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コントラクト 3 ―宿命の契約―  作者: 時任雪緒
第5章 この手で掴む、五風十雨
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役職とは権力ではない。責任の所在を示している



・一度戦争をした国同士が、必要に迫られない限り国交を持つ必要はない。

・毅然とした態度で臨み、無闇に下手に回ってはならない。あくまで対等であるべし。

・かといって、相手を侮辱したり軽蔑してはならない。

・賠償や援助を与えれば、相手が許すと思ってはならない。

・寛容と忍耐をもってすれば、関係が好転し親交が深まる、などと思ってはならない。

・恨み、憎しみ、軽蔑、この3つ以外ならどう思われても構わないが、この3つだけは絶対的に避けること。



 会談に臨む前、アルカードに言われた注意事項。

 正直ミナとしてはリザードマンの顔を見たら、条件反射で土下座しそうな気分だ。

 ゴア将軍をはじめとする、ナエビラク連合王国の各将軍たちと共に、アンジェロとクリスティアーノが各王に真実を話し、説得をし、会談への出席を申し入れた。

 時間はかかったものの、全員が出席してくれることとなって、オキクサムの市庁舎で会談が開かれることとなった。

 ナエビラク連合王国の国民たちは種族語しか話せないようだったが、将軍や神官、宰相、国王など高位の者達は一応共通語の勉強もしていたようで、会話には問題はないと言う事だった。

 会談に出席するのはアルカード、山姫、クリスティアーノ、ミナ。そしてナエビラク連合王国の5王と各宰相、そして各将軍。アンジェロが会談の進行を務めることになった。



 王冠を被った連合国5王と宰相、アルカードもちゃんと正装し、ミナ達も同席した。ちなみに普段アルカードは、部下にはスーツ着用を義務付けている割に自分は好きな格好をしているし、パルダンメントウムも王冠も鬱陶しいと言って絶対しない。こういう会談の場や、正式な国事でしか着用しない。

 こういう時用の正装、真っ赤なパルダンメントウムの下は、立襟燕尾服の軍服だ。一応この衣裳はアンジェロ達にも支給されている、高級将校用の軍服である。

 支給されている軍服は、国王アルカードは高位の象徴である濃い紫“ロイヤルパープル”、アンジェロや山姫たちは元帥クラスとなるので、鼠色がかった藍色をした“勝色”、閣僚たち将軍クラスは死を伝える色“薄墨色”。

 その下の階級は立襟の軍服ではなくフロックコートの軍服、その更に下は作業着風の軍服になり、陸軍は茶色系、海軍は青系。その内空軍も作る気らしいが、軍カラーは未定だ。

 階級によって色分けされていて、たとえば陸軍は煤竹色、檜皮色ひわだいろ焦香色こがれこう黄櫨染こうろぜん、伽羅色、というように、濃い色から階級を下るごとに薄くなって、一番下の階級は亜麻色のジャージである。

 ジャージかよ、と思われたかもしれないが、実際に体を動かすのに楽な格好と言えば作業着とジャージだ。

 元々この国の国民は、高位の者でないとまともな服すら着ていなかった。男は裸足で腰布一丁。それに比べたら随分マシだ。

 下階級の国軍を一見したら、どこのヤンキー集団(しかも90年代)だ、とミナは思ったものだが、見慣れてしまえば何のことはない。最早ジャージが軍装にしか見えなくなっている。

 余談だが、軍服に使用されている繊維は、人間たちは綿や麻を使用したものであるが、それ以外の種族、主に化け物たちの物は、アスベストを使用している。

 アスベストは耐久性、耐火性、耐摩耗性、耐薬品性に優れ、非常に頑丈な鉱物繊維だ。

 ちなみに人間には有害だ。現在日本ではごく一部の例外を除き、一切の製造・輸入・使用・譲渡・提供が禁止されている。

 が、化け物なので関係ないとなれば、これほど重宝される繊維もないと言うわけだ。


 ミナはというと、そもそもミナは戦争が起きても戦いに出る予定はなかった。例の“オペレーション・ヴァルプルギス”の事もあるので、アンジェロもアルカードも、本当ならミナを二度と戦争に巻き込みたくはなかったのだが、この戦いに関しては急を要したため、どうしても状況的には仕方がなかった。

 なので、軍服の支給がなかったミナは、結局仕事用の正装、白衣とスーツだ。山姫も軍服支給でそれを着ているが、女性将校用の膝丈スカートだ。

 そんな凝った服は当然ナエビラクにもなかったらしく、パルダンメントウムが権威の象徴なのは世界共通のようだったが、とりあえずミナ達のガチガチの格好を見て王達は驚いていた。


 そうして一先ず文明の高さで国力の強さを見せつけて、5王を圧倒することは出来た。全員が席について、アンジェロが会談を仕切り始めた。

「ではお集まりの皆様、まずはお食事をお楽しみください」

 目の前には大量の御馳走が並んでいる。当然5王は入ってきた瞬間、それにも面喰っていた。

 何故食事会なのだと疑問に思ったのも当然だが、

「腹が減っているとイライラして、纏まる話も纏まらない。ある程度腹が満たされると、精神的にも落ち着くものだ。交渉は食後に限る」

 というアルカードの提案によるものだ。

 リザードマンは肉食と言うわけではなく、雑食のようだ。一応好みとかはあるようで、肉が好きだったり虫が好きだったり、魚が好きだったり植物が好きだったり。結局のところ人間と大差はない。

 吸血鬼達が食事を始めたものだから、5王達も戸惑いながら食事を始めた。



 食事が終わり、やっとのことで本会談が始まった。

 5王の一人が、最初に口を開いた。

「我々は、恐ろしい過ちを犯してしまった。しかし、わかっていただけないか。我らは皆、次代の王、我が子を失ってしまった。あの様な・・・・・あの様な死に方を・・・・・」

 切実な訴えに同調するように、各々王達が口を開く。

「我々が鎖国していたのは・・・・・戦争など、もう二度としたくはなかったからだ」

「信じても、いずれは裏切られ、淘汰されるもの。それならば、誰とも最初から繋がらなければ、それで済む話だ」

「なのに、我々がっ・・・・・民草が、余の娘が、一体何をしたと言うのだ!」

「何故・・・・・何故貴国の為に、我々が被害を被らねばならなかった!?」

 痛切な訴え、親として、国王としての嘆き。ミナから見ても、この連合王国の5王は立派な為政者であり、親だ。

 直接手を下したのはVMRではない。しかし、彼らの言う通り、ナエビラク連合王国が襲撃された原因は、VMR―――――ミナとアンジェロとアルカードが、アスタロトを敵に回したためだ。

 彼らは、VMRを恨みたいわけではない。悪いのはアスタロトだと言う事はわかっている。敵は同一なのだから、ナエビラク連合王国とVMRが敵対することは反って不利になると、十分にわかっている。

 それでも、やらずにはいられないのだ。

 国と、子供と、民の為に嘆くこと。怒り、涙すること。そうせずにはいられない。

 胸の内に籠る悲壮と怒りをどこかにぶつけなければ、どうにかなってしまいそうで。

 そうしたところで、今更どうにもならないことはわかっている。兵や民を死に追いやったことはお互い様だとわかっている。その訴えが理不尽だと言う事もわかっている。

 それでも、嘆かずにはいられない。アウェパトリオータ。真に国を思う者ならば。

 


 王達の嘆きを聞き、アルカードは少しの間瞳を伏せ、視線を上げて王達を見渡した。

「貴国の王子殿下、並びに王女殿下が亡くなられた事には、お悔やみ申し上げる。此度の戦いの戦死者、殉死者の為、我が国の方から慰霊碑を建立させていただき、我々も喪に服させていただきたく思う」

 アルカードの言葉を聞きながら、王達は卓上に視線を移して沈黙している。その様子を視線で一巡して、アルカードは続けた。

「しかし、不思議には思われないか」

 その問いかけに、王達は視線を上げた。

「我が国と貴国らが手を組むことは、アスタロトにとっては不利になるはずだ。遅かれ早かれ、真相が明るみに出てしまう事も、この戦いがすぐに終息することも、予想しえなかったはずがない。そうは、思われないか」

 幾人かは顎を撫でたり唸ったりしながら、考え始める。

「何故貴国を襲撃した際、VMRの名を騙らなかったのか。鎖国をしていたと言う事情を踏まえたとて、我が国の名を出し、貴国が調べればすぐにわかることだ。そして、我が国に攻撃を仕掛けてくれば良かっただけのこと。なぜ、アスタロトがわざわざ自らに恨みを買うような真似をする必要が?」

「確かに・・・・・そうだ。真相が明るみに出た以上、我々と貴国らが敵対する理由はない。それどころか、共闘の盟約を結んでも良いとすら思う」

「それは、アスタロトにとっては不都合なはず・・・・・いくらアスタロトが強敵とはいえ、無闇に敵を増やそうとするとは、考えにくい」

「これは、一体・・・・・? ドラクレスティ陛下は、どのようにお考えに?」



 王達の疑問の視線に、アルカードは身を乗り出して、少しだけ声を潜めて言った。

「あくまで予想だが、此度の戦いは、我が国も、貴国も、ただ巻き込まれたにすぎない。この戦いの目的は、貴国と我が国に同盟を結ばせること」

 アルカードの回答に、王達はわずかに首を捻り、眉を顰める。

「それは、どういうことだ?」

「VMR、ナエビラク連合王国、アスタロト。真に標的にされているのは、アスタロト」

「なんですと?」

「貴国に攻撃を仕掛けてきたのは、恐らくアスタロトの軍勢ではない。アスタロトの軍勢に扮した、別の勢力。それがアスタロトの名を騙り、貴国を襲撃した。そして、貴国が我が国に攻め入り、戦いが終結した後同盟を組み、同盟軍としてアスタロトに攻め入ることを期待しているのではないか・・・・・あくまで、憶測の域を出ないが」

「そう思われる根拠は?」

「憎悪だ。貴国らもかねてよりアスタロトには並ならぬ怨嗟があったはずだ。それは我らとて同様だ。怒り、憎しみ、恐怖。これらの感情は時に過激な行動に駆り立てる。我らが真相を知れば、一気にアスタロトに向けられる憎悪は増幅し、アスタロトに対する敵対心が膨れ上がることなど容易に想像がつくだろう。

 小狡い誰かが、我々を利用せんとしている。その誰かが何者か、現時点では見当もつかないが、我ら同様にアスタロトに恨みを持つ者か、アスタロトを邪魔に思う者か、あるいは・・・・・」

「あるいは?」

 鸚鵡返しにした王に、アルカードは小さく溜息を吐く。

「VMR、ナエビラク、ロダクエ。この全土の支配を目論む者」

 その答えに、王達は目を丸くした。

「そんな、大それたことを考える者が!?」

「貴国らの王太子を初めとした王子、王女が殺害された事を考えると、その可能性もあるのでは、と考えただけで、実際のところはわからない。あくまで可能性の一つだ。先ほども言ったが、憶測の域を出ないし、全く見当もつかない。アスタロトがわざと我々にそう思わせて、疑心暗鬼に陥らせようとしているだけなのかもしれない。

 しかし、警戒をしておくに越したことはない。何も我々がその誰か策に乗り、兵と金とリスクを冒してまで、戦争をしてやる義理はないと思うのだが、いかがか?」

「・・・・・そうだな。敵が誰であっても、不要な戦いはすべきではない」

「これ以上、不毛な争いなどしたくはない。誰かの掌に転がされて戦争を始めるのは、もううんざりだ」

「なにしろ、その戦争をしている間に自分の国が攻撃されないと言う保証もない」

「なんの証拠もないが、我が国も貴国も、何者かに踊らされていただけ、という可能性は捨てきれんのだな。我が国も国民の士気こそ高まっているものの、実情としては戦争をする余力などない」

「我が国もそうだ。出来る事ならその者を暴き、我らと同様の目に遭わせてやりたい。叶う事ならすぐにでも報復に出たいが、もしそれが閨秀国や聖トロイアスなどであった場合、返り討ちに遭うのはこちらの方だ」

「引き下がるのは癪だ。これは侮辱に等しい」

「それは、我が国とて同じこと。しかし、敵が分からない以上、無闇に動くことは反って危険だ。報復はいつでもできる。今の時代ではなくても、次世代でも、その後でも。我々が今すべきことは、国力を高め、護国の力をつけ、その時期を忍んで待つことだ。

 もし敵が全土の支配を目論んでいるような相手なら、いずれは必ずVMRにも貴国にも攻め入ってこよう。アスタロトに恨みを持つ者であった場合であっても、再び我々を利用しようと考えるかもしれない。その時に国を守れるかどうか、今重要視すべき点はそこではないだろうか」

 王達はわずかに表情に悔しさをにじませながらも、アルカードの言葉に納得した。

 国の情勢が安定していない以上、急を要するのは戦争を起こすことではなく国を守ることだ。

 何しろナエビラク連合王国の次代の後継は全て絶たれたのだ。現王ではなく、わざわざ後継者を殺害したのは、新たな後継を擁立する間の隙を突くため、とも考えられなくはない。

 そう考えると、VMRの場合はアルカードが王である以上、狙われるのはアルカード、若しくは直接的に執政をしている山姫とアンジェロ。

 今の段階では、責める事よりも守りに徹することの方が最重要課題だ。国土、金、民、後継者、国を支える重要な柱。このいずれも、これ以上失う事があってはならない。


 王達は、いずれも和睦に応じ、調印した。

 VMRとの国交、貿易、相互扶助、相互に不可侵であること。真の敵を見出した時は、共に戦おうと言う共闘の盟約。

 一先ずVMRの方からナエビラク連合王国へ、復興資金として多少の金を助成することにし、この2国間の間でのみ国交の盟約が取り付けられた。

「国民を納得させることは難しいかもしれぬが、勝ちを急ぐばかりが戦いではない」

「国民には、いかなる手段を取ってでも理解してもらう他ない。これ以上無意味な戦いを続けては、守れるものも守れなくなってしまう」

 王達はそう言って、この戦いの無意味さを嘆き、民の心を窺い、殉死兵たちに祈りを捧げ、席を立った。



 ミナ達も立ち上がり、出て行く王達に礼を取っていると、一人の将軍がミナの前で足を止めた。

「戦場で、あの砦でお見かけしたのは、そなたか?」

「・・・・・はい」

 肯定の返答をすると、その将軍を初めとして、各王も宰相も他の将軍たちも足を止めて、ミナに向いた。

 声をかけた将軍は俄かに顔を曇らせて、ミナから視線を外し、再び入り口に視線を向けながら言った。

「あの時のそなたの目は、我々と同じ目をしていた。そなたの叫びが聞こえた。殺したのか、私達の民を、私達の財産を、と。そなたの叫びを死者が聞いたなら、涙を流したであろうよ」

「あの時、私の目の前で殺された民が哀れで、許せませんでした・・・・・怒りに任せて、私は、貴国の兵を・・・・・大勢、惨い殺し方をしました。謝って済むことではないとわかっています。ですから、いつか戦いが起きた時、この度の戦いの償いに、貴国の民は、必ず守り抜いて見せます」

「殺したのは、お互い様だ。水に流そうと言うわけにはいかないが、そなたが一人で背負う事でもない。民を戦いに駆り立てた、我々にも責任があるのだから」

 そう言うと、将軍はミナの前から立ち去り、他の王達も退室していった。



 王達が退室した部屋には、ミナ達しかいない。

「・・・・・陛下」

「私達だけなら、誰もお前を責められはしない。私達も同罪だ。好きなだけ、泣け」

「ありがと・・・・・ございます・・・・・うっ、く・・・・・」

 誰を責めればいいか、わからない。

 将軍たちも王達も、同胞を殺害した憎き敵はミナに間違いないのに、真の敵が分からない以上、双方ともに誰かに騙されていた以上、互いを恨むことを良しと出来ない。

 責められる覚悟をした。恨まれる覚悟もしていた。憎まれても仕方がないと思った。それほどの事をした。

 それでも彼らは、ミナを罵倒したりはしなかった。

 心底、自分を恥じた。彼らを甘く見ていた。彼らを侮っていた。砦の兵が言っていたように、知性が低く凶暴なだけではない。

 彼らは誇り高く、愛国心の強い種族。その為に、怒りと悲しみに駆り立てられていただけ。

 本当に国にとって何が大事なのかを考えた時、短絡的に憎むことよりも、自分たちの為政者として、指導者としての責務を果たすことを優先した。


「アウェパトリオータ」

 ミナは泣きながら、彼らのその矜持と愛国心に敬意を払い、去りゆく王達の後姿に敬礼をした。





★役職とは権力ではない。責任の所在を示している

――――――――――安藤百福

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