戦争は常に人間の最悪の部分を引き出す
「将軍は、吸血鬼なのですよね?」
「あぁ」
「元はVMRの重鎮だったと聞きましたが」
「そうだな」
「背中の印章は、アスタロトの物ですよね」
「そうだ」
「なぜ、裏切ったのですか?」
兵たちが質問を重ねて、少しだけアンジェロは疲れを現した。その表情に兵たちも少し怯えたが、兵たちは不思議で仕方がなかった。
ナボック人達は、当然知っていた。エレストルが吸血鬼に乗っ取られ、VMRという新国家に生まれ変わったこと。風にあおられた服の隙間から見えた、アンジェロの背中に浮かぶアスタロトの印章、それで乗っ取った理由もわかったし、悪魔とアンジェロの関係もわかった。
悪魔と契約した場合、大概において悪魔を使役するか、悪魔に怯えて逃げ惑う。しかしアンジェロは悪魔に協力すると言う姿勢を見せている。この事は明らかに常軌を逸していた。
兵たちの質問に、アンジェロは溜息を吐いて答えた。
「恋人の為」
「恋人・・・・・ですか?」
「あぁ、お前らと同じだよ。恋人を人質に取られてる。だから」
ミナは自覚していない。自分が人質だと言う事を。アンジェロにとってミナが最重要であることは、アスタロトだってよくわかっている。
ミナに何かあったら、ミナがアスタロトの知略を以て操作されるようなことがあったら。アルカードがミナを利用して、またナエビラクのときの様にミナの心が傷つくことがあったら、そう考えたらやはり傍にいる事は出来なかった。その為にアルカードが別れさせたことも、十分にわかっていた。
ミナが傷ついて、絶望の中で命を果てる様な事は許せなかった。状況を作り出すしかなかった。紛争と言う状況を作り出したアルカード、更にその状況を利用して、大戦争を勃発させる。
そうなればアスタロトもミナに構う余裕などないだろう。亡命してきたアンジェロを利用し操ることに、必死になるはずだから。だからミナを置いてきた。今の状況では、離れてさえいればミナは安全だと思ったから。
「俺には、同情とかそう言うのはいらねぇよ。お前らと違って俺は自業自得だからな。ここまできて、もう後悔もしてねぇ。一度決めたことはやり遂げるべきだし、悲観して自分を憐れむような真似は嫌いだ。
お前達も覚悟を決めた方がいい。今更悪魔から逃げる事は不可能だ。お前らじゃ反抗しても秒殺されるのがオチだしな。それに戦争が起きたら、絶対に誰かは死ぬ。それは自分かもしれない。死ねば全部お仕舞だ。
けど生き残れば未来がある。お前らは悪魔に虐げられてばっかで卑屈になってんだろうけど、希望を捨てるにはまだ早い。戦争で勝っても負けてもとにかく生き残れば、ちゃんと何かしら報いがあるだろ。色々不満や不安はあって当たり前だけど、今は余計なことを考えてる場合じゃねぇ。さっさと全部終わらせて、家族に会おうぜ。お前達は、生きろよ」
そう言って酒の入ったカップを置いて立ち去るアンジェロの後姿を見て、兵たちも考えた。
あの人は、自分は死ぬのに人には生きろと言うのか。生き残れば、希望がある。確かに、生き残れば家族に会える。それは間違いなく希望だ。では、あの人の希望は一体何なのか。恋人の為に悪魔に寝返り魂を売り渡して、アスタロトに利用され、最早祖国にも戻れない。
なによりも、これから死んでしまうのに。自分には、あの人に希望がある様には、全く見えない。同情するなと言う方が、無理だろう。
そう考えて、アンジェロにやはり憐憫の情を抱いた兵たちは、知らない。
「おい、兵たちはもう問題ねぇ。これからは俺の指示道理動くだろうし、反乱興そうなんて考えねぇよ」
「うふふ、そうみたいですね。相も変わらず人を騙すのがお得意ですね」
「まーな。人質を殺すのは、俺達が出陣した後だ。俺らがいる間に殺して、情報が洩れたら面倒くせぇからな」
「勿論、そのつもりです。VMRも相当の戦力を集めていますから、戦争自体はかなりの時間を要するでしょう。戦争中に情報が回ってこないよう、一応手回しはしますが、ゆっくりと時間をかけて殺してあげます」
「悪趣味だな、悪魔」
「悪魔ですから」
情だとか同類だとか、そう言う物に人は弱く、すぐに騙される。多少の演技力とシナリオさえあれば、特に今の様に極限にある者には抜群の効果を発揮する。極限の状態、怒りや憎しみ、恐怖。恐慌状態や精神的に狭窄した状態で吹き込まれる言葉は、いともたやすく人の思想を塗り替える。それが、洗脳と呼ばれるものだ。
アンジェロはそう言う事をよくわかっている。ジュリオの事があったし、元々他人を操作する能力に長けてもいるし、そもそも先天的にそう言う性格だ。
それに加えてアブソリュート・ジュリスト。この点に関しては、アンジェロの右に出る者はそうそういない。
そもそもリーダーとはそういうものだ。将とはそういうものだ。どうしても戦わなければならない状況に、兵たちを引っ張りだす。強さよりも軍略よりも、将としてはその才能が最も重要だ。
―――――この男の魂を手に入れたら、記憶だけ消して、精神は残したまま、悪魔に転生させてやろう。
アスタロトがそう考える位に、アンジェロは憐みなど必要としない、修羅になった。
アリストを囲う城壁の守備兵の一人が、相方を叩き起こした。
「お、お、おい、あれ・・・・・」
「あれは・・・・・あぁ、とうとうきやがった!」
「警鐘だ! 警鐘を鳴らせ!!」
創絡5年12月24日午前0時。アリストの外に広がる平原に、その大軍団は突然姿を現した。
アスタロト以下の将兵が掲げるいくつもの軍旗。さまざまな装束を着た兵隊たち。闇にまぎれて突然現れた軍団は、夜闇に土煙を巻き上げて進撃する。
迎え撃つ国軍と同盟軍。数は20万だが、夜族や魔族、鬼族以外の種族は夜目が利かない。まだまだ遠くの平原に蠢く黒い軍団の動きが捉えられない。
夜族の一人が見張りの城壁に上った。伝令用の升麻の蝙蝠が滞空している。
「遠くてよくわかりませんが、数は10万無いと思われます。隊列が横列に展開し始めました」
蝙蝠はすぐに王宮に飛び立った。
王宮では、少なくとも警鐘は必要としなかった。アルカードの周囲には常に側近たちが控えていたし、ミナやミラーカもずっと傍にいた。
ただ、さすがにバリアを張ってもらうのは間に合わなくて、今王宮内は緊張が走っている。
ピリッと張りつめた空気の中、カツン、とアルカードの前まで歩を進めて礼を取る。
「ご無沙汰しております、ドラクレスティ国王陛下」
アンジェロが一人で、直接アルカードの目の前にやって来た。突然現れて、突然笑顔で礼を取ったアンジェロに、周囲は驚愕のあまり沈黙する事しかできなかった。
「久しぶりだな、ジェズアルド元官房長官」
「“元”でございますか? 今から私がVMRに戻りたいと言ったら、元の地位に戻れますか?」
「まさか。大体、思ってもいないことを言う物ではないぞ。今更官房長官の地位などお前には必要なかろう。今お前が来たのは、宣戦布告をしに来たのだな」
アンジェロは営業スマイルを崩し、更に笑った。愉快そうに。
「さすが陛下、何もかもお見通しの御様子で感服いたします。とりあえずご挨拶に伺いました」
そう賛辞を述べた後周囲を見渡す。
「各国の援軍の指揮官の皆様におかれましては、お初にお目にかかります。此度の戦争には、多くの贄を投入して戴き、誠にありがたく存じます。アスタロトが大層な喜びようで、悪魔たちが餌が多すぎて食べきれないと申しまして、貴国らの歓迎を大変に喜んでおります」
アンジェロの随分な御挨拶に、アレスやヘルメスをはじめとして指揮官たちは侮辱されたことに怒り心頭になった。自国の兵、自国の戦力が悪魔にとっては生贄や餌と称されたことが、とても悔しかった。
それを見てまたアンジェロは、笑う。
「ご気分を害されましたなら、申し訳ございません。私はいささか正直者過ぎまして。悪気はございませんので、お許しを」
「アンジェロ、本当にお前、裏切ったのか?」
少し淋しそうに、悲しそうに顔を歪めたアレスに、やはりアンジェロは笑う。
「ええ、聖トロイアス帝国騎士団団長アレス・サングリエ将軍。軍神と言われる貴殿のお手並みを拝見したいと思っておりました。貴殿に再会出来ましたことを、心より嬉しく思います」
「俺は、こんな風にお前と会いたくなかった」
「左様でございますか。ご期待に副えず申し訳ございません。貴殿とは後ほど改めて、戦場でお会いしたく存じます」
悲しそうに悔しそうに、そして侮蔑の色を滲ませたアレスに、やっぱりアンジェロは営業スマイルを向けて、アルカードに向き直って、再び礼を取る。
「陛下、この度私が国を裏切り悪魔に加担しましたのは、全ては陛下の行いによるところ。今更陛下も私を止めようとはなさらないでしょう。陛下とも後ほどゆっくりと時間を取らせていただきたく存じます。此度の戦争におきまして、私の思いの丈と私の手管をしかとその緑眼でご覧いただきたい。必ずや、陛下を楽しませて差し上げましょう」
「そのつもりだ。お前の働き如何によっては、新しい役職と称号を与えてやろう」
「それは楽しみでございます。称号とはなんでしょうか」
「あぁ、お前にふさわしい称号だ。裏切り者などどうだ?」
「身に余る光栄にございます」
二人とも営業スマイルだが、あまりにもギスギスした会話に周囲は胃が痛くなる。アンジェロが立ち上がったのを見て、アルカードの傍を離れてアンジェロの元へ行った。
「アンジェロ」
「ミナ、会いたかった」
近寄ると、アンジェロはそう言って強くミナを抱きしめた。
「10か月、こんなにもお前と離れてるのは初めてで、スゲェ淋しかった」
「私はもっと淋しかったよ。いきなりいなくなって、裏切って消えちゃうなんて」
「ゴメンな、後からすぐにお前の所に駆けつけるから。戦いが終わったら、ずっと一緒にいられるから」
「本当に?」
「本当。ミカの事、双子に聞いただろ?」
「うん、聞いた」
「信じる?」
「信じる」
「そか。ありがとう。お前だけは、俺の事を信じてて」
そう言うとアンジェロは体を離して、ミナの右手を取って指輪にキスをして、その場から消えた。
「アンジェロ・・・・・」
「説得をさせる気もないようだ。本当に小僧は挨拶に来ただけのようだな」
アルカードはそう言って溜息を吐いて、実際短い会話だけで消えてしまったアンジェロの事を思うと、説得は不可能だと諦めざるを得ないようだった。
ふと、指揮官の誰かが考えた。ミナとアンジェロは恋人同士だ。ミナを殺害すると脅せば、アンジェロの勢力だけでも失われるのではないか、と。
そして、アルカードに提案した。
「何も本当に捕えたり、殺したり怪我を負わせたりというわけではございません。彼女の存在は、一時的でも敵方を混乱させるには十分に効果があるはずです」
その提案に、アルカードは首を横に振った。
「逆効果だ。混乱などするものか。いよいよ本気になって、再び入城された際にはここにいるほとんどが殺される。奴にとってミナより価値のある者は存在しない。奴はミナ一人の為に私に牙をむくほどなのだから、他の者など話を聞くまでもなく雑作もなく殺す。その考えは甘い。ミナに指一本触れるな。ミナは小僧にとって、起爆剤だ」
「それほどまでに、脅威なのですか」
「あぁ、脅威だ。脅威だとも。随分昔の話だが、奴の父がミナを殺そうとした。奴はミナの為に、心底尊敬し愛した父すらも殺した。それほどの覚悟だ。それほどの意志だ。奴の精神を揺るがすことは容易ではない。下手に刺激すれば、こちらが痛い目を見るだけだ」
「・・・・・わかりました」
アルカードもわかっている。指揮官たちの考えもわかる。その考えこそが、ミナが人質だとされる原因の一つだ。アンジェロにとって、間違いなくミナは弱点になる。弱点になると同時に、爆発の引き金となる。
もし何者かの手にかかってミナが殺されでもしたら、きっとアンジェロはその敵や加担した者を全て抹殺する。敵や敵の家族、友人、敵を知る者、国民、国家、財産、全てを破壊し奪い取る。
それで満足するのはアンジェロだけ。それ以外の者は更なる報復に晒される。そうなっては困るのでアルカードは二人を別れさせることにした、というのもあるのだが、ミナとアンジェロが元鞘に戻った以上は、ミナを、この不可触の災厄の女を、アンジェロともう一度再会するまでは無事に守り抜かねばならない。
―――――あぁ、本当に、私の眷属は二人ともとんでもない爆弾だ。
アルカードは心中で自分を取り巻く環境を嘆いたが、嘆いていても仕方がない。伝令用蝙蝠が、現状を伝えにやって来た。
《敵襲! 敵襲! 敵勢は10万以下! 横列に展開!》
報告を聞いて、すぐに作戦会議に入る。蝙蝠は指令を待つ間升麻の肩に止まっている。
「なるほど、包囲する気か。10万以下とはいえ、この軍勢で包囲されてはひとたまりもない」
「はい、包囲されてしまっては、いくらこちらが大軍を用意しようとも、そのほとんどが機能しません」
「ならば包囲を阻止せよ。城外の近隣の街に配してある連合軍は戦車隊を。国軍は砲撃を浴びせろ」
「はっ」
この世界の文明では、現代人が想像する戦車などはない。この世界で言う戦車とは、2~3人乗りの荷台がついた、馬が引くものだ。
アリストがある土地は、だだっ広い平原だ。戦車戦には適した地形。だが、それ以外では決して面白くはない。策を練ろうにも山岳もまともな丘陵もない。しかも敵はアリストの向こうにある湖の手前に陣形を構えた。
湖の周囲には当然川がある。敵は川に包囲されている。すなわち背水の陣。
悪魔の軍勢は攻勢しかない。背水の陣の為に、退却することはあり得ない。錐方の陣で布陣した敵軍は、アリストに近づくにつれて徐々に横列に展開する。
アリストから出す国軍は、包囲を阻止するためにそれぞれ師団を分隊とさせて、各々方陣を敷く。
湖のある西側の各門から出撃した軍は、防衛線を引くように横列に展開。悪魔軍は錐陣を後方から徐々に横列に展開させていく。
ここで、枸橘は作戦を逸った。指令は包囲の阻止。別働隊として待機させていた戦車隊を南側から敵の横にぶつけ、国軍の騎兵隊を北側からぶつけた。その作戦は防御策としては常套だったが、悪魔軍の横列展開は実にゆっくりだ。要するに、横列展開は阻止したものの、錐陣は未だに保たれている。
悪魔軍の北側と南側は薄く、すぐに壊滅状態に陥る。しかし、中央部分は未だに厚く、鈍角の二等辺三角形の陣形は鋭角の二等辺三角形へ形をかえて、一気に西側正門へ進撃を始めた。
「しまった! 包囲作戦じゃない! 一点集中の突破攻撃だ!」
薄く横に広がった陣形を取った国軍は、厚めの陣形で一気に流れ込んだ悪魔軍に圧倒され始める。
逆にここは悪魔軍を包囲しやすい陣形でもあるが、悪魔軍の方は湖と川を背にしているために、援軍の包囲網の方が到着に手こずっている。
「焦るな、枸橘。そう心配することはない」
約束通り、アリストにはヘルメスのバリアが張ってある。出ることはできるが、入ることはできない、逆止弁のようなバリア。
「背水の陣はこちらも同じ。北、南、双方向から戦車隊で討って出ろ。それと、西の湖に待機させている水軍は可能な限り静かに湖岸に近づき、背面から矢で一斉射撃に入れ。敵の宿営地には火矢で火を放て」
「はっ!」
無線を離して、ふぅと息をつくアルカードに、光る珠のついた杖をついたヘルメスが不思議そうに視線を送る。
「陛下、それなんですかー?」
「これは無線と呼ばれるものだ。一定の範囲内なら通信が可能だ」
「魔法ですか?」
「いや、科学の産物だ。電波と言う目に見えない波を飛ばしている」
「へー、よくわかんないけど、科学ってすごいですねー。魔法と見分けつかない」
「お前の魔法もすばらしい。伊達に世界最強ではないな」
城の外からも見える、ヘルメスの張ったバリア。水の幕が張られたようにドーム型にアリストを覆い、それに接触した木の葉や虫が一瞬で蒸発する。
「そりゃね。魔法なら誰にも負けませんよ。けど科学はスゴイなぁ。科学と魔法はどっちが強いんだろ」
「さぁな。それを試した奴はまだいないだろうから、わからない」
「これからそれが見れるわけですよね?」
「あぁ、そうだ。こちらは優秀な科学者が大勢いるのでな。科学と、悪魔の魔術と魔法、どちらが強いか。それを証明するいい機会になりそうだ」
「その場に立ち会えるオレはラッキーですね。今回の戦争の戦記でも書こうかな」
「そうしろ。せいぜいこの戦争に携わった者達の悪評を広めることだ」
ヘルメスは「バレたか」という顔をして笑っているが、この防御魔法はかなり高等なものだ。並の魔術師なら発動する事すらできないし、仮に発動できたとしてもこれほどの広範囲を防御することも、また維持することも難しい。もってせいぜい10分と言ったところだ。
―――――科学も素晴らしいが、魔法も素晴らしい。こちらでも魔術師を育成すべきだな。
今更だと思うが戦争中に新たな軍事方針を考え出したアルカードは、戦場に視線を戻した。
敵の軍勢は、ほとんどが装甲歩兵団。種族がバラバラなところを見ると、どこかの国の捕虜たちで構成された兵団だ。
悪魔たちは騎馬だったり、ドラゴンや魔獣に乗っている。そうして歩兵団を指揮したり、後方で後衛に入っている。
―――――おかしい。悪魔の数が少ない気がする。
そもそも悪魔たちの人口を把握してはいなかったが、それでも少なく感じた。
―――――後半戦で精鋭をぶつけてくる気か。となると、首都に侵入する算段はあると言う事だ。ヘルメスの魔法を破れると思っているのか、そもそもヘルメスの防御を想定していなかったのか。
わからないが、まだ兵を隠し持っていると考えてよさそうだ。となると、次に攻撃してくるのは東側だ。それすらも先遣隊かもしれない。こちらが士気をどれほど保っていられるかが問題だな。
そう考えて、次の手を打つために指示を始めた。
その頃ナボックの砦では、アスタロトが戦況を覗いていた。
「あの男にはこっちの意図はある程度読めてると思うぜ。作戦変更しなくていいのかよ。退却って手も使えなくはねぇぜ」
「退却? まさか。人間と獣人とディアリが大多数の兵を相手に退却? そんなことをしたら私は悪魔族の笑い者です」
「ま、そーだよな。単純に種族の力量で見たら悪魔族は最強なんだ。切り札もいる事だしな」
「ええ。彼らの協力を得るのには非常に苦労しましたが、この戦争は、間違いなく我々が勝利しますよ」
「ハハッ、まぁ、アレを見たら誰だって逃げ出すだろうな」
アンジェロとアスタロトが見つめる先には、武装した一つの兵団がある。人数は大したことはない。約30名少々と言ったところだ。それが切り札。
「切り崩すにはもってこいだ。アレならバリアも突破できるかもしんねぇな」
「そうですね。彼らが全滅した頃には、バリアにも多少の穴位は開くでしょう」
「多少かよ」
「彼らから見て多少なら、他の者から見れば大きいでしょう」
「ま、そうだな。なんてったって、巨人族だ」
アスタロトが協力を要請した種族、巨人族。オーガと呼ばれる彼らは、氷に覆われた島に住んでいる。その島、その国土を人質に取られた。
炎を以て島全体を焼き尽くす。永久凍土に覆われた島が解凍されてしまえば、島は沈没する。国土を守るために、巨人族の精鋭が戦争に協力を示した。
「大きいことはいい事だ。特に力対力の場面ではな」
「そうですね」
悪魔は勝利を確信する。圧倒的な力、圧倒的な能力、圧倒的な殺意。蹂躙される小さき者が目に浮かぶ。
「せいぜい足掻けばいい、吸血鬼。私を敵に回した時点で、既に負けているとも知らないで。うふふ、可笑しい。うふふふ」
悪魔の嘲笑が、白み始めた空に響いた。
★戦争は常に人間の最悪の部分を引き出す
――――――――――映画「シンドラーのリスト」より




