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コントラクト 3 ―宿命の契約―  作者: 時任雪緒
第4章 新天地で四苦八苦
63/96

思いあがりは若者の特権だ




 翌日21日、第3次元フランス。

「今7年目じゃが、まだじゃの」

「そうですかぁ」



 更に翌日22日。

「19年経ったが、まだじゃの」

「そうですか・・・」



 そして23日。

「今28年じゃ。30年かのぅ」

「ですかねぇ」



 そして24日。

「もう36年なんじゃがなぁ」

「うーん、40年なんですかねぇ」



 そして25日。

「44年過ぎてしまったのぅ。50年かのぅ」

「長いなぁ」



 そして26日。

「お母さん遅いよ! もう6年も過ぎた!」

「もう、お父さん! 待ちくたびれたよ!」

「こっちのセリフだぞ」



 やっと起きてきた。双子を預けて今日で51年目だったのだが、マーリンの話だとミナ達が25日に帰った翌年に起きてきたらしい。

「じゃぁ45年寝てたって事ですか」

「そう言う事じゃ。じゃから双子時間じゃと、双子はもう66歳じゃぞ」

「成人どころじゃねぇ・・・」

 66年の内45回誕生日を祝ってもらえなかった双子だが、双子が起きてミナ達が迎えに来る間の話を聞いてみた。



 双子の見た目がどうなっているのか、結構気になった。元々双子は途中で成長が止まってしまっていて、10歳くらいの見た目だったので、起きてきたら大人になっているのかもしれないと思っていたのだが、

「驚いたことに、縮んでおった」

 マーリン曰く、純血種は血液のみで作られる為に、能力や成長も血液に依ることになる。休眠期中に棺に寝たのは本当に正解だったようで、その期間血液を補給できなかった分徐々に力が失われていき、姿が更に子供に、5歳くらいになっていたのだと言う。

「聞けば、起きている間もちゃんと血を飲んでいたわけじゃなかったらしいのぅ」

「飲ませてはいましたけど、ちょいちょい料理挟みましたね」

「恐らくそのせいもあるんじゃろう。他の者にはそれで良いじゃろうが、純血種には栄養失調だった、という事じゃろうな」

「栄養失調ですか・・・・・」

「うぅ、なんか母親失格だ」

「今後は気を付ける事じゃな。本当に純血種は特殊なようじゃから。その代りちゃんとわしが血を与えとったで、大きくなったじゃろう?」

 双子はマーリンのお陰様か、またしてもスクスク成長したようで、見た目17・8歳くらいになっていた。

 見た目10歳時代の時点でとっくにミナの背は追い抜かれていたが、更に背も高くなって二人とも170ちょっとあるようだ。

「身長はお父さんから遺伝したみたいで良かった」

 と、ミナ似の翼。ミナに似てチビだったらどうしよう、と思っていたようだ。

「仮に私に似てチビでも、変身すれば背丈なんて関係ないでしょ」

「まぁ、それもそうだけどさ」

「それにしても、いよいよミケランジェロはアンジェロに似てきたね。ミケランジェロが小さかった時も、アンジェロが子供の時もこんな感じだったのかなって思って萌えたけど、少年アンジェロもイイね」

「いや、あの、お母さん。僕お父さんじゃないからね。間違えないでよ」

「わかってるよ! さすがに間違えないよ! アンジェロのが老けてんだから!」

「最後の一言は余計じゃね?」

「まぁいいじゃない。翼もねぇ、大きくなって。私が男に生まれてたら、きっとこんな風だったのね」

「言っとくけど性格は似てないからね」

「どういう意味よ」

「そう言う意味だよ」

「何!? 反抗期!?」

「正常だよ」

 父親に似たようだ。遅れてやって来た反抗期にムキになるミナをアンジェロが宥めると、マーリンは可笑しそうに笑う。

「ほっほ、反抗期のない子供の方がむしろ心配になるもんじゃ。翼の言った通り、正常じゃよ」

「えー、でも可愛くない!」

「いつまでも可愛さを求められても困るんだけど」

「確かにね。しかも僕ら見た目も年齢もお母さんに追いついたしね。お母さんて呼ぶのも微妙だよね」

「ちょっと! そこは譲らないよ! アンタたちは私の息子なんだからちゃんとお母さん言わなきゃダメだよ!」

「「あーもー、お母さんうるさいよ」」

 ガッツリ反抗期なようだ。ショックを受けるミナとは対照的に、アンジェロは可笑しそうだ。

「つか、ミケランジェロ、お前俺と似てんだから一人称僕ってのやめろ。なんか気持ちワリィ」

「気持ち悪いとかヒドイよね」

「そう言う言い方されたら尚更変える気になれないよね」

「こっちだって好きでお父さんに似たわけじゃないんだけど」

「何!? 反抗期!?」

「正常だよ」

 父親にも反抗的だった。悔しがる両親は家庭の特殊事情で、まともに反抗期を迎えたことがない。

 こう言う時は一体どうすべきか、と二人で悩んだが、常に反抗的なメリッサ(ミラーカ)に冷たくあしらわれていたボニーとクライドを思い出して、戻ってから二人に師事しようと考えた。



 とりあえず、目覚めてからミナ達が来る6年間の間の事を聞いた。

 どうもマーリンのお手伝いをしながら、色々魔術なんかも調べたりしたらしい。元々魔力がある吸血鬼として生まれ育ったこともあって、案外魔術は使えるようだ。その為に、自分達に生まれる前に駆けられた魔法がどんなものであるのかも判明したようだ。

「具体的にはどういう魔法なの?」

「ヒミツ」

「いーじゃん! 教えてよ!」

「ダメ、ヒミツ」

「なんでよ! ちょっとくらいいいじゃん!」

「「ちょ、お母さんウザい」」

 双子の腕を揺すって食い下がると、そんな反応が返ってきた。なんとなくアンジェロと出会ったばかりの頃のアンジェロの対応を思い出して、嫌なところが似てしまったと悲しく思った。

 どうやらアルカードとミナの間での師弟関係の術の秘密の事を根に持っているようで、教える気はないようだ。しょうがないので話題を変えた。

「二人は何を勉強したの? 何が得意?」

「“シュレディンガーの猫”」

 首をかしげると、そう言ったミケランジェロが目の前にあった花瓶に両手をかざして、何かをブツブツ呟く。すると花瓶の下に魔方陣が浮き上がって、花瓶を白い光で包んだ。

「ここだけ、別の空間になってる」

「この空間の中では、何が起きるの?」

「見てて」

 見ていると、触れてもいないのに花瓶がカタカタと小さく震えだして、少しするとパッと消えてしまった。

「なに? これ、転移?」

「ううん、違うよ。この空間の中では、存在する確率が変動する」

「なるほど。だから“シュレディンガーの猫”ね。よく思いついたね、量子観測による並行世界の確率の分岐って事でしょ。ミケランジェロ、すごいねぇ」

「んー、思いついた時はね、僕って天才! とか思ったけど、実際これやるとスゴイ疲れる」

「確かに疲れそうだな。確率の分岐とか意味わかんねぇし」

「まぁ、お父さんはわからなそうだよね」

「どういう意味だ!」

「そう言う意味だよ」

 やっぱり反抗的なミケランジェロ。数日会わなかった(双子には長期間)だけでこれほどの変貌は、いっそ情けなくさえ感じる。



 反抗的な長男の態度に打ちひしがれるアンジェロはさておき、続いて次男に聞いてみた。

「僕は、“ユグドラシル”」

「って、なに?」

 そこは「見てて」だ。見ていると翼もミケランジェロと同じようにテーブルに手をかざし、するとそこに魔方陣が浮き上がる。

 驚いたことに、消えたはずの花瓶がパッと現れた。

「どゆこと!?」

「イメージを具現化させるって事だよ。といっても、具現化された物体は永遠じゃないし、具現化できる対象にも限界はあるけど」

「えー、すごーい! 意味わかんない!」

「“ユグドラシル”っつーのは、世界樹の事だ。世界を内包し構築する樹」

「えー、すごーい!」

 パチパチと双子に称賛の拍手を送ると、双子は当然ながらマーリンも満足気に笑っている。

「本当に双子は将来が楽しみでの。双子の魔法は一見すると相反する能力じゃが、それも面白いじゃろうて、二人が揃った能力を勝手に“オルトロス”とつけてやったわい」

 オルトロス―――――オルトロスの犬とは神話に出てくる双頭の犬の事だ。



 存在するはずの物質の確率を変動させてしまう能力と、存在しないはずの物質を構築してしまう能力。

「すごいね、明らかに人外って感じ」

「や、生まれつき人外なんだけど」

「お母さんも人外なのに、何言ってんの」

「うるさいな!」

「お母さんうるさいし」

「お前らなぁ・・・・調子乗んな」

「なに? お父さん自分にできないからって僻んでんの?」

「違ぇよ! お前ら思い上がりも甚だしいな!」



 思い上がったオルトロスの犬は、反抗期真っ盛りだ。


★思いあがりは若者の特権だ

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