンちゃん、リュイさん、山姫さん、苧環さん、虎杖さん、山姫一族の皆さん、シュヴァリエのみんな、ミケランジェロ、翼、アンジェロ。

 みんな、今まで本当にお世話になりました。ありがとうございました。すごく、楽しかったです。

 私とアルカードさんとアンジェロは連理の木だから、きっとまた出会えると思う。またみんなに会えるのを、楽しみにしています」

 ミナの言葉を聞いて動揺するシュヴァリエの面々に、視線を流して笑った。

「レミとジョヴァンニは私が吸血鬼化したけど、大丈夫だから。アルカードさんが助けてくれる」

「助け・・・・・? え? ミナ?」

 狼狽えるジョヴァンニにもう一度笑って、みんなを見渡した。


 みんなには何をするかはきっと理解できていない。けど、きっとよくないことが起こるのだ、それはわかっているようだ。レミが訳も分からないはずなのに、苦しそうな表情をしている。

 何が起こるかわからないはずなのに、止めに入ろうとする。それをボニー達が遮る。先が読めたのか、アスタロトすらも止めに入ろうと声を張り上げる。

「ミナ!」

「やめなさい!」

「ミナ!?」

「ミナ様!」

「みんな、ありがとう。また出会えたら、友達になってね」

 寝ているアンジェロを見て、どうしようもなく惜別の情が込みあげてきて、涙が零れた。

「また、出会えたら、私を好きになってね・・・・・今まで、護ってくれて本当にありがとう。愛してる―――――さよなら」

 涙が頬を伝った。アルカードの目を真っ直ぐに見つめた。念を押すように見つめるアルカードの視線に頷いて、輪郭をなぞった涙が肌から離れたとき、アルカードの瞳が金色に輝く。

 その瞬間、ミナは意識を手放して、一瞬で、砂塵と化した。


 塵は、塵に還った。




★主なる神は土のちりで人を造り、命の息をその鼻に吹きいれられた。そこで人は生きた者となった。

――――――――――旧約聖書創世記2-4

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