駿馬をつくるのは手綱と拍車
【ガキども、今夜から俺の事は籠絡王と呼べ】
【お父さん何言ってんの】
【意味わかんないよ】
【わかれよ、バカ。ミナが俺にオチたっつってんだよ】
【マジで!? ヤッター!】
【さすがお父さん! いや、籠絡王!】
【ハハハハ、まーな。今からヤるから、ちょっと黙ってろ】
【そんな報告いらないよ】
【ていうか、オトしたばっかだよね? 手出すの早いよ!】
【バカ。即手出して、その後一切手出さねぇんだよ】
【なんで?】
【そしたらお母さんが大事にされてると思う?】
【それもあるけど、俺が興味を失くしたと思って兢々とする】
【うわっ、お父さんワルいね】
【両方か・・・・・それでお母さんの頭の中お父さんでイッパイにしようって言う作戦?】
【その通り。で、しばらくしたらまた手出しまくるから、翼お前なんかミナにカマかけろ。男の匂いがするとでも言って】
【あぁ、なるほど。わかった】
【ていうかコレ親子の会話じゃないよね】
【確かに・・・・・】
【うるせーな。あぁっ、今日という日をどれほど待ち望んだか! もう今日は俺の1年2か月分の抑圧された愛を全解放して、アイツの体に思い知らせてやる!】
【・・・・・手加減してやってね】
【・・・・・頑張ってー。ていうかお母さんが頑張って】
これからミナに待ち受けている地獄を思うと、ミナに同情を感じつつ、双子はアンジェロとのテレパシー通信を切った。
今日はアンジェロとミナが誕生日デートで、「絶対今日オトしてくる!」とアンジェロが言うので、二人で翼の家で報告を待っていたのだが、喜んだのもつかの間、一気に雰囲気が生ぬるくなってしまった。
「お父さん前から言ってたもんね・・・・・」
「お母さんがオチたら仕返しに絶頂地獄に落として、失神させてやるってやつ?」
「それそれ。なんかお母さん可哀想じゃない?」
「うーん・・・・・まぁいいんじゃない。お父さんだし」
「だから怖いんじゃん! 僕あのお父さんの息子だと思うと、なんか変な英才教育されてるような気がして怖いんだけど!」
「・・・・・まぁ、勉強にはなるよ」
籠絡王に恐れを抱いた双子だったが、ミナが目論見通りアンジェロにオトされたことはやっぱり嬉しいようで、また4人で親子が出来る日がやってくるのだと思うと、喜ばずにはいられない。
が、問題なのはアンジェロの元彼女の存在だ。
「お父さん、“ミカ”にメロメロって言う設定なんだよね。お母さんは“ミカ”が自分だなんて思ってないし、それを口で言ったところで信じないと思うんだけど、どうするんだろ?」
「うーん、どうするんだろうね? ていうか、それはいつ話すんだろう? お父さんの口ぶりじゃ、すぐにはネタ明かししない感じだったけど」
「わかんない。本当お父さんって何考えてんのかわかんない」
「怖いねー、僕らの父は」
「まぁ、お父さんの事だからどうにかするんだろうけどさ」
その答えが出てくるのは、まだ先だ。
11月に入って、ミナはまんまとアンジェロの策略に引っかかっている。
誕生日の後、一度アンジェロはミナに会いに来て、その際はミナに指一本触れずに、その後は一度も会いに来ない。
以前はミナやアンジェロがお互いに休みを合わせたり、ミナが休みの時にアンジェロが休憩中に会いに来たりしていたのだが、パッタリとなくなった。
会いたいと我儘を言って鬱陶しがられるのが怖くて、それも言えないし、かといって大人しくしていてアンジェロが離れていくのも怖い。
―――――どうしたらいいの。好きって言った途端会えなくなるなんて、やっぱりアンジェロは好きになったこと怒ってるのかな。私の事嫌いになっちゃったのかな。私捨てられちゃったの・・・・・?
そうしてミナが悲嘆に暮れて、元気がないようだとアンジェロの耳に入ってきた頃に、アンジェロは喜び勇んでミナに会いに行く。
「ゴメン、最近忙しくて。ミナ、会いたかった」
そう言って優しく抱きしめて、頭を撫でて、キスをして、優しくして甘やかして、
「お前に会えない間、俺も淋しかった」
だの
「お前がいない日常はつまんねぇ」
だの
「俺にはお前が必要だ」
だの、ゴチャゴチャと甘いこと(アンジェロの本音だが)を言ってミナを手なずける。その後は足しげくミナと会ったりデートしたりするものの、決してミナに好きだの愛してるだのは言わない。
アンジェロにはミナが必要だけど、それは恋じゃないんだぜ、的な事を思い込ませて、
―――――アンジェロは私を必要としてくれるし、私も傍にいられて嬉しいけど、アンジェロに愛されることはないんだな・・・・・でも、いいもん。傍にいられれば、それだけで幸せ。
とか思わせて、まんまとミナの頭の中はアンジェロでイッパイだ。
「全く・・・・・お前も大した奴だな」
「まーな。だって俺だし。ミナには俺しかいねぇんだよ。苧環にも他の奴にも、アンタにもミナは無理だ。アイツを本気で愛して、本気で愛される男はクリシュナさんと俺しかいねぇ。賭けは俺の完全勝利だ。約束守れよ」
「・・・・・仕方がない」
ぶっちゃけアルカードも驚いた。一度は夫婦をしていたんだから、もしかしたらミナが再びアンジェロになびく様な事があるかもしれないとは思っていたが、今のミナは以前よりも完全にアンジェロに傾倒してしまっている。
その証拠に、先日ミナとアンジェロはケンカをした。
ミナは気になって仕方がなかった。アンジェロが魂を売り渡す程に愛した女性を、何故裏切ったのか。その裏切りとはなんなのか。
尋ねてみると、アンジェロはアスタロトを呼び出した。出てきたアスタロトは、アンジェロ用に気遣いでもしたのか、女の格好だった。
「あなたが呼び出すなんて、珍しいじゃありませんか」
「最近はな。で、ミナが俺がミカを裏切った真相を知りてぇんだと。あぁ、言っとくけどミナの願いを消費すんなよ。ミナに真相を知ってほしいっていうのは、俺の願いだからな」
「いいでしょう。真相を憶測ではなく確たるものにしたいのは、あなたの方でしょうからね」
「まぁな」
当然、アンジェロは離婚する羽目に陥ったのが、自分のせいじゃないことには確証を持っていた。絶対、悪魔かアルカードか、どちらかの策略の為だと確信があった。
なにしろ、浮気をした記憶はあるものの、そこに至った記憶はないし、それ以上にあり得ないと言う絶対的な自信があったからだ。
そうして、アスタロトは二人の額に掌を置いて、映像を流し始めた。
酒場で不良仲間と酒を飲んでいるアンジェロに、謎の女が声をかける。
「この人は、ミカさんじゃないの?」
「違う。けど、コイツだ」
しばらく女がアンジェロに話しかけていたが、アンジェロは完全無視だ。
が、不良仲間たちに
「知事、奥さんが大好きなのは分かるけど、女を敵に回すと厄介だぞ」
とせっつかれて、仕方なしに会話を始める。
不良仲間たちはディアリだったりが多かったので、酒に酔い始めた仲間たちは徐々に帰宅していく。
人が少なくなってきた頃に、アンジェロと視線を合わせた謎の女の目が妖しく光り、その瞬間からアンジェロはぼうっとして、フラフラと女と共に店を後にし、二人で家に入る。
すぐに謎の女が服を脱ぎだして、アンジェロも服を脱ぎ、再び女の目が妖しく光る。
「恐らく、この時にアンジェロさんの記憶を改竄したのでしょう」
「そうみてぇだな」
その後アンジェロはそのまま寝入ってしまい、謎の女も同じベッドに入る。しばらくすると居間から物音が聞こえる。ミナが帰宅したことに気付いた謎の女は、アンジェロを覚醒させ、自分は狸寝入り。
目が覚めたアンジェロが状況を把握して、謎の女を起こして、二人で服を着ているところに、ミナ登場。
黒いパフスリーブのブラウスに、ミニのタイトスカートの、ストレートロングの黒髪の女。後姿で、顔は見えない。
「この人が、ミカさん?」
「そ」
ミナが登場して、アンジェロと女は更に大慌て。しばらくしてミナが何か(後ろ姿で見えないがデュランダル)を取り出すと、女は慌てて窓に向かう。そして、窓から逃げる瞬間、ニヤリと笑い、去っていく。
「もしかして、ミカさんは浮気をしたって思い込まされて、それでアンジェロに裏切られたと思ってる?」
「そういうこと」
その後追っているのは謎の女の足跡。謎の女は窓から出た後、転移する。転移した先は、ミナもよく知っている場所だ。
「あれ、この部屋・・・・・えっ!?」
部屋に到着した謎の女は服を脱いで、それを暖炉に放り込み火をつけて、すぐに着替えて、変身した。元の、アルカードの姿に。
それからすぐにジョヴァンニとアミンがやってきてアルカードの世話をし始めて、しばらくするとミナがやってきて、アルカードに泣き縋り始めた。
「これが、アンジェロさんの裏切りの真相ですよ」
「あー、やっぱりな。そんな事だろうと思ったぜ」
「用件はこれだけでしょうか?」
「あぁ、またなんかあったら呼ぶかもしんねぇ」
「クス。そうですか。お待ちしてます」
アスタロトが消えてしまってアンジェロと二人残されて、ミナは呆然としてしまった。
アルカードがなぜそんな事をしたのかはわからないが、アルカードの策略のせいでアンジェロがどれほど傷ついて悲しんだか、ミナにはよくわかっていた。
「なんで、アルカードさんはこんなことしたの・・・・・?」
「俺とミカがくっついてると色々不都合があってな。それは俺もわかってはいたけど、俺は都合なんかよりもミカを優先したかったし、ヴラドもそれは理解してくれてると思ってたんだけど・・・・・ま、油断したな」
「ミカさんは、本当の事を知らないんだよね? 今でも」
「そうだな。俺も必死になって説得しようとしたし、俺も最初は自分が浮気したと思い込まされてたから謝罪したりしたけど、最終的には話も聞いてくれなくなって、避けられて、一切会えなくなった」
「アンジェロは、ミカさんを大事にしてたんでしょ? アンジェロの言う事、信じてあげればよかったのに」
「目の前で浮気現場見せつけられたら、信じる方が無理じゃねぇか。俺すら思い込まされてたんだから、そりゃ怒って当然だ」
「でも! アンジェロは何も悪くないじゃん! 本当にアンジェロの事が好きなら、信じてあげなきゃいけないんじゃないの!?」
「黙れ。ミカも何も悪くねぇよ」
「だけど・・・・・!」
「黙れっつってんだろ!」
怒号に、身が竦んだ。
アンジェロもミカも何も悪くない。悪いのはアルカードだ。
ミナにはよくわかってる。アンジェロのミカへの思い。アンジェロがミカの為に魂を売り渡した事は聞いた。ミカを思うが為にミナと心中しようとした。それほどの想いをアルカードに引き裂かれて、ミカはアンジェロを信じないでいなくなってしまった。
悔しかった。それほどまでに愛されたなら、自分なら何があっても、絶対にアンジェロを信じるのに。ちゃんとアンジェロの話を聞いて、ずっと信じて傍にいるのに。アンジェロに愛されたなら、ミカの様に消えてしまったりはしないのに、未だにアンジェロはミカを思って、ミナの言葉を拒絶した。
ミナは本当にアンジェロを好きなのに、アンジェロは未だにミカを愛していて、アンジェロを信じないで消えてしまったミカを庇って、アンジェロを弁護したいが為にミカを罵倒しようとしたミナに怒りを向けた。
アンジェロにしてみれば、ミナもミカも同一人物なのだから、今更ミナに何を言われても、「何言ってんだ、お前だろ」としか思えない。
が、ミナがミカに対して怒りを向けたことで、確信した。
―――――今のミナは、以前のミナとは違う。愛されることよりも、愛することに溺れてる。
そう言う確証を得て、随分前にアルカードとした賭けの勝利を確信した。それに、アンジェロの為にミカに対して激昂したミナの愛に、舞い上がりそうな喜悦を感じた。
「怒鳴ってゴメン。お前が俺の為に怒ってくれたのは嬉しいけど、ミカも騙されただけで、何も悪くはねぇんだ」
「・・・・・ごめんなさい」
「謝るなよ。お前だって悪くねぇんだから。俺の為に怒ってくれて、ありがとな」
そうしてアンジェロが許してくれてミナを抱きしめてくれたものだから、ミナは猛烈に自分が恥ずかしくなって、アンジェロがミカに心酔していることはわかっていたはずなのに、安易に責め立てようとしたことをひどく恥じた。
この件で色々と確証を得たアンジェロは、眷属電波で筒抜けなアルカードに、わざわざ報告にやってきて、アルカードも敗北を認めざるを得なくなった、というわけだ。
「わかった。私の負けだ」
「約束は守れよ。今後一切、俺とミナを引き離そうとするな。一切手を引け。ミナはこれまでもこれからも、俺の女だ。アイツは誰にもやらねぇし、アイツは俺しか愛せない」
「・・・・・わかった」
「フン、さっさと分別付けろ。大体アンタのは純愛じゃねぇんだよ」
「何?」
アンジェロの言葉に、アルカードは眉を顰めて睨む。が、アンジェロはそれを笑ってかわす。
「アンタのは男女の愛―――――純愛じゃねぇ。さっさと見極めて、王妃に純愛を向ける努力でもしやがれ」
「お前に、私の何が分かる?」
「わかんねぇよ。けど、俺と似てるけど、同じじゃない。それだけは確かだ。なら、一つしかない。アンタがミナの為に俺に嫉妬する理由は、純愛だけじゃ足りねぇからな」
アルカードは黙り込んでしまって、何も答えない。
「わかってんだろ、本当は。俺はミナを守りたい、愛したい、愛されたい、抱きたい、甘やかして可愛がっていつも手元に置いておきたい。それは間違いなく純愛だ。
でもアンタは違う。試練を与え、優しい環境を整え、愛し、励まし、奮い立たせ、叱り、学ばせ、導く。それは確かに愛だけど、純愛じゃない。それは―――――慈愛だ。
駿馬をつくるのは手綱と拍車。アンタのは、まさにそれだ」
アンジェロは一方的にそれだけ言って笑い、アルカードの前から消えた。
「駿馬をつくるのは手綱と拍車」。西洋の諺だ。意味は、可愛い子には旅をさせよ、と同じようなものだ。若いころ、幼いころから厳しく躾け、良い習慣を心掛けさせることで、いい人間性に育て上げる。甘やかしては子はダメになる。親の厳格かつ清廉な鍛錬によって、良い人間を育て上げるべき、そう言う格言。
ミナとジョヴァンニはずーっとそう思っていたのだが、アンジェロにもそうとしか思えなかった。アルカードがミナに向ける愛は純愛じゃない。あれは、父性愛、慈愛だ。
愛されることを望んでいるが、欲してはいない。ミナを手元には置きたがるが、無闇に手を付けようとはしない。
何よりもミナを守ったり甘やかしたりする事より、多少厳しくても精神を鍛錬させ、学ばせ、導く事を優先させている。それは間違いなく、親の務めだ。
守ること。それはアンジェロの純愛。導くこと。それはアルカードの慈愛。
哲学の世界において、愛には3種類の愛がある。自分の半身を追い求め、愛を追いかけ欲するのは純愛だ。
親が子に注ぐように、一方的に愛を与えるのは慈愛だ。家族や友人を、自分を愛するように愛することは、友愛だ。
この3つはどれも同じ“愛”というカテゴリに分類されるため、人は時として、自分の持つ愛が純愛なのか、慈愛なのか、はたして友愛なのか、わからなくなってしまう時がある。友愛が純愛に変わることもあれば、純愛が更に慈愛に昇華することもある。
この3つにはそれぞれ到達すべき点と言うのがあるが、その頂点に達すれば達するほど、人は見分けがつかない。愛に慣れていなければ、慣れていないほど。
それをアンジェロはアルカードに指摘したのだ。
「可愛い娘を余所の男に取られるのが許せない、父心だろ?」
と。アンジェロも確信があったわけではなかったが、クリシュナを許していたこともあったし、双子の事もあるし、ミナがアンジェロを愛した以上は、本当にミナの為を思うのならアルカードは間違いなく敗北を認めて引き下がるだろうと思っていたし、実際そう言う約束を結んで、約束を守ると宣言した。それで、確信できた。アルカードの愛は、慈愛だと。
勿論、それでアルカードが素直に納得するとは思わなかったが、ミナがアンジェロを愛してしまった以上は、アルカードも他の者もどうしようもない。あとは、チェックメイトを差すだけ。
―――――ミナはもう、俺のモノだ。完全に。何があっても。あとは、復讐だ。下らねぇ策でミナを泣かせて俺を苦しめた代償は、しっかり払ってもらう。
アンジェロとミナが秘密の付き合いを始めて4か月後の創絡5年2月。アンジェロがミナに会いに来た。
「前から思ってたけど、堂々と後宮に侵入して来るなんて、アンジェロも大胆だね」
「後宮が男子禁制なのは、他の男が妃に手を出したら困るからだ。俺が会いたいのは王妃じゃなくて、お前だからいいんだよ」
「アルカードさんにはバレバレなのに。何度も怒られてるんじゃないの?」
「知るか」
多分何度も説教されていると思うのだが、それでも毎回「関係ねぇ」と言ってミナに会いに来てくれることは、すごく嬉しい。
その日あったことや会えなかった間の事を話して、双子の事や仕事の事を話したりして、笑って、少しケンカを挟んで、キスをする。そう言う時間が、宝物のように思える。
その日、アンジェロが初めて言った。
「ミナ、好きだよ。世界で一番愛してる」
嬉しくて、嬉しくて、涙が溢れてきた。仮にその言葉がウソでもいいと思った。ウソでも、ただの代理でも、そう言ってもらえた瞬間から、生きながら天国に行ける。
アンジェロは泣き出したミナを優しく抱きしめて、頭を撫でてくれる。
「何があっても、どこに行っても、俺はお前だけを見てるから。これから先何があっても、お前だけは俺の事を信じていてくれるか?」
「・・・・・うん、信じる」
「そっか。よかった。約束な」
「うん。約束する」
返事をして顔を上げると、アンジェロは涙を拭って、優しくキスを落として、帰って行った。
アンジェロが帰った後、アンジェロの座っていたところを見ると、紙切れが落ちていた。
「忘れ物・・・・・?」
拾い上げて見て見ると、写真だった。
「・・・・・これ、どういうこと?」
写真に写っていたのは、まだ赤ん坊のミケランジェロを抱くミナと、翼を抱くアンジェロ。笑顔で寄り添い、アンジェロの肩に頭を預けるミナ。二人の左手の薬指には、同じ意匠の金細工の指輪が光っている。
―――――私にソックリ・・・・・この人が、ミカさん? でも、翼が・・・・・これは、似てるんじゃない。まさか、私?
記憶を失ったミナは激しく混乱した。混乱してしばらく考えたが、わからない。
すぐに確かめようと、アンジェロの元へ転移した。
「アンジェロ、アンジェロ!」
家は真っ暗だった。明かりも付けられていないし、人の気配もしない。アンジェロはいないようだった。
なぜかはわからない、虫の知らせとでもいうのか、急に胸騒ぎがした。アンジェロをすぐに見つけないと、なぜか、大変なことになるような気がした。
すぐにミケランジェロの元も訪れた。翼の元にも行った。山姫の所にも、クミルの所にも、クリスティアーノやジョヴァンニ、アルカードの所にもアンジェロはいない。
「アンジェロは、どこにいるんですか!?」
必死にアンジェロの行方を尋ねるミナに、アルカードは首を横に振った。
「どこにも、いない」
この日を境に、アンジェロはVMRから、姿を消した。
★駿馬をつくるのは手綱と拍車
――――――――――西洋の諺




