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コントラクト 3 ―宿命の契約―  作者: 時任雪緒
第5章 この手で掴む、五風十雨
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戦いは考えすぎては勝機を逸する



「マジでぇー!!」

「マジか」

「うぉぉぉい! マジかよ!」

 起きてきたメンバーは全員ガックリとその場に倒れた。ここは王の間。一応吸血鬼以外は人払いしてある。


 クリスティアーノ達が目が覚めた17時。冬場でとっくに日が暮れているアリストの城壁の向こう側は死屍累々。

 魔獣やドラゴンの死体の傍には、炭が転がって風に吹かれて消えていく。

 とうとうアンジェロ達は悪魔を全滅させてしまった。城外では大騒ぎでパーティが始まっている。

「ハハハ、クリスマスだしな。今日は戦勝記念日だ」

「あぁ、それに制定しよう。今日は一段と血が美味く感じるな」

 ご満悦で和気藹藹クリスマスパーティ(マッドティーパーティ)を開く国王陛下と官房長官改め独裁執政官に、起きて早々何も知らなかったメンバーは、タンドリーチキンのごとく床に転がったのであった。


 そうこうしていると、部屋のドアが乱暴に開かれた。入って来たのは、戦場から帰ってきた山姫と苧環、山姫一族の主要メンバー。

 ついでに、人払いの為に見張りに立っていた衛兵を振り切って無理やり入って来たのは、どういうわけか怒り心頭のアレスだ。即アンジェロに食って掛かった。

「アンジェロ! お前どういうことだ!」

「おう、お疲れさん」

「お前のせいでな! 俺はてっきりお前が裏切ったと思って! 戦場で会ったらブッ殺してやろうと思っていたぞ!」

「お前が俺に勝てるわけねーだろ。つか、敵として対峙するとは言ってねぇ」

「いっ! 言わなくても普通はそう思うだろ!」

「あーもー、お前うるせーよ」

 アレスがあまりにも暑苦しいので、アンジェロは鬱陶しそうに突き放している。

 アレスは心配していただけなのに普段通りぞんざいに扱われて余計に腹が立ったようだが、結局のところアンジェロが裏切り者じゃなかったことは嬉しかったようで、すぐに落ち着いた。

「お前がVMRに戻ってきてくれて良かった。お前とは戦いたくなかったから」

「あー、負けるから?」

「違う! お前はどうしていつもそう、ムカつくことを言うんだ!」

「趣味」

「悪趣味だ! このムカつかせ王が!」

 アレスが一生懸命アンジェロにガウガウ言っていると、アルカードが血の入った茶器を置いて、みんなに向いた。



「とりあえず、全員集まったな。それでは私の一族はすぐに武装しろ。あらゆる火器を持てるだけ持って行け。準備が整い次第またここに集合だ」

「え・・・・・陛下、今度はまた何の戦いですか?」

 やっとのことで身を起こして尋ねたジョヴァンニに、アルカードはニヤリと笑って言った。

「折角のクリスマスイブの夜だ。戦争の夜だ。思い出さないか、あの戦争を。今宵、我々が悪魔を排斥するのだ。あの悪魔たちを燃やし尽くしてやるのだ。本来のエクソシストとしてのお前達の職務だ」

 それを聞いて、思い出す。本来シュヴァリエ達はエクソシスト。あの日の、フィレンツェでの戦いで、ジュリオが下した命令。


 ヴァルプルギス


 それは西欧に古くから伝わる祭りの一つ。

 その時期、その日に、地獄から溢れた亡者たちや悪魔や魔女の魂が街を跋扈すると言われる。

 その魂を祓うため、かがり火を灯し聖なる炎で街を清め、悪魔を追い払う。

 それが、ヴァルプルギスの夜。それが、34年前の―――――運命の分岐点。それが今年もやって来た。


 シュヴァリエ達が全員起き上がって来たのを見届けて、アルカードは改めて言った。

「命令だ。“第2次オペレーション・ヴァルプルギス”。5年を費やしたこの作戦も大詰めだ。あとはチェックを仕掛けるだけ。ナボックには既に武僧兵団を向かわせてある。これからそこに向かい、ナボック城に籠城している悪魔どもを全員抹殺せよ。ただし、アスタロトだけは生け捕りにして、この城へ連れてくる」

「第2次・・・・・“オペレーション・ヴァルプルギス”、ですか」

「またクリスマス戦争ですか・・・・・」

「陛下、我々はいつからブルース・ウィリスになったのですか」

「心配するな。家族を人質に取られていない内はブルース・ウィリスではない」

「そう言う問題ですか?」

「それに、ブルース・ウィリスは何度でも世界を救うのだから、名誉なことではないか」

「そう言う問題ですか?」

 シュヴァリエとアルカードのやり取りも、十分「そう言う問題か?」と内心で思ったが、ツッコむのが面倒でやめた。


「我々が不在の間の事は山姫に任せることにしてあるから問題ない。すぐに兵装しろ」

「え? アルカードさんも行くんですか?」

「当然だ。何が起こるかわからないし、この目で悪魔が全滅するのを見なければ気が済まない。なにより、アスタロトが捕えられる様を見るのが楽しみでな」

 アルカードの中ではアスタロト捕縛成功は既に決定事項のようだ。正直殺すよりも捕まえる事の方が難しい気もするが、アルカードがいれば何とかなりそうな気もする。

 アルカードに寄せる無闇な信頼で無理やり納得して、ミナと共にヴァンパイア一族は武装するために部屋を後にした。



 都庁舎に戻ると、双子が待機していた。

「「お父さん、お母さん、お帰り」」

 事前にアンジェロがテレパシーでも送っていたのか、二人はスンナリ迎え入れた。

「つか、なんでお前もここに帰ってくるわけ? 今の住処は後宮だろ?」

「アルカードさんに追い出されちゃって、今ここに住んでるの」

「ウソ! マジ? うわぁ・・・・・」

 そう言って、アンジェロは目を輝かせたと思うと、顔を背けて壁に張り付いている。どうも喜んでいるようだ。アルカードからの思わぬプレゼントに舞い上がったものの、今はまだ戦争中だ。喜ぶのはまだ早い。


 すぐにそれぞれ部屋に入って、アンジェロは勝色の立襟燕尾服の軍服に袖を通し、ミナにも新たに配給された軍服に袖を通し、デュランダルを腰に差した。

「お父さん、征くんだね?」

「あぁ」

「お母さんも?」

「うん」

「「そっか・・・・・」」

 双子は返事を聞いて俯いたが、すぐに顔を上げた。

「僕らはやることがあるから一緒には行けない」

「だけど、心配しないで。おじいちゃんの魔法があるから、悪魔は僕らには手出しできない」

「お父さんとお母さんとみんなが無事に帰ってこれるように、王妃陛下と一緒に王宮で帰りを待ってるから」

 二人の言葉を聞いて、笑って見せた。

「大丈夫。絶対みんなで帰ってくるから」

「うん。それにしてもお母さんのその格好」

「なんか、アレだね。一日署長みたいな・・・・・」

「コスプレっぽいな、なんか」

「コス・・・・・」


 ミナにもこの戦争が始まった際に、一応軍人としての地位を与えられた。空軍は未だに出来ていないが、一応陸軍の特殊部隊として設立された「空撃特務部隊」の大佐だ。ちなみに実質リーダーで少佐をやっているのは、ハーピー4姉妹の長女、アエロだ。

 元帥クラスで立襟燕尾服(大日本帝国海軍最上儀礼軍服風)のアンジェロと違って、ミナの格好は将校用の、ナチスSSの制服をパクッた格好だ。

 兵科色は空の部隊なら青もしくは白かと思いきや、ピンク。空撃部隊に採用された兵科色、ドーンピンクは、淡くグレーがかったピンク色の夜明けの空、暁の空の色だ。

 白いブラウスに黒のネクタイ、ドーンピンクのフロックコートに似た背広とミニスカート、黒のニーハイブーツに、黒地の折り返しにドーンピンクのパイピングが入った略式の帽子。

 腕章には国章であるアルカードのドラゴンのウロボロスと、略式帽には、ミナの紋章として茨に囲まれた揚羽蝶のバッチがついている。確かにコスプレと言われたら否定しにくくはある。


「ピンクとか、いかがわしいな、オイ」

「私に言われても・・・・・デザインしたのミラーカさんだもん」

 それを聞いて納得するアンジェロ。

「ミナちゃんに似合う、可愛い制服にしなきゃ!」

 と、意気揚々とデザインを考えるミラーカの様子が、容易に想像できたようだ。

 なかば遊び半分だ。伊達に暇を持て余した王妃陛下ではない。

 そんな一日署長コスのミナに双子は若干不安を感じたが、仮にも大佐だし、戦闘経験は十分にあることはよくわかっていたので、信じて待つことにしてくれたようだ。



 双子も一緒に都庁舎から王宮に戻ると、意外にも一日署長コスは大好評だ。

「うわ、ミナ可愛い!」

「白衣よりそっちのが似合うじゃん!」

「お嬢様、後で写真撮らせてください!」

「えぇ、う、うん・・・・・」

 とてもこれから戦いに行くとは思えない雰囲気だし、本業の白衣よりコスプレ軍服の方が似合うと言われたのは微妙に癪だ。

 ―――――今から悪魔倒しに行くんだよね? 仮にも戦争中だよね? なにこのテンション。なんでみんなこんなに豪胆なの。

 そこは戦闘経験のキャリアの差だ。もしくは元々の性格だ。が、ここはさすがにボスが喝を入れる。

「お前達以前もそうだったが、戦いを前に随分な落ち着きようだな。肝が据わっているのはいい事だが、浮ついた心構えで死んでは、笑い話にもならんぞ」

 34年前にもほぼ同じような内容を言われた事を思い出して、シュヴァリエ達はすぐにしおらしくなった。

 それを見届けて、アルカードもやっと玉座から立ち上がった。

「武器は?」

「バッチリです!」と、各々、銃や迫撃砲や、重火器を掲げてみせる。

「兵糧は?」

「浴びるほど飲みました!」

「悪魔を倒す準備は?」

「万端です!」

「悪魔に殺される心の準備は?」

「してません!」

「ははは。よろしい」

 アルカードは満足そうに笑って、ヴァンパイア一族を見渡す。それぞれの瞳に

「ブッ殺してやるぁ」

 という意気込みを感じ取れたようで、再び満足そうに笑うと、ミラーカの元に歩み寄った。


「すまないな、お前は置いていく」

「いいのよ、行けないもの。ちゃんと、全員で戻ってくるのよ」

「あぁ、約束する」

「ふふ。あなたは約束を破ったりはしないから、信じて待っているわ」

「お前は双子に守らせる。また死なれては敵わないからな」

「死なないわよ、失礼ね。あなたこそ死なないで頂戴よ」

「誰に向かって言っているのだ。この私が死ぬはずがないだろう」

「そうね、不死王だものね」

「あぁ、アミン、頼んだぞ」

「はい」

「あなたも、気をつけてね」

「あぁ」

 安心したように笑ったミラーカの傍に、双子が駆けて行った。

「陛下! 王妃陛下は僕達が余裕でお守りします!」

「大船に乗った気でいてください!」

「・・・・・頼んだぞ」

「「ハイ!」」

 一応下手だがアンジェロの息子なだけあって生意気な双子。思い上がり双子に少し呆れた様子だったが、山姫もいる事だし、やたらと自信満々な顔をしているので、任せることにしたようだ。


「山姫、城の事は頼んだぞ」

「わかったわ」

「アミンちゃん、翼、ミケランジェロ。ミラーカさんの事お願いね」

「「任しといて!」」

「頑張る!」

「アレス、俺がいねぇからって城を乗っ取ろうとか思ったら、即双子に吸血させるぞ」

「思ってない!!」

「あはははは」

 結局和気藹藹だ。見送る山姫一族と、ミラーカと双子、アレスに手を振って、ヴァンパイア一族全員で、ナボックへと転移した。





★戦いは考えすぎては勝機を逸する。たとえ草履と下駄をちぐはぐに履いてでもすぐに駆け出すほどの決断。それが大切だ。

――――――――――黒田如水

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