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コントラクト 3 ―宿命の契約―  作者: 時任雪緒
第5章 この手で掴む、五風十雨
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黒・白・赤の組み合わせは、現存する者の中で最も輝かしい調和である




 創絡5年12月24日12時。既にクリスティアーノ達は眠ってしまった、クリスマスイブの正午。

 各国の指揮官たちは戦場に出ている。作戦会議で円卓を囲んでいるのは、アルカード・山姫・クライド・苧環・ミナの5名と、バリアを張り続けるヘルメスだけ。


 【残存兵力】

 ■悪魔軍 3万

 □国軍 6万

 □同盟軍 10万

 □反乱軍 8万



 情勢は、VMR側の圧倒的優位だ。戦況を見てアスタロトは溜息を吐く。

「白旗を上げる者達が現れるとは思っていましたが、なかなかどうして早いものですね。もう少し、状況が悪くなるとか、兵糧が減るかしてからだと思っていたのに」

「今、どんな状況だ?」

「結構な数が寝返ってしまって、国軍と同盟軍は守備に一貫してますね。反乱軍で攻撃を仕掛けているようです」

「なるほど。憎悪の再利用か。まさしく適材適所だな」

「全くです。しかも濡れ衣もいいところですよ。こうなっては困ると思って、人質は殺さずに置いたのに」

「そりゃ悪魔だからな。日頃の行いだ」

「こうなったら殺すしかありませんが・・・・・」

「それは後でもいいだろ。アリストからロダクエまで徒歩で到着するのには数か月かかるんだからな」

「まぁ、そうですね」

『つーかもういいんじゃねーか、ほっといて。今更殺す必要も時間もねぇ』

「ええ、こうなった以上は是が非でもあのバリアを突破する以外にはありません」

「巨人の出番か?」

「ええ。彼らを連れて行ってもらえますか?」

「わかった。じゃぁ、俺も出番だな」

「ええ。アルカードを倒せるといいですね」

 フン、と鼻で笑ったアンジェロは黒のパルダンメントウムを羽織り、武装した。ホルスターのファントム2挺。ストックのマガジン。これが効くのは、悪魔だけでなく吸血鬼も同じこと。

 ―――――さて、いざ我が祖国へ。

 巨人と2万のディアリ兵を引き連れて、アンジェロはナボックから転移した。




 その頃王宮では、戦況を見渡してアルカードがまたしても考え込んでいた。

 ―――――概ね作戦通りだが、あまりにも楽過ぎる。あの悪魔がここまで考えていないはずはない。きっとまだ何かあるな。

 そう考えて、相変わらず魔法を使いっぱなしのヘルメスに視線をやった。

「疲れないか?」

「ヘトヘトです! 12時間ぶっ通しですからね!」

「それは、すまないな」

「ちょっと休みたいんですけど!」

「いや・・・・・」

 ミナは戦争開始から終結までと言ったが、どう考えてもそれは無茶だ。もし戦争が何か月も続く様な事になったら、ヘルメスは憐れ枯死だ。

 さすがに気の毒にも思ったが、今策を思いつかない状態で解除してもらうのも厳しい。


 どうしようかと悩んでいたが、頭の中に突然、反応があった。

「ヘルメス、このバリアの中は悪魔の千里眼が通っているのか?」

「まっさかぁ! それも勿論遮ってますよ。あ、でも無線は通ってましたね」

「何を対象に、退けている?」

「物理攻撃、精神攻撃、悪魔、ですね。基本は」

 ―――――攻撃ではないから、か。

 考えていると、伝令蝙蝠がやって来た。


『敵襲! 南側正門前に敵襲! 敵の軍旗は三月と黒ウサギ!』


 会議のメンバーは、一斉に蝙蝠に視線を注いで立ち上がった。

「来た」

「来た」

「アンジェロが来た」

「やはり、昼間に来たか」

 全員で窓の外、南の正門前の方向を覗いて、目を疑った。

 遠くの方、確かに一つの軍隊が近づいてきているが、なんだかサイズがまちまちだ。全員で首を捻って、もう一度蝙蝠を飛ばした。

『敵の勢力は2万! ディアリと巨人族!』

「えぇー!?」

「巨人ですって!?」

 すぐにアルカードの転移で、南側の城壁まで転移する。


 南側の城壁の向こう、ここからまだ数キロは先の方に、進軍してくる軍を見つける。掲げる軍旗は、三月と黒ウサギ。アンジェロが率いる2万の軍。その軍の背後に佇む、巨大な人影。

 と、人影が急に近づいてくる。その大きな一歩は、兵たちの戦意を喪失させるには、十分すぎた。


 白く癖のある髪、真っ白い肌。青銅製の胸当てをつけ、大剣を携えた、城壁よりも大きい巨人の兵団。その体躯は目測でも50mはある。ウルトラマンより少しデカイ。

「無理だ、巨人なんてどうやって倒せばいいんだ」

「オーガ、大地の創造主の、末裔の一族」

「アスタロトは、神の末裔までも手に入れてたってのか」

 南門の守備に回った兵たちが後ずさりする。アンジェロの軍が近づくにつれ、道を開けてしまう。


 “島つくりのオーガ”。彼らの先祖は大地を創造した、大地の神が祖先だと言う伝説がある。オーガよりもはるかに大きかった彼らの祖先が、海の底から土を盛って大地を作り上げ、この大陸や島を作り出したと言う、神話。その伝説の末裔とされる一族。

 恐れをなした守備兵たちの守りは極端に薄くなり、オーガ達は城門の前まで容易く歩を進める。

 城壁の上に立つミナ達を見下ろすオーガの肩にアンジェロが立っているのが見えて、アンジェロが合図をすると、周囲のオーガが一斉にバリアに向かって剣を振り下ろす。

 バリアに当たった剣は、ジュワッと蒸気を巻き上げて、それ以上には進まない。しかし、剣を振るった風圧と衝撃に、周囲の木立が大きく揺れるのが見て取れる。

 剣自体も大剣だ。30mはある様に窺える。


「もし、バリアが破られたら」

「城壁も城も、ひとたまりもないわね」

「これだったんだ、悪魔の切り札」

「巨人なんて、兵たちに倒せるはずない」

 ヘルメスのバリアだって完全無欠なわけじゃない。ずっと長時間魔法を使い続けて、流石のヘルメスも疲労している。そこにこれほど強力な斬撃を浴びせ続けられれば、そのうちきっとバリアにもほころびが生じて、その綻びから一気に破れてしまう。

「私が出撃するわ」

「では、私もお供いたします」

 そう言って、山姫と苧環が軍服の腰に差された鞘から剣を抜いた。

「巨人を倒すルールは、昔から決まってるわ」

「ええ。倒すなら、やはり剣でしょう」

 そう言うと二人は城壁から飛び降りてバリアを抜けて、巨人の前に立った。



 巨人はすぐに気付いたが、高速で移動する二人の姿を捉えられないようで、自分たちの足元に視線を泳がせている。

 すると、一人の巨人が地に轟く低い悲鳴を上げて、膝をついた。二刀流の苧環がまず一撃二撃と同じ場所に連続して斬りつけ、すぐに三撃目を山姫が斬りつける。そうして何とかアキレス腱を切断することができたようだ。

「巨人はアキレス腱を斬って倒すものよ。それこそ神話の時代から」

「たとえ殺せなくても、動きさえ止めれば脅威でも何でもありません」

 二人の前に降り立ったアンジェロに二人がそう言うと、アンジェロは笑った。

「そう言えばそんな神話がありましたね。ですが、彼らはその神話の巨人ではなく、大地の創造主という神話の末裔」

 アンジェロが指差して、腱を斬った巨人に視線をやると、巨人は剣を地面に突き刺しパンと手を合わせた。その瞬間紫色の光が巨人を包んで、見る間に足の傷は修復されていく。

「治癒魔法!?」

「地殻運動のエネルギーを使っているそうですよ。だから彼らは大地の創造主の末裔と呼ばれる。多少の怪我なんて、彼らにはなんてことありません。さぁ、戦いましょうか」

 再び立ち上がった巨人が山姫たちに剣を振るう。剣は躱したものの、その衝撃で巻き上がる風と砂埃、爆発に近い衝撃に二人とも吹き飛ばされる。

 アスタロトすらも対峙したら苦戦すると言う巨人族。圧倒的な力を目にして、兵たちは怯えて近づく事も出来ない。

 剣や矢は勿論、砲撃だって大した効果が見られない。出来た小さな切り傷も、砲撃の火傷もすぐに治癒されてしまう。

 再びアンジェロは巨人の手に迎え入れられて、肩に降りる。アンジェロを乗せているのは、どうもこの巨人兵のリーダーのようだ。



 ふと、アンジェロがミナを指さすのが見えた。何を言っているのかはわからないが、巨人は動揺して視線を泳がせている。

 またアンジェロが何かを言って笑うと、巨人は頷いて他の巨人たちも頷いた。

 突然巨人が城壁に背を向けた。そして、剣を突き刺し、全員がその場に座り込む。そしてアンジェロが連れてきた2万のディアリ兵がその前に展開し、やはり城壁に背を向けて立つ。まるで、アリストを防衛するかのように。

 アンジェロとアンジェロを乗せた巨人だけが前に進み出る。巨人たちの後方で国軍を追い立てる悪魔軍たちを、蹴飛ばし、踏み潰し、一撃のもとになぎ倒す巨人。たったそれだけで、1個の大隊が壊滅させられた。

「なに、どうなってるの・・・・・」

 突然の事に思わずそう漏らすと、隣でアルカードがクスと笑うのが見えた。

「一旦王宮に戻るぞ。山姫たちは心配ない」

「は、はい」

 そうしてアルカードとミナとクライドの3人は、再び王宮に戻った。



「どうでしたか? 巨人は?」

 ずっと魔法を張り続けていたヘルメスが尋ねてきた。

「ヤバいです。超ヤバいです。ていうかバリアの方大丈夫ですか?」

「一回攻撃されたじゃん? アレがあと何回も来ると思うと、オレもう帰りたいんだけど」

「頑張ってください。けど、不思議現象というか」

「不思議ってなにが?」

 首をかしげるヘルメスに、アルカードが指示を出した。一瞬だけバリアを解除して、すぐに張りなおす様に言った。

「えぇー。ぶっちゃけコレ張る時が一番しんどいんですけど!」

「しばらくしたらバリアの解除を許す。その後は好きなだけ休んでいい」

「本当ですかー?」

「勿論だ」

「わかりましたー」

 渋々と言った感じでヘルメスが杖を掲げると、珠の光が終息し、パァンとバリアが弾けた。


 その瞬間、アンジェロが王宮に現れた。

「うわ!」

「官房長官!?」

 周囲は驚いたが、アルカードは平然としている。

「何をしている、ヘルメス。早くバリアを張れ」

「うぇー・・・・・はい」

 またしても渋々バリアを張るヘルメス。いよいよ疲労困憊の顔をしているが、周囲はそれどころではない。



 再びバリアを張ったのを確認して、アンジェロはアルカードの前まで歩み出て礼を取った。

「陛下、此度の大戦のご戦勝、お喜び申し上げます」

 その言葉に、アルカードは大笑いし始める。ちなみにミナを含めて周囲はチンプンカンプンだ。

「ははは、小僧、気が早いぞ」

「そうでもありませんよ。当初の予定通り、首尾よくいったではありませんか」

「あぁ、そうだな。して、今後は?」

「バリアを解除するために、巨人族で攻撃を仕掛ける予定、でございましたが、彼らはアリストの守備に」

「巨人も味方に引き込めたら、ヘルメスを休ませてやることは可能であろうな」

「当然、その算段は付けてありますので、ご心配なく」

「素晴らしい。各国の人質たちは?」

「私が出撃し、しばらくしてから殺害することになっておりますが、殺す必要はないと言いつけてまいりましたので、全員無事です」

「そうか。ならばすぐにオキクサムに駐屯させている“武僧兵団”に攻撃を仕掛けさせよう。悪魔軍の兵力は?」

「現在ほとんどの兵力が戦争に駆り立てられています。城に留まっているのは100名ほど。アスタロトには『殺すな』と言いつけてありますので、人質も兵たちも殺せないでしょう。問題があるとしたらネビロス位なものかと」

「なるほど。ははは。素晴らしい。では、戦場に残っている悪魔を根絶やしにし、城の悪魔を一掃すれば、我々の勝利は間違いない、と?」

「その通りでございます。全ては、陛下の仰せのままに」

「あぁ、本当にお前はよくやった。約束通り称号と新しい地位を与えよう。この戦争が済めばお前は英雄だ。

 身内を裏切ったと見せかけ悪魔を騙し、分の悪い大戦争を引き起こし、その勢力を悉く手中に納め悪魔を壊滅に追い立てた陰の功労者、独裁執政官イスカリオテの名はお前にふさわしい」

「身に余る光栄にございます」



 敵を欺くにはまず味方から。この戦争も、アンジェロの裏切りも、ちなみにアンジェロがミナと別れた段階から、全てがアルカードの計画通り。要するにアンジェロは亡命者の皮を被ったスパイ兼アルカードの戦力の筆頭だ。

 誤算があったとすればミナとアンジェロが元鞘に戻ったことくらいで、他の事は全部予定通り。


 イスカリオテのユダ。彼はキリストを裏切って自殺して死ぬ。ユダはキリストに言われたのだ。なすべきことをなせ、と。そして裏切り、キリストは十字架にかけられて死に、ユダも自殺して死ぬ。

 しかし、見方を変えればユダこそがキリストの奇跡の、最高の功労者と言える。キリストが死んだ後、死後復活しその力が本物だと証明し、神の名と力を知らしめるに至る。キリストの死とユダの裏切りは、キリスト教にとっては最高のパフォーマンス。


 だからアルカードはアンジェロに言った。

「成すべきことを成せ。お前はイスカリオテのユダだ。私を憎み私を裏切り、殺したいと願え。そして私を、神に仕立て上げて見せろ」

 アンジェロは笑ってアルカードの前に跪いた。

「勿論でございます。私はイスカリオテのユダ。ウソつきで身内も他人も騙し裏切り、最後に勝利を齎す者。それは私にしか勤まらないでしょう。悪魔を完全に壊滅させることができるなら、国すらも裏切りましょう。ですが、陛下に言われたとおり、私は何があっても陛下を裏切りません。それだけは、ウソではございません」

「あぁ、信じよう。頼んだぞ」

「お任せください」

 というやり取りを、この国が建国した当初に、テレパシーで全ての計画を打ち明けていたのだった。



 当然この事はアンジェロとアルカード以外は誰も知らなかったので、ミナもそうだが全員開いた口が塞がらない。

 まさかそんな壮大な計画だったとは思わなかったし、アンジェロが10か月も裏切り者のふりをして悪魔に加担しているとは微塵も思わなかった。

 しかし、よくよく考えてみれば、ところどころアルカードは気にかかることを言っていた。

 軍資金の話をしていた時、アルカードが言った。

「今回の為に金は余りあるほど用意してある」

 まるで最初からこの戦争が起きると予想していたような口ぶりだ。仮に予想できたとしても、まだある。

「せっかちな小僧の事だ。空間転移で直接アリストに攻め込んでくるに違いない」

 確かにそうと言われればそうなのだが、普通はその程度の予想で軍事力を首都に集中させたりしない。あまりにも賭けだ。最初からアンジェロが首都に攻め込んでくると知っていなければ、そんな賭けにベットするはずがない。

 それに、ミナを殺すと脅せば、と指揮官が発言した時も気になることを言った。

「再び入城された際にはここにいるすべての者が殺される」

 ヘルメスのバリアがあるというのに、アルカードはヘルメスのバリアなど関係なしにアンジェロが入城して来ると言っているようなものだ。

 そりゃアンジェロが最初から裏切り者などではなく、アルカードがバリアを解除させて招き入れるつもりだったなら、そう言う言い方もするだろう。



「え、じゃぁ、アンジェロ、裏切ったわけじゃないの?」

 近づいて声をかけると、立ち上がったアンジェロに呆れられた上に溜息を吐かれた。

「俺の事何があっても信じろって言っただろ」

「そ、そうだけど! だって、いなくなっちゃってるし、宣戦布告にも来たじゃん!」

「この先何があっても裏切らないって、俺とお前で誓っただろ」

「うん。でもアンジェロは私の記憶が消えたのに怒ったんだと思って・・・・・」

 そう言うとアンジェロは少し苦笑して、ミナの頭を撫でた。

「確かにそれはメチャクチャショックだったけど、それはお前の暴走のせいであって、ヴラドのせいじゃねーしなー」

「う。ゴメン・・・・・」

「それにお前は双子から話を聞いて、信じてくれたんだろ?」

「うん。信じるし、嬉しかったよ」

「じゃぁ許す」

「ありがとう・・・・・」


 ミナが信じると言ったから、アンジェロは救われた。勿論その為にわざと写真を置いて行った。

 ミナが本当にアンジェロを愛しているなら、信じて受け入れてくれると思ったから。仮に昔の記憶を取り戻せなくても、ミナが受け入れて、これからを一緒に生きてくれるならそれでいいと思ったから。

 正直な話、アスタロトに記憶の改竄を願ったのは、ただのポーズだ。そう言ってアルカードを恨んでいるとアスタロトに思わせるための。

 もしミナがアンジェロを愛さなくても、アンジェロには関係ない。実際昔は10年間忘れられて、その間ずっと一途に想っていたのだから、この程度の事は何と言う事もない。



 アンジェロが欲しかったのはアスタロトを操作できる状況と、情勢を操れる状況。アスタロトに強化してもらうことが目的であって、他の約束など最初から守るつもりもなければ、守ってもらう必要もない。

 悪魔によって強化された力を以て、悪魔を操作して壊滅に追いやる。それを思いついた時、アンジェロとアルカードの作戦はより緻密になり、今回実行に移すに至ったと言うわけだ。

 アンジェロが悪魔に約束したこと。VMRへの侵攻、アルカードと山姫一族殺害後のアスタロトの自由、アスタロトが約束を守ったのちに、魂を引き渡すこと。

 アスタロトが約束したこと。強化、アルカードを殺害する権利、大隊の付与、ミナの記憶の改竄。

 アンジェロが約束させたかったことは戦前から戦争中にかけてでの事であって、後の事などどうでもよかった。アンジェロが約束したことは、戦争が終わってからの事ばかりで、その条件すらも整う事はない。本当に最初から約束を守る気などなかったのだ。


「じゃぁ、アンジェロ、これから本当にずっと一緒にいられるの?」

「その前に、大事なことがある」

「なに?」

「もうじき、アスタロトも俺に騙されてただけだって気付く。そしたら、奴は何としても俺の魂だけでも奪おうとするだろう。それを、阻止してほしい」

「どうしたらいいの?」

「お前が俺に愛してると言ったら、それで俺は死ぬ」

「じゃぁ、言わなければいいの? ずっと?」

「言わないで、俺の契約を解約してくれればいい」

「じゃぁ、願うのは、純血種の保護と、能力の維持と、アンジェロの解約、でいいんだっけ?」

「・・・・・あ、俺とお前の関係の維持もだ」

「あ、そっか。私とアンジェロが付き合う様に説得したの、アスタロト様だったって双子が言ってたっけ・・・・・てことは、私の願い全部使い果たしちゃう」

 アンジェロと心中するのはいいのだが、悪魔に魂を奪われて死ぬのは嫌だ。どうせなら願いが叶っていない状態で心中して、魂を悪魔のものにしないようにしてやりたい。

 どうしたらいいものか、と考えていたら、アルカードが口を挟んできた。

「心配ない。今のお前達は悪魔がもたらした関係ではなく、小僧が築き上げたものだろう。悪魔に願う必要はない」

「あ、そっか! え、ていうかアルカードさん、もしかしてそこまで考えててくれたんですか!?」

「当然だ」

「ウソ吐け! 元鞘に戻ると思ってなかったろ!」

「黙れ」

 昔からそうだが、すぐに他人の手柄を横取りするアルカードに思わずアンジェロはキレたが、人目があったことを思い出して、咳払いをして気を取り直した。



「ま、とにかくそういうことだから、今は戦争を終わらせるのが先な。ちゃちゃっと悪魔軍一掃して来るから」

「あぁ、こちらもすぐに兵を南下させよう。それが済んだら、我々が直接アスタロトの元に乗り込み、壊滅させてやる」

「準備は?」

「完璧だ」

「OK.じゃ、ちょっと行ってくる」

 そう言ってアンジェロは軽く手を振って、その場から消えた。


「陛下、今のマジですかぁ?」

「マジだ。巨人が味方に付いた。お前はバリアを解除して、休んでいいぞ」

「マジ!? やったー!」

 すぐにヘルメスはバリアを解除したので、衛兵に指示をしてヘルメスは貴賓室でゆっくり休ませてやることにした。

「ていうか、アルカードさん、マジですか」

「マジだ」

「全部? 裏切りも何もかも、ウソ?」

「あぁ。ただのポーズだ」

「お前がアンジェロとミナを別れさせたのも、作戦の内?」

「当然だ」

「でもアンジェロはスゲェテンパってただろ」

「ポーズだ。もしくはわかっていても別れるのが嫌になっただけだろう」

「宣戦布告は?」

「ポーズだ。身内を騙せない者が、どうして敵を騙せるものか。その点小僧は実に優秀だ。あぁ、本当に私は素晴らしい臣下を手に入れたものだ。はははは」

 ミナとクライドで質問攻めにすると、アルカードは超ご満悦だ。結局のところ、なにもかも辣腕卑怯王の思うが儘になってしまったようだ。


「・・・・・みんな、目が覚めたらビックリするでしょうね」

「外で戦ってる奴らもな」

「ていうか、戦ってるの反乱軍と吸血鬼ばっかりですよ。みんな防衛に回って、何もしてない」

「あ、ホントだ」

「あぁ、実に素晴らしいことだ。やっと赤の布地に、白と黒が集った」

 城壁の外では、反乱軍が悪魔軍を挟撃して、ボニーとアミンとアンジェロが銃をブッ放し(リュイは寝ているので土の中に埋めてある)、山姫と苧環が悪魔をバラバラに切り刻んでいる。

 巨人族の周囲に展開した国軍と同盟軍で防衛線を張り、ディアリ達が防御魔法を張っている。

「夕方までには悪魔軍は全滅するな」

「そうですね・・・・・」


 巨人族出現による形勢逆転かと思われたが一転、圧倒的勝利は目前だ。


【残存兵力】

 悪魔軍 8000

 国軍 6万

 同盟軍 10万

 反乱軍 10万

 武僧兵団 5万



「あぁ、実に愉快だ。こんなに一方的で楽な戦争は初めてだ。はははは」

 やっぱり世界はアルカードを中心に回っているようで、ミナはつくづくアルカードとアンジェロが味方で良かったと思って、深く溜息を吐いた。

 赤の王様、白の内閣太政大臣、黒の独裁執政官。アルカードの足場を崩すことは、悪魔にも不可能だ。




★黒・白・赤の組み合わせは、現存する者の中で最も輝かしい調和である

――――――――――アドルフ・ヒトラー「わが闘争」より

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